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侍女は少女に負けられないっ!  作者: 有坂加紙
第二章 新米侍女は掴めない
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彼のことが、掴めない その10


 ルイスに連れられてやってきた執務室。

 廊下に佇む不寝番(ふしんばん)の近衛騎士が浴びせる視線が痛い。それをものともしない王子と、肩を縮こまらせた侍女。無人の執務室に入り込んだ二人の後ろでドアが閉じた後、残されたのはただ静寂のみ。魔導灯で照らされっぱなしの部屋が、なぜか寒々しく思えた。


 夜。密室に若い男女が二人きり。王族であろうがなかろうが、あまりいい状況は思い浮かばない。

 ふと、先日義手を受け取る時に揶揄(からか)われたことを思い出した。あの時はまだ、コーティだって「抱きますか?」と冗談を言える余裕があったのだが、今に限ってはそんなことを言える雰囲気ですらない。


 理由は簡単。ルイスが、普段被っているはずの猫をかなぐり捨てていたから。


「余計な話は抜きだ。コーティ・フェンダート」

「……はい」

「俺はお前の≪白猫≫討伐に手を貸し、代わりにお前は俺に忠誠を誓う。期間は≪白猫≫を討ち滅ぼすまで。それが俺とお前の間で結んだ契約だ。ここまでの認識は間違っていないな?」

「はい」


 ルイスは立ったままで執務机の前に仁王立ち。普段は椅子にだらしなく腰かける彼だが、その気になった時の姿勢はまるで一本の筋が通ったよう。彼の青い目線に促されて、コーティは主の前まで進み出た。


「だが、だからと言ってお前は俺を信用しきれないだろう? そして俺もまた、お前を信用していない。……そもそもが互いに得体のしれない人間だ。俺の言葉を鵜呑みになんてできないだろうし、そもそも俺も、我儘王子の話を馬鹿正直に受け取るような人間を側仕えにしたくはない」

「……はい」

「その点、お前は合格だったよ。……ロザリーヌに色々聞いていたみたいじゃないか。次は誰だ、姉上にでも探りを入れてみるか? 喜べよ、姉上は俺の弱みなんてこれでもかって程知ってるぞ」


 コーティは口元を引き結んだ。無表情を被って、頭の整理をつける。

 なるほど、こちらが彼の弱みを探ったことまでお見通しという訳だ。話し方から察するに、推測なんて簡単にできたのだろう。


 どこで襤褸(ぼろ)を出したのだろう、と問いかけた脳裏に、「似ている」と言われた記憶がよみがえる。

 ……まさか、彼と自分が似ているから? 彼が考えそうなことを自分も考えてしまった? 内心混乱だらけのコーティのことなど気にせず、ルイスは続けた。


「話を戻そう。一応は結ぶことのできた我々の契約だが、大きな問題がある。……先程も言った通り、互いが互いを全く信用していない。これでは≪白猫≫討伐など夢のまた夢だ」


 思わずたじろいだコーティ。けれど全く動じないルイスはお構いなしに続ける。


「だからこうして呼び出した訳だ。わざわざお前の外出中を狙って寮に行ったのは、同僚から情報を聞き出すため。毎日彼女たちから色々詰め寄られてるみたいだな、あらぬ噂が広がるのは謝罪しよう」


 こちらの手札が割れていた驚きと、その確かめ方が色々問題だという憤り。そして、目の前の男に対して跳ね上がっていく警戒心。それらが混ぜこぜになって、しかしどうにかできる気もせず、コーティは無言を返答にした。


 ルイスから見て、自分は弱みを探ってくる侍女。

 彼の思惑が読めない。密偵の一種と勘ぐられた? 警告でもされるのか、それとも罪人として罰するつもりか。


 想定されるルイスの対応と、その対抗策。戦闘員として育てられたコーティだ、部屋の構造を無意識に探るのは、半ば癖のようなもの。いざとなったら力づくでも情報を奪い取ってやろうか。

 けれどその一方で。そのいずれの対抗策も使う必要がないことを、コーティのどこかは確信していた。


 コーティは、未だに彼のことが掴めない。けれど彼と自分はよく似ていると人は言う。

 ならば、彼が自分をここに呼び出した目的は……。


「という訳で、俺から提案がある」

「提案、ですか」

「互いのことを伝え合おう。今日ここで、俺とお前と腹を割って、互いのことが少しは掴めるくらいまで。……一応言っておくが、これはあくまで提案だ。乗るかどうか、選択肢にはコーティにもある」

「……」


 散々脅すようなことを言っておいて、肝心の提案がそんなこと?

 腹を割って話をする。ロザリーヌからも、ライラからも聞いた台詞だが、コーティは未だに踏ん切りがつかない。彼の誘いは、よく知りもしない男に己の鬱屈(うっくつ)した心の内を差し出すことに他ならない。それこそ体を差し出した方がまだマシかもしれない選択だ。


 そして問題はもう一つ。コーティは未だに自分の心の内を整理できていない。自分で、自分の心が分からない。まるで泥沼に肩まで浸かり切ったような心の中を、果たしてどうやって伝える?

 そんなコーティの葛藤を見抜いたのだろう。ルイスが静かな声で続ける。


「もしこの提案を飲んでくれたならば……。今日俺は≪白猫≫に会った。その情報をお前に渡そう」

「……え!?」


 予想外もいいところの言葉に、思わず右足が前に出た。もう駄目だ、これ以上無表情の仮面をかぶり続けるなんて器用な真似、コーティにはできない。

 こちらが食いついてしまったのが分かったのだろう。ルイスは笑みをこぼすのを見て悟る。最初から、彼の方が何枚も上手だったのだ。自分はどうやら、主の手の平の上で転がされていたらしい。


 その笑顔も演技か、どれが本当の彼だ?


「今も昔も俺の周囲は、腹の内で何を考えているのか分かんねえ連中ばっかりだ。下手に信用して裏切られるのはまっぴらでさ。……今はお前もそんな信じられない奴の一人だよ。それは正直好ましくないんだ」


 ≪我儘王子≫の皮を捨て去った彼は、けれどなぜだろう、どこかに緊張を滲ませているようにも見えて、侍女は困惑する。


「この間の襲撃の後、コーティがまだ医務室にいた頃に行った尋問の内容は聞いた。……お前、≪鱗の会≫に勧誘されたことがあるって話してたそうだが、嘘だな。わざと近づいて情報を受け取っていたんだろ」

「……」

「で、いろいろ想像してみたよ。多分、俺に取り入ろうとしてそんなことをした。そうでなくては、あの夜の襲撃に介入するなんて不可能だから」


 ルイスの青の瞳が揺れる。コーティの黒の瞳も揺れる。


「それじゃあ、俺にとっての次の問題はこれだ。そこまでして、突然割り込んできた教会の女。一体目的は何だ? 正直、散々悩まされたよ」

「……」

「裏でコソコソされるのも嫌だったんで、俺は一計を案じた。お前を侍女に任じて俺に近づけ、襤褸(ぼろ)を出させようと。……まあ、確かにその右手の罪滅ぼしと言う線もあったけどさ」

「それで、わざわざ側仕えに任じた……?」

「そういうこと」


 ゾッとした。最初から、彼は全てに感づいていた。それでいて、コーティは泳がされていた。

 今まで馬鹿にしすぎていたけれど、分かったつもりになっていたけれど。もう認めざるを得ない。彼は人を統べる側の者、紛れもなく王の一族だ。

 唾を飲み込む。生身の左手をかすかに震えさせるこの気持ち。言葉に表すなら、多分、畏怖だ。


「実際さ、義手つける時の一芝居で、お前はコロッと騙されてくれただろ? それでもって……」


 それなのに。


 コーティの目の前で、こちらを翻弄し続けた彼が、一瞬で崩れた。

 硬い表情から一変、プッと噴き出してくすくすと、さもおかしそうに。先程の不機嫌さの方が演技だったとでも言いたげに、晴れやかで、素直な笑顔だった。


「そんでもって、言うのが≪白猫≫のこと。もう俺は可笑しくてしょうがなかった」

「何が、です……?」

「いや俺さ、お前のことをどこぞの隠密だと思っていたんだよ。国内の政敵か、国外に買収されて遣わされて来たんだろうなって。命を救って売った恩を盾にして、俺のこと上手く利用しようとしてるんじゃないかと思ってさ。腕吹っ飛ばすことも厭わないから、とんでもない奴だと感心までしたのに」


 ニコニコと笑いながら、彼は言う。


「コーティときたら、見事にボロ出して、あたふたして。……それで出て来た答えが、≪白猫≫をこの手で倒すって。あんな小娘、勝っても負けても関わった時点で馬鹿を見るって分かりそうなものを。さも大真面目な顔して、復讐のためにって、馬鹿みたいにさ」

「そ、それのどこが面白いのですか……!」


 彼の態度に委縮していたはずの怒りが戻って来て、コーティは左手を握りしめた。

 怒ることができる。つまり、彼がそれを許してくれているのだと気付くまで、しばしの時間が必要だった。


「いやごめん。誤解させちまってるけど、そうじゃない、そうじゃないんだ。俺が言いたいのは別のことでさ」


 笑い過ぎたせいで滲み出て来た涙をぬぐい、彼は微笑む。


「なんだか嬉しくって」

「は?」


 もういっそ途方に暮れながら、コーティは疑問をそのまま口にした。

 誰がこんな男に似ているだって? ロザリーヌに文句を言ってやりたい。


「みんな親父のご機嫌取りばっかで、やがてはただの利権争いに落ちていく。俺がガキの頃はいつだってそんなんだった。戦後、全部変えられちまって、親父を持ち上げてた連中は揃って手のひらを返したもんさ。でも俺だけは親父の息子としか見られなくて、俺に近づいてくるのはそんな奴らばっかり」

「……」

「そんな中で……コーティ、お前だけは馬鹿みたいに一つの物事しか考えてなかった。直情的で短絡的、なのに臆病。一見頭良さそうに見えて、蓋を開けたらお前すっげえ間抜けでさ。そこらにいそうな単純なガキと何も違わない。……なのにここにいる、わざわざ俺なんかに近づいて来る」


 ひどい言われようなのに、けれどコーティに怒りは湧かなかった。理由は多分、彼の声色にコーティを(あざけ)る色がないから。ただただ嬉しそうに、宝物を前にした子供のように、無邪気な顔で彼は言う。


「だから好ましく思った。すべては≪白猫≫がどうとかって、そんな阿呆なことのため。俺に取り入ることなんて二の次で、情報さえもらえりゃそれでいい、そんなお前の姿勢が眩しかった。だから手を貸したいと思えたんだ。……うーん、これでも自分なりに整理したつもりなんだけどな。やっぱうまく言えねえや」


 彼の口調が変わったことに、コーティは気付いてしまった。

 先程まで為政者の威厳を見せていた次期国王、そんな彼はもうどこにもいない。目の前の男に、王の貫禄は欠片も見えない。今のコーティは生身のルイスと話している。そんな気分だった。


 彼は今、コーティの前で心を曝け出している。彼の頬が少しだけ赤らんでいるのは、きっと恥ずかしいからに違いない。それでも話してくれたのは、コーティが困っていると分かってくれたから。


 コーティは気付いた。気付いてしまった。

 彼が何を言いたいのか、何をどうしたいのか。それが確信となって胸の底に落ちた。


 すごく回りくどい言い方をしているけれど。たぶんこの人、コーティを信じたいだけなんだ。それこそ、コーティがルイスを信用したいと思うのと同じように。


 ごくり、と唾を飲みこむ。

 踏み出すなら、問いかけるなら、理解したいと思うなら。

 彼のことを掴みたいなら。機会は彼が彼でいてくれる、今しかない。掠れた声で、侍女は問う。


「……お聞きしても、いいですか?」

「ああ。俺に答えられることなら」

「この復讐が成功したら、私はきっと様々な人から追われて、すぐに殺されることでしょう。……私だってそれくらいの覚悟は済んでいます。だからこれまで、私は一人でやってきたんです」


 コーティだって、馬鹿だが楽天家じゃない。これでもちゃんと分かっているのだ。自分が突き進んでいるのは、間違いなく破滅へとつながる道だと。

 誰かを巻き込むつもりなど最初からなく、だから他人とは利用するものだった。それは上司であるロザリーヌに対しても同じこと。情報を取るために近づいたつもりだったし、それはルイス相手でも変わらない。例え王子だからと言って彼への態度を変えたつもりはこれっぽっちもなかった。

 そう。恐々と開いた目に銀の義手が映る、あの日まで。


「そんな私に協力したら、どう考えたってあなたも無事ではいられません。……なのに、なぜ?」


 けれど、目の前の王子は違う。コーティの目的を知ってなお、嬉々として手を貸そうとする。そんな奇特な人間に出会ったのは初めてで、コーティは戸惑いが隠せない。


 ああ、そうか。だから自分は困っているのだ。彼のことが掴めなくて、困っているのだ。


「俺さ、ずっと怖かったんだ」


 はじめて見た、彼の素顔。肩の力を抜いて、けれどどこか恥ずかしそうに……ああ、彼はそんな顔もできるんだってコーティの心臓が跳ねて。


「俺は親父の駒になるために生まれた。考える駒はいらない、だから誰かに従っていればそれでよかったんだ。あの戦争まで」

「……戦争」

「親父の悪事が明るみになって、≪六の塔≫に収監されて、国が滅茶苦茶になっちまって。……俺のしてきたことは全部無駄になっちまって」


 その言葉に、コーティが自分の過去を重ねたのは何故だろう。

 スタンピードに関する教会の自作自演が白日の下に晒され、その首謀者である枢機卿は死に。コーティたちの努力が全て無に帰した時のこと。何故かふっと脳裏によぎらせてしまった。


「なのに、どいつもこいつも言いやがる。……『これからは自分で考えなくてはなりませんよ』、『あなたは王族なのですから、いつまでも他人に頼っていてはいけないのです』ってさ」


 その思い出に、コーティが自分の記憶を重ねたのは何故だろう。

 『あなたたちは枢機卿に洗脳されていたのです』と、王都から来た偉い人はそう言った。『これからは、洗脳を跳ね除けるだけの判断ができるようにならなくてはいけませんよ』とも。何も知らないくせに、ふんぞり返って。


「……なんだよそれ。みんなずっと、親父に従えばいいって言ってたじゃないか。話が違う。今更自分で考えろだなんて、出来る訳ない。……俺がそんなことしたら、それこそ親父の周りにいた権力者が一斉にたかってくる。今度こそ俺、利用されて捨てられるに決まってる」


 独白するルイスは、とても苦しそうで。

 そんな彼の気持ちが、コーティにはよく分かる。戦後三年間、コーティも今の彼と同じ顔をしていたから。


「俺、怖くてさ。だから逃げてたんだ、ずっと。そしたらいつの間にか≪我儘王子≫なんて呼ばれててさ、これは良いと思って、そう呼ばれていることを利用して、本当に我儘ばかり言って」


 すっと、彼の青の瞳がこちらを見た。


「そんな時だよ、お前に助けられたのは」

「私……?」

「突然飛び出してきて戦い始めたお前にビビった。腕吹っ飛ばされて、それでも立ち向かおうとしていたお前にビビった。そこまでして、俺に近づいて何をしたいのか分からなくてビビった。騙して聞き出した目的が、予想の斜め上もいいところでビビった。それで、思ったんだ」


 彼は執務机から体を離して、一歩、二歩。コーティよりも背が高い彼は、思わず後ずさりしかけた侍女に追いついて、けれど肩を緊張にこわばらせているように見えた。


「お前を見ていれば、俺も変われるかもしれないって。俺が今コーティを侍女にしているのは、それが理由だ」


 目の前に佇む彼は、コーティよりも背が高い。それなのに、何故か同じ目線に立っているように見えた。


「俺は自分を変えたい。こんな臆病な自分を、変えたい。そのためなら、≪白猫≫討伐にでもなんでも付き合う」


 ――自分から変えようと思わなきゃ、変わらないよ。


 いつぞや風呂場でそう言ったのはライラだったか。


「俺のこと、好きなだけ利用してもらって構わない。俺の知恵ならいくらでも頼ってもらって構わない。だから少し、ほんの少しだけでいい。お前が歩く破滅の道を、共に歩ませてくれないか?」

「……復讐したところで、何一つ変わらないのに?」


 コーティはそうっと問いかけてみる。

 本当は、自分だって分かっているのだ。≪白猫≫を殺したところで、この気分は晴れやしない。コーティがかつて忠誠を誓った教官は、もう二度と戻ってこないのだから。


 信頼していた。認められて誇らしかった。特別扱いしてもらえて嬉しかった。彼のために在りたいと願った。


 その人を、殺された。

 まるで、自分を殺されたような気分だった。どうして彼の盾にならなかったのかと、自分を憎んだ。


「……私は≪白猫≫を殺った後のことなんか知りやしません。自分が憎しみの炎で焼け死んだって構いません。あなたがおっしゃったとおり、これは破滅にしか繋がらない道です」


 全てを飲み込んだ上で、コーティは侍女服を着て彼の傍にいる。自分の命が惜しければ、端からこんなことしなかった。


「……悲しい道だ。俺も全てを肯定はできない」

「なら……!」

「けれど、コーティがそうせずにはいられないことも、分かってしまうから」


 心臓が音を立てて跳ねた。

 ああ、よく似ている。彼と自分は、同じものを追い求めている。


「……もしも、私という女を仕方ないと思っていただけるなら。それでも私に知恵を貸していただけると、そうおっしゃっていただけるのなら」


 確かにその心は、伝わった。

 侍女は烏の濡れ羽色の瞳で、王子の海の色の瞳を見て、震える声で囁いた。


「私はあなたに心からの忠誠を誓いましょう。その日が来るまで、私があなたの右腕です」


 彼がそうっと、手を伸ばす。

 はじめてまじまじと見た彼の手。侍女が勝手に想像していた、細くて手入れの行き届いた、繊細な手などではなかった。機械油が爪の間に入り込み、関節が太くなった、筋張った男の手だった。

 小さな魔法を使って、義手の中にある歯車を回す。力が機構に伝わって、それは指を動かす。義手の先端でカチリと握り返して、コーティは片足を静かに床へつけた。


「だから、ルイス様。私にそっくりなルイス様」


 小さく息を吸いこんで、コーティは口元をそっと上げた。どうだろう。自分は今、ちゃんと微笑むことができているだろうか。


「どうか私に手を貸して。奴を倒す、その日まで」


 ルイスもまた、コーティの二本指を握り返して笑った。


「ああ。改めて、これからよろしく頼む。コーティ」

「はい。その時が来るまで、私はルイス様の御心のままに」


 滲む魔導灯の下、窓辺で密約を交わす二人を月の光だけが見守る、そんな夜のこと。


 かつての戦争から三年。

 一人の侍女が、一人の王子に忠誠を誓った。


 錆びついた時計の針がようやく進んだ、そんなコーティの休日のことだった。


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