6.悪魔の契約
色々と話し合った結果、悪魔に抱く印象は"傲慢、そして強い"であった。
あの時はパニックで頭が回っていなかったが、冷静に考えればこの悪魔からは直接的な被害を受けていない。むしろ殺されかけたところを助けられたとこまである。
ここ一週間の会話の末、憂はこの悪魔を「何をしでかすかは分からないが、話は出来る存在」と認識する事にしたのであった。
「……なぁ、悪魔。契約って具体的に何なんだ? 教えろよ」
『この俺に対してその言い草とは……まあ良い、そろそろしようと考えていた所だ』
悪魔との契約をつい勢いでしまった憂。当然、悪魔の契約なんて知らなかった。このままでは余りにも危険すぎるし、案外悪魔の乗る気なので教えてもらう事にした。
『そもそも契約とは"悪魔の力を人間に貸し与えるもの"だ。人間一人につき悪魔一柱と契約する事が出来る』
「……それだけ?」
『それだけとは何だ。俺の力はお前も見ただろう』
「あぁ、アレね……」
あんな非現実的な出来事、直ぐに忘れるものか。
ふと憂は当時の事を思い出す。確かあの時の悪魔の目は紅の目をしていた。そしてそのままねじ込まれた右目を鏡で見てみるが、映っているのは"黒い瞳"であった。
「そう言えば、お前。あの時が目が紅くなかったか?」
『あれこそ悪魔との契約の証、《魔眼》だ。力を使わぬ限り変わらん』
「魔眼なぁ……なぁ、本当にこれだけか? 契約というにはあまりにも」
『都合が良過ぎる、とでも思っているのか?』
「……」
言いたい事を当てられ口を閉じる憂。物語とかで出て来る"悪魔の契約"のようにもっと悍ましいものだと思っていたからだ。少なくとも代償の無い契約など聞いた事が無かった。
『安心しろ。悪魔は人間の生気を餌にする、その為の契約だ。何、生気と言ってもすぐに死ぬ訳ではない』
「どこが安心出来んだよ……でも、まだその方が理解出来る」
悪魔の言う事には一応の筋が通り、憂は渋々納得する。
しかし、悪魔の話はまだ続いた。
『良い加減外に出ろ、憂。このままでは俺の気まで滅入りそうだ』
「っへ、悪魔にも"気"なんてもんがあんだな……出られるならとっくに出てるっつーの」
『では何の問題がお前にはあると言うのだ。外も随分静かになった。蛆虫共はどうやら死んだらしい、絶好の機会ではないか』
「いやいや死んではないから」
とはいえ悪魔の言う事も一理ある。事件からもうすぐ二週間、「そろそろ出ても良いんじゃないか」と心の何処かで思っていた。
憂は意を決し、ドアを開ける。
だが、タイミングが悪かった。
「う、憂!! あなた、部屋から出て平気……なの?」
様子を見に来たのか、部屋を出てすぐ母と対面してしまった。不安気な亜梨実の表情に、罪悪感からか憂は顔を下に向ける。
「……うん、大丈夫」
「そう、良かった……」
「…………」
「少し、お茶にしない?」
「……分かった」
そうして言われるがままにリビングに向かうと、亜梨実はホットミルクを注いだマグカップを憂に差し出す。一口飲み、一息つく。そして少しの間が開き、亜梨実から話し出した。
「どう、少しは落ち着いた?」
「うん、だいぶ平気になってきた…………それと母さん。俺、明日から学校に行こうと思うんだ」
「ッ!!」
突然の登校宣言には目を開いて驚く亜梨実。
「……大丈夫なの? 無理しちゃ駄目よ?」
「大丈夫。良い加減前を向かないと…………灯央の為にも」
「そうね……憂がそういうならもう何も言わないわ。でも、いつでも休んで良いんだからね」
「はいよ」
「ふふ。じゃあ今日は早く寝ないと、おやすみなさい」
「おやすみ、母さん」
ミルクを飲み干し、憂は自室のベットへと戻った。
「学校かぁ……」
『どうした、今更怖気づいたか?』
「うるせ、いややっぱ怖気着いたわ。行きたくねぇ……」
母の手前、見栄を張ったものの実際は不安で堪らなかった。
二週間ぶりの学校。スタートダッシュも遅れ、第一印象は最悪だろう。
『早く寝ろ臆病者』
「はいはい」
(明日の事は明日の自分に任せよう)
現実から目を背けるように、憂は眠りについた。
「次の獲物はアイツにするかァ……!!」
夜闇に光る"紅の右目"。
しかし、それに気付く者は誰も居なかった……
風の噂でアクションだと評価貰いづらいらしいですね……そんな中評価してくれる人は大切にしたいものです。
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10話まで毎日24時に投稿予定
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