4.久方振りの世界
「貴方は偉大なる"神の贄"ぇ……こんなに光栄なことはぁりませんょぉ?」
おちゃらけながらナイフに滴る血で床一面に絵を描く灯央。黒い本を見ながら描いた絵はまるでアニメに出て来る魔法陣みたいだ。
「つぃにぃ、つぃにぃ!! この時が来たのですぅ!!!! 我らの悲願が果たされるこの時がぁぁ!!!!」
灯央は目を限界まで開き両手を天井に向けて大きく上げると、触発されるかのように絵は赤く、紅く光り輝き始めた。
「さぁ!! 我が神よぉ!! 世界を変ぇる大ぃなる神よぉ!! 現世にぃ、その偉大なる姿を現しくださぃませぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」
それはこの世のモノとは思えない程、残酷で、幻想的な光景__
「ぁははははは!! 祝福をぉ!! 再臨の儀に祝福をぉぉ」
『くだらん』
「ぉ……はぃ? 今ぁ、なんでぶぅっ!! ぁ、ぁぁ……」
その声が聞こえた瞬間、灯央は血を吐き出しその場に倒れ込んだ。
「ぁぁ、また、です、かぁ……」
灯央は掠れた声でそう呟き、ゆっくりと瞼を閉じた。
(な、何が起きて……)
一方、一人残され何も理解出来ず混乱している憂。
何故縛られているのか、何故目を抉ったのか、さっきの光は何なのか……考えれば考える程分からない。一つだけ言えるのは「灯央が血を吐いて倒れた」という事。もしかして「灯央が死んだのでは」と憂の頭の中をよぎった。
だがその考えはすぐさま否定される事になる_____灯央が立ち上がったからだ。
「あぁ……久方振りの世界だ」
それは灯央ではない別の"ナニカ"。灯央が黒服に着替えた変わり様とは根本的に違う。まるで人間を超えた化け物のような、どす黒いオーラが体中から溢れ出していた。
「ふん。この体では直に死ぬな…………ん? なんだ、丁度良い人間が居るではないか」
そう言って化け物は憂に近づくと、"手刀"で猿ぐつわを断ち切った。
「がっぁぁ!!!!」
まるで決壊したダムのように口の中に溜まっていた涎や胃液が溢れ出る。そして部屋の腐臭を吸い、もう一度ゲロを吐く憂。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「人間、俺と契約しろ」
「はぁ、はぁ、お前は……誰……だ」
息絶え絶えになりながらも憂は化け物に尋ねた。「お前は誰だ」、と。
そんな憂の態度が気に入ったのか、はたまた違うのか。化け物は三日月のような笑みを魅せ、こう答えた。
「我は悪魔、地獄より召喚されし悪魔なり。恐怖にひれ伏せ……人間」
悪魔_____その言葉が嘘でない事を無意識に理解してしまった。
「悪魔……だって」
「そうだ」
「て、灯央に何したんだ……!!」
「テオ…………あぁ、コレか。ほれ」
「ッ!!」
そう言い悪魔は赤く染まった服を捲り腹部を晒すと、そこから見えたモノは"赤い皮と白い骨"____内臓が全て消えていた。
「は、はは……何だよ、それ……」
憂は初めて人の内部を見たがもはや吐けるモノは無く、乾いた笑いしか出て来なかった。
「灯央は俺を呼ぶ為の贄となって"死んだ"」
「…………だ」
「まぁ、そんなことはどうでも良い。契約するのか、しないのか。早く答え」
「……嘘だ」
「……ぁ?」
しかし憂は言葉を、目の前の光景を信じる事が出来なかった。
「嘘だ嘘だ嘘だ!! そんな訳ない!! 灯央が僕を殺そうとした? 灯央に利用されていた? 灯央が……死んだ? ありえない…………全部全部全部ありえない!!!! ……そうだ、これは夢。夢に決まっている!! じゃなきゃ灯央が死ぬ訳がない!! お前なんて、悪魔なんて嘘をつくんじゃねぇぇええ!!!!」
ボロボロの心を守る為に必死に叫ぶ。悪夢から目覚めるように、この現実から逃げるように、必死に叫ぶ憂。
でも、悪夢から逃げる事は出来なかった。
「俺を"嘘"と言うか……ふは、ふはは。ふははははは!!!! ならば証明しようじゃないか。俺の、悪魔の力ってヤツをなァア!!!!」
「何を、言って……ッ!?」
化け物が「悪魔だと証明する」と宣言した瞬間、右目が黒から赤に_____紅に染まっていく。
「朽ち行く身体でも一発程度は耐えるだろう……ッ!!!!」
空間の揺らぎが直に伝わる。憂はこの超常現象から目を離す事が出来なかった。
「とくとその目に焼き付けるが良いッ!! これがァ!! 俺のォ!! 力だァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
化け物が叫んだ瞬間、右目からまるで生き物かの如くうごめく"衝撃波"が放たれた。
人知を超える現象____悪魔の証明が果たされてしまったのだ。
そして放たれた衝撃波はそのまま憂の真横を通り過ぎると、爆発のような轟音を鳴らしながら後ろの壁を跡形もなく吹き飛ばしたのであった。
「ふむ、やはり威力は落ちているか……だが、証明にはなったであろう?」
「…………」
「さて、人間。契約するのか? しないのか? 答えろ」
「…あ………ぁ……」
たった今起きた事実を受け入れられず茫然とする憂。放心状態であり、もはや思考すらままならずにいた……が、思考停止は余りにも最悪だ。
「ふははははは‼ 嘘吐き呼ばわりした後はこの俺を無視するか……良い加減にしろよ人間。契約しないのなら今すぐに殺して」
「ッ!! す、する!! するから、だから……ッ!!」
"滲み出る殺意"、既に精神が限界を迎えている憂が耐えられるはずも無く、勢いに任せ了承してしまった。それを見逃すわけもなく、目の前に立つ化け物。
「そうか、では始めるとしよう」
そう言って悪魔は"自分の右目"を抉り取り、それを空っぽになっている憂の右の眼孔に捻じり込む。
ぐちゃ……ぐちゃ……ぐちゃ……
脳みそを直接いじられているような、異物でかき回される音が頭の中に響く。
「あぅあえうぉぁ……」
憂はその苦しむに耐える事が出来ず、いつの間にか意識を失ってしまうのであった。
初日に見てくださった方々ありがとうございました。
まぁ、こんな非現実的なの夢だって思うよね。
10話まで毎日0時投稿予定、評価よろしくお願いします。