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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
第二章:パパ活少女と妹の話
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第二章35.彼への想い

「春瀬くん。また随分無茶したね?」


 青葉は話しかける。

 赤佐宇花の能力から開放され意識を取り戻した春瀬に。

 何も告げず独断専行して能力を酷使した男に。


「何度も言うけど君、本当に消えちゃうよ?」

「あはは……けど誰かが居なくなるくらいならその方がずっと……ゔっ!」


 へらへらと言い訳する春瀬。

 その彼の腹部に青葉は拳を押し当てた。


「一発、つぼみちゃんからは許可貰った。自分が嫌なことを他の人に押しつける馬鹿な男は殴られなきゃ分からないみたいだし」

「……すみませんでした。心配かけて」


 ようやく非を認め謝罪する男に嘆息する。

 言ってやりたいことは山程あったが、手短に済ませる必要があったので本題に入る。


「それで、凪ちゃんはどうする?」

「そうですね……問題なければうちで預かろうかと」

「大丈夫? つぼみちゃんは許してくれる?」

「少し不安ですね……でもきっと大丈夫ですよ。宇花さんとも仲良くしてくれていたみたいなので」


 赤佐凪は一人になってしまった。

 あの少女が姉以外に心を開いてくれる姿は想像つかない。

 となれば最低限交流がある春瀬達と暮らすのが最善だった。

 そう、赤佐宇花はもう居ないのだから。


「宇花さんは……本当に大丈夫なんですか?」


 春瀬は赤佐宇花の結末を知らない。

 それを知っているのは本人と青葉の二人のみ。

 その青葉に聞いても、こう答えるのみだった。


「大丈夫。宇花ちゃんは今も頑張ってくれてるよ」







 青葉と別れた後、それぞれが帰路についた。

 春瀬と帰路を同じくする者は本人含め3人。


「凪さん。本当に元の家に帰らなくて良いのですか?」

「うん。絶対帰りたくない」


 以前と比べ赤佐凪は流暢に話すようになった。

 元々能力によって抱えきれないほど大量の記憶を保持していたが故に脳障害を引き起こしていたらしい。

 そして凪はそれを手放した。


「あんな人達家族でもなんでもない。私の家族はただ一人……あれ?」


 手放したくなかったであろう本人の記憶も失った。

 凪が持っていた、姉との思い出を全て。


「家族ってなんだっけ……なんでお父さんとお母さんのこと、嫌いになったんだっけ……思い出せないけど……嫌いなのは忘れてない。だから家には戻りたくない。ダメ?」


 凪はきっと宇花のことを覚えていたらもっと取り乱していただろう。

 だからこそ、宇花は妹の元を去る前に記憶を奪っていった。

 理解はできるが……全てを知っているこちらとしてはやるせない気持ちでいっぱいになる。

 そしてそれは、この場にいるもう一人の少女も同じだったようだ。


「ダメじゃない。私も、凪さんと一緒に暮らしたい」


 つぼみは凪の目を見て真剣に話す。

 自分より小さな少女の片手を両手で握りしめて。


「嬉しい。なんか……お姉ちゃんができたみたい」

「! ……っ……」

「? つぼみ……泣いてる? どこか痛い?」


 つぼみは膝を折り、それ以上声を発せなくなってしまった。

 凪からすれば深い意味のない言葉。

 しかしそれゆえ、無意識に姉を求めてしまっているのではないかと深読みしてしまう。

 つぼみに代わり、春瀬も凪の手を取り告げる。


「そうですね。これからは僕達を家族だと思ってくれると嬉しいです」

「うん。そうする」


 春瀬らは歓迎し、凪はそれを受け入れる。

 赤の他人から始まった家庭、同居者は現在は3名。

 いつか4人で暮らせる日が来ると信じて……。







 その夜、凪を寝かしつけた後のこと。

 久々にすら思える二人きりの時間に春瀬は……土下座していた。


「その……この度は大変ご迷惑をお掛けしました……」


 つぼみはソファに座り、冷たい視線で見下ろす。

 それだけに飽き足らず、起き上がれないように春瀬の頭に足を乗せた。


「こういうのはご褒美になるんでしたっけ? 春瀬さんはロリコンさんですし」

「え? いや嬉しくは……あっなんでもないです。心ゆくまで踏み潰してください」


 反論すら許されない空気に圧倒される。

 何故これほどまでに虐げられているかと言えば、当然今回の一件での春瀬の行動が原因だった。


「『契約内容はこれから何があっても、私とずっと一緒にいることを他の何よりも優先すること』……覚えてますか?」

「はい……」

「じゃあその上で行動したと。契約違反ですね?」

「申し訳ありません……」


 つぼみと再開してすぐに交わした契約。

 春瀬としても忘れたつもりはないものの、自分の行動を省みて何も反論できなかった。


「なにも助けるなと言ってるんじゃないんですよ。ただ春瀬さんが居なくなるくらいなら私も春瀬さんと一緒に消えたい。けどそれは春瀬さんの望みではありませんよね?」

「それはっ! 当たり前じゃないですか!」

「だから協力させてくださいと言ってるんです。私だって同じくらい春瀬さんを助けたいと思ってるんですから……」


 つぼみに言われ、改めて彼女の気持ちを思い知らされる。

 そして思い直す。自分にとってつぼみはどんな存在か。

 最初は保護対象として始まった関係。

 しかし彼女に助けられてから、彼女と契約を結んだときから、彼女とは対等であるべきだと思ってきた。

 それならもっと明確に、対等な関係を目指すべきだと。


「ではつぼみさん。提案があります」

「……なんですか」

「僕と結婚して貰えませんか?」

「はい……はい?」


 最初は言葉の意味が理解できなかったのか平然と返事をした。

 次第に発言の重大さに気づき始め目を見開いた。

 徐々に顔を赤く染め、それを両手で覆い隠す。


「けど年齢的に結婚は厳しいので婚約になるんですかね……て、つぼみさん? 顔隠してどうしたんですか?」

「これはそのっ……今絶対変な顔してるんで……!」

「嫌でしたか?」

「嫌なわけっ……いやその、嬉しい……んですけど……私、白さんに相応しくないです。白さんが思ってるより……ずっと汚れてますから……」


 顔は赤いままだが少女は悲しげに、どこか自虐的に呟いた。

 その姿を見て春瀬は、ある記憶が呼び起こされた。


「……ぷっ、あははは!」

「え? 白さん?」

「あー、いえすみません。つぼみさんと同じことを言う人が居たのでつい可笑しくて」

「同じこと? ってまさか……」

「はい。『身も心も汚れた女の子を愛せるか』、そう聞かれて僕は即答できませんでした。何故ならどう答えても彼女を傷つける未来しか見えなかったので」


 同じように最近自分が助けた少女から言われた言葉。

 彼女とつぼみに違いがあるとすれば、その言葉に隠された恋心が本物であること。


「でも今なら答えられます。僕は……自身の汚れに正面から向き合える、そんな純粋な心を持つあなた達を尊敬します」


 今になってようやく言語化することができた。

 きっとあのとき同じことが言えたとしても彼女は納得してくれなかっただろうけど、これが春瀬白にとって本心から導き出した答えだった。

 それを聞いたつぼみはと言うと……少しムッとした。


「……白さんはどうして今私にプロポーズしたんですか?」

「おお……言われてみると確かに、僕今プロポーズしてるんですね……」

「照れてないでさっさと答える」

「あっはい」


 いつになく辛辣な物言いで問いかけてくるつぼみ。

 何が失言だったのか分からない春瀬は口ごもらせながら答える。


「ええと、実は今回の騒動から少し反省点を見つけまして……冷静に客観視すると僕ってかなり軟派な男なのではないかと……」

「それはそうですね。誰彼構わず優しくしますし」

「けど優しくするのをやめるのもどうかと思いますし……だからこそ今後のことを考えて思ったんです。僕は身持ちを固めるべきだと」

「……なるほど。確かに婚約者がいると言えれば相手に勘違いさせずに済みますしね。負い目なく人助けできるってわけですか」


 自分の考えを開示し、納得してもらえた様子に一安心する。

 そう思ったのも束の間。


「ではお断りします」

「えっ!?」

「え?」

「え、あーいやその……すみません。受け入れてもらえるとばかり……完全に自惚れですね。お恥ずかしい」


 自尊するつもりはないにしろ、つぼみの好意には気づいているつもりだった。

 それを否定された気がして妙な喪失感を味わう。

 しかし春瀬の思い込みは勘違いというわけでもなく、ただ彼が理解できていなかったのは己のデリカシーのなさだった。


「だって……誰でも嫌ですよ。そんな打算的な告白」

「……申し訳ありません。流石に今のは失礼すぎました。なので……やり直しの機会をいただけますか?」

「ラストチャンスですよ?」


 つぼみが何を求めているのか、まだ自分を求めてくれていることに気づき、気を取り直す。

 かつて保護対象だった少女、しかし今は一人の女性として認識し、真摯に言葉を紡ぐ。


「灰咲つぼみさん。あなたを一人の女性として愛しています。僕と結婚を前提にお付き合いいただけませんか?」

「――――はい。喜んで」


 ようやくその顔を見れて、新たな気づきを得る。

 自分は彼女の笑顔に救われているのだと。







 家族を失った。

 皆生きていて、私も生きてるけど、皆は私を私と認識できない。


 私にとって家族は一人だけ。

 たった一人の大切な妹。


 あの子を守れれば他はどうでもよかった。

 あの子を守るためならなんだってできた。


 あの子はもう私のことを覚えてない。

 けどそれでもいい。あの子が幸せに生きられるなら、それでいい。


 一番の懸念はその妹を置いてきてしまったこと。

 でも大丈夫。信じるって決めたから。


 信じられる理由もある。

 私のかけた呪いはまだ有効だから。


「死んでも守ってもらうよ。春瀬さん」


これにて第二章完結です。

ここまで読了いただいた読者様へ。

長きに渡りお付き合いいただきありがとうございました!


第一章のテーマが『罪と信念』だとすれば、第二章のテーマは『愛と信用』と言ったところでしょうか。

毎度のことながら喉に小骨が刺さったような後味の悪い終わりを迎えさせてしまいましたね……言うまでもなく私の趣味ですが。

だって普通のハッピーエンドじゃ物足りないんですもの! 泥沼に咲く一輪の花のように、不幸の中でこそ小さな幸せが映えるのです! 辛いはスパイス! 苦しいは栄養! 酸いも甘いも全部楽しみたい!

と、性癖開示はこのくらいにしときましょうか。


今後の予定についてです。

第三章ですが更新予定は未定になります。

作品構成の話をしますと、完結まで少なくとも第六章まではかかると想定しています。

もちろん書きたい気持ちはあるのですが……折角書くなら読んでもらいたい……モチベ―ションヲクダサイ……。

ということで新作書きながらこの作品もチマチマ書き溜めようかと考えております。


しばらくお休みをいただくことになりますが、もちろん読んでくれる読者様が居るのならお休みも早めに切り上げる所存です。ブクマ100超えると嬉しいですね……。

それでは、また近い内にお会いできることを願っています。

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