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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
第二章:パパ活少女と妹の話
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第二章29.不信覚醒

「第一目標ハズレ、第二目標に命中したが致命傷には至らず」


 狙撃手の女に与えられた名はイーグル1。

 政府組織『リーパー』の中でも10人といない、厳しい狙撃試験の合格者にのみ許された呼び名だ。


「寝てる方に当たれば不意をついて2人とも殺れたけど、途中で気づかれたか……戸惑ってるうちにもう一発。私なら間隙を狙える」


 彼女が考えているのは唯一つ、迅速に任務を遂行すること。

 仲間が謎の敵に襲われ安否不明な状況、しかし任務を無視すれば街への被害が甚大になるかもしれない。

 よって彼女の取れる選択肢はただ一つ、標的を処理した後に仲間を助けに行くこと。


 一度目の狙撃は失敗に終わったが、努めて冷静に第二射を放つためスコープを覗く。

 すると、スコープの先に見えた標的から突如一筋の光の柱が登った。


「っ!? 能力は……! いや、まだ喰らってない。発動条件があの光の視認じゃなくてよかった……でも慎重に、できるだけ彼女を見ないように、狙いを定める」


 標的の能力が催眠であることは明らかだが、発動条件までは調べがついていない。

 自分まで能力にかからないよう、慎重に狙う位置を考える。

 そしてスコープの倍率を低くし、イーグル1と呼ばれる女性は不可解な光景を目にした。


「ん……? なに? あの人の群れ、全員上を見ている。 上空になにかある……?」 


 釣られて上空を見る。

 そこには通常ではありえない景色が存在した。


 巨大な瞳。

 

 雲をも覆い隠すほど大きな眼球がそこにあった。

 その瞳には眼を惹きつけられる何かを感じたが、すぐに我に返る。


「っ! ダメ、あれは絶対に不味い……! 確実にハーメルンの能力が関係して……もしかしたら私ももう催眠に……」


 最悪の状況を想像する。

 しかし奇怪な現象はまだ終わらない。

 上を見ないように気をつけつつ、群衆に眼を向けたところで気づく。


「なんで全員私の方を見て……それに私に向かって何か言っている……?」


 距離およそ300メートル。視認すら厳しいこの距離で通常声など届くはずがない。

 しかし何故か、頭の中に声が響き始める。

 スコープ越しに見える群衆の口の動きに連動して、あたかも群衆に責め立てられていると錯覚してしまう。


「凪だけは死なせない」


「お前が死ね」


「死ね、死ね、死ね」


「落ちろ、落ちろ、落ちろ」


 強い非難の言葉。

 それは標的の催眠により言わされている言葉だ。

 頭ではそう理解していた。


「あ、ああ……」


 頭の中に届く声は、心に直接語りかけてくるかのように響き続ける。

 気にするな、と自分に言い聞かせても否応なく心が反応してしまう。


 私は傷つけてはならないものを狙撃してしまった、と。

 思ってもいない罪悪感に襲われ、体が勝手に動く。

 

「待って……違う。私は思ってない。のに……足が、勝手に……ダメ、私にはまだやることが……」


 気づけば屋上の柵を超えていた。

 抵抗の意思を見せても体は思うように動かず、そのまま空中へと身を投げ出してしまう。

 

「私の、やること? ……そっか。復讐が終わって空っぽのつもりでいたけど、できてたんだ。生きる理由。……誰かを傷つければ誰かに恨まれる、か。身をもって知ってたはずなのにな」


 死に直面して初めて気づく。

 自分にもまだ生への執着があったのだと。


「こんな私でも、祈る権利はまだ残ってるかな……どうか生きてて、ハウンド2…………やっぱり知りたかったな、名前……」


 最後に名も知らぬ友人を想う。

 間もなく、上空30メートルの高さから落下した女の体は地面に激突した。







 突如赤佐宇花の手から光の柱が伸びた。

 群衆が一斉に上を見たと思えば、今度は後方に向き直り何かを口ずさんだ。

 その方向にあったビルの屋上から何かが落下した。

 それが私が目にした一部始終の光景だった。


「今のは何……? ビルから落ちた人影、落ちたのはもしかして宇花さんを狙撃した人? 一体何が起こって……」


 現象を理解しようと、考えなしに上空を見ようとする。

 すると隣に居た大男に頭を押さえつけられた。


「上を見るな馬鹿者!!」


「っ……! 何するんですか!」


「貴様こそ何を考えている! そこの家出娘から上空に放たれた第三症状らしき光、元の能力が魅了という事実。であれば今上を見ることがどれだけ危険なことか、少し考えれば分かるだろう!」


 言われて自分の行動が如何に愚かだったか気づく。

 第三症状は第二症状の能力を強化する傾向にある。となれば宇花の場合はおそらく魅了能力そのものの強化か魅了範囲の拡大だ。


「あっ……すみません。失念していました……」


「ふん。分かったなら頭を切り替えろ。この窮地を脱するために」


 窮地と言われ、改めて周囲を見る。

 第三症状を発症させた宇花、その影響を受けたのか纏う雰囲気が変わった群衆。

 穏便に済ませてくれないものかと、最後の説得を試みる。


「……もう止めようよ宇花さん。撃たれた傷も早く治療しないと手遅れに……」


「手遅れだって言うならずっと前からそうだよ、つぼみちゃん。やっぱり私はもう誰も信用できない。だから……私のやり方で信用させてもらうね」


 ダメージに体をふらつかせながらも、彼女の根本が揺らぐことはなかった。


「聞く耳持たず、か……分かっているとは思うが、今後は操られている有象無象の瞳も見るな。第三症状の傾向を考えれば、魅了を感染させる能力が追加されていても不思議ではない」


 獅子郷の冷静な分析力は素直に尊敬できる。

 カンリシャを名乗るだけあって、場数の違いを思い知らされる。


 だからこの場は彼の言うことに従うべきだと思いながら、指示を聞いていた。


「まずはこの場を脱出する。このまま我らの幻影を残し、見つからないうちに遠くへ……」


 今まで宇花と目を合わせないように見せていた半歩横の幻影。

 それを囮に逃げようと獅子郷が提案したところだった。


 ジャラジャラと様々な方向から聞こえる無数の何かが落ちる音がした。


「なんですかこれ。ガラス玉にビーズ、宝石?」


 地面に散らばる無数の結晶。

 それは群衆が今この場で落としたモノだった。


 遅れながらも、その落下物の意図に獅子郷が気づく。


「? ……っ! それを見るな灰咲つぼみ! 奴等の瞳が反射する!!」


 獅子郷は咄嗟に自分の目を手で覆いつつ、幻影のアイマスクで私の視界を塞いだ。


「あの、何も見えないんですけど」


「我慢しろ。この場を離れたら解除してやる」


 真っ暗闇の中、大男に手を引かれる。

 足元に散らばるガラス玉等に気をつけながら歩いていると、不意にポケットの中が震えた。


 スマートフォンの着信。

 片手でそれを取り出そうとしたが、手元が狂い落としてしまう。


「あっ、すみません」


「なんだ? 携帯電話の通知……青葉か!」


 私が落としたスマートフォンに反応する獅子郷。

 彼はそれを拾い上げ、着信画面に対し不可解そうに唸った。


「赤佐宇花からの着信だと? 何故目の前にいるのに電話を……」


 その意図を理解する前に、間もなく着信の振動は止んだ。

 つまり、スマートフォンの画面はブラックアウトした。


「む、電話が止……しまっ!?」


 真っ暗な画面に反射する空の景色。

 そこには巨大な瞳が映り込み、獅子郷は目を合わせてしまう。

 

 そんな状況を私が理解したのは、幻影で装着されたアイマスクが解除されてからだった。


「え? なんで見えるように……獅子郷さん?」


「柄にもなく油断、か。くそっ……ガキのお守りなんかしたばっかりに……」


「あ、そんなところに居たんだ。幻の能力、か。見た目の割に小賢しい能力使うんだね。そのおじさん」


 宇花の能力を受けてしまったらしい獅子郷。

 その影響か彼の幻影が全て解除されたようで、当然宇花達からも私達の存在が可視化されたようだ。


 幻影もなくなり、大量の視線を感じる。


「宇花さん……くっ!」


「逃がさないよ。捕らえて」


 走り出そうとしたが、それより速くすぐ側の獅子郷に首根を捕まれる。

 宇花の指示に従っているということは、本当に魅了の支配下になってしまったらしい。


「獅子郷さん……ごめんなさい。少しだけ熱くします!」


 第二症状の解放、獅子郷への敵意を少しだけ強めて背中から火を放つ。

 

「へぇ。つぼみちゃんの能力は炎なんだ。あ、おじさんは腕を焼かれても絶対に離さないでね」


 火傷を負っても弱まることの無い腕の力。

 意思の無い人形に痛みで手放すことを期待するのは無謀か。


 もう逃げられない。宇花を説得できる気もしない。

 私はどうすれば……そんなことより炎を戻さなきゃ、この男の腕を焼き尽くしてしまう。


「っ……あれ、なんで? 炎が消えない……?」


 徐々に焼き爛れていく皮膚を見て焦る。

 その焦りが余計に不安を募り、炎は勢いを増す。

 何故炎を止められないのか、既視感によるトラウマの刺激が原因だった。


 大人の男性に拘束され、その腕を焼く光景。

 かつて父を焼き尽くした記憶がフラッシュバックした。


 また人を殺めてしまうかもしれない、その不安が火力を推進させる。


「どうして……やだ……」


 最悪の結末を想像したその瞬間だった。


 景色が大きく揺らいだ。

 気づけば獅子郷の掴む手から解放され、代わりに一人の男性の腕に包まれていた。


 これもまた既視感。

 トラウマの中に差す一筋の光。

 

「お待たせしました。ここからは()()()宇花さんを助けましょう」


 ずっと一緒、それが彼と交わした約束。


 知らぬ間に私の炎は収まっていた。

 私が不安なとき、いつも私を助けてくれる存在のお陰で。


「遅いですよ……白さん」


 ああ、やっぱり私はこの人が好きだ。


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