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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
第二章:パパ活少女と妹の話
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第二章27.火の粉散らす

 赤佐宇花の魅了を受けた人に連れられた場所は自分と春瀬白、赤佐姉妹の4人で遊びに来た遊園地だった。


 宇花がなぜここを選んだのかは分からない。

 仮説通りなら私達との記憶は残っていないはず、それでもここを選んだのは春瀬白が来てくれると直感的に思えたからなのか。


 遊園地のゲートを越えようとしたとき、右ポケットの端末が鳴り響いた。


「電話……青葉さんから?」


 着信の相手を確認し、通話を繋げる。


『敵5人無力化した。褒めて』


「開口一番それですか。それで敵というのは?」


『心壊症患者の敵。政府組織の処刑人。今宇花ちゃん達が狙われてる』


 いつもの口調から話される端的な説明。

 心壊症患者を排除しようと目論む政府組織の話は聞いていた。

 今回の標的が宇花で放っておけば先を越されるため青葉は無力化のため単独行動をしているということか。

 

「なるほど……残りは何人ですか?」


『斥候2人と狙撃主1人。途中まで追えてたけどGPS捨てられたみたいで居場所分かんなくなっちゃった』


「残りも頑張って片付けてください。そしたら褒めてあげます」


『わお無茶ぶり……じゃあ頑張るので罵って』


「……仕事 しろ 変態」


『ありがとうございます!』


 語気を強めた命令、一応大人に対して礼儀を忘れたつもりはないが本人が求めるのだから仕方ない。

 従順な変態というのも案外扱いやすくてありがたいものだ。


『あ、ちなみに斥候二人は遊園地の中央当たりにいるみたいだから気をつけてね』


「分かりました。……そういえばここに白さんもいるんですよね?」


『だと思うよ。私は連絡取ってないけど』


 青葉の返答に私は沈黙を返す。

 春瀬白の行方、彼からは置き手紙を貰ってからずっと会っていない。

 これだけ彼と離れたのも随分久々だ。

 ずっと一緒の約束を交わしてから毎日共に過ごしてきたから。


『心配?』


「……はい」


『大丈夫。春瀬くんには助っ人がいるから』


「助っ人? 誰ですか?」


『それは秘密。でも頼れる人だよ』


 青葉は事情を隠すことが多い気がする。

 重要なことも教えず、一人で抱えて仕事をこなす節がある。

 今回の秘密にはどんな意図があるのやら。

 分からないけれど、悪意は感じなかったので信じてみることにした。


「分かりました。何か進展があったらまた連絡ください」


『うん。じゃあまたあとでね』


 青葉がそう告げると通話は切れた。

 すると通話の終わりを察したのか、隣にいる獅子郷が声をかけてきた。


「青葉からか?」


「はい。政府組織の敵を5人倒して残り3人、内一人が狙撃主だそうです」


「はっはっは、流石我が未来の嫁。仕事のできる女よ」


「なんで私の周りって変な大人しかいないんだろ……」


 自分の交遊関係を思いだし、碌な大人が居ないことに一人嘆く。

 電話中も歩みを止めなかったため気づけば遊園地の中ほどまで進んだ。

 そこには大きな人だかりができていた。


「こんなにたくさん……宇花さん……」


「ふん。一般人を巻き込みすぎだ愚か者め」


 100を優に超える人数、それが囲いを作るように群れていた。

 その中央にはきっと赤佐姉妹がいる。

 しかしそこに辿り着く前に一つ大きな障害があることに気づく。


「でも青葉さんの話だと遊園地の中央に二人の斥候って……」


「政府の狗がこの集団に紛れている、ということか」


 群れに潜む敵の存在、相手の顔は当然分からない。

 迂闊に赤佐姉妹に近づくのは危険。下手をすれば私達諸共処分される可能性だってある。

 まずこの中にいる敵を探し出す必要がありそうだ。


「厄介だな。青葉に顔写真等の情報がないか聞いてみるか……」

 

「……獅子郷さん。それは顔が分かればなんとかしてくれるってことですか?」


「む? そうだな。流石にこれだけの一般人すべてを捻り潰すわけにもいかん。たかが二人の雑兵、発見さえすれば無力化など造作もない」


 平然と答える獅子郷。

 それは力の誇示などではなく実力を鑑みた冷静な分析なのだと態度で分かった。

 流石カンリシャと言うべきか、貫禄を感じる。


「分かりました。私が炙り出します」


「ほう? 強く出たな小娘。言ったからにはできないじゃ済まされんぞ」


「当たり前です。危ないから下がってください」


 私は隣の男に注意を呼び掛け、その場にしゃがみ込む。

 地面に手をつけ、目を閉じ集中する。


「それで、一体何をする気だ?」


「何って、言ったじゃないですか。文字通り炙り出すんですよ」


 言った直後、その現象は起きた。

 火炎、私を中心に前方へ吹き出し地を這う炎。

 それは凄まじい速度で群衆の足元を駆け巡った。


「貴様……正気か?」


「大丈夫ですよ。私の炎は私が敵だと思った人しか熱を感じません。赤佐姉妹も、操られているだけの人達も私の敵ではありません」


 炎は群衆を完全に包み込んだ。

 群衆も足元を見て動揺していたが、ほとんどの人間から苦悶の表情は見られない。

 ただ一部、紛れ込んだ二人を除いて。


「熱っ!」


「なんでいきなり地面が燃えて……!」


「この炎を熱いと感じる人間、それが政府組織の処刑人です」


「上出来だ。あとは任せろ」


 ニヤリと笑う大男は手を前に突きだす。

 次の瞬間、空中に大きな腕が現れる。

 獅子郷の能力で出現したと思われる怪腕、それが炎の熱さに悶える二人に振り下ろされた。


「「うわあぁ!」」


 腕に潰され姿が見えなくなる二人。

 最早安否は確認できない。


「……え? 殺しちゃったんですか?」


「馬鹿者。無闇な殺生をするつもりはない、あの腕は幻影だ」


「幻影?」


「我の第二症状は幻術、五感に作用する幻影を作り出す。人が触れれば感覚を与えるがそれは感じるだけ。押し潰されたとて、実際には自分から地面に体を叩きつけているだけに過ぎない」


 どうやら見た目通り潰されたわけではなく、死んでいないと聞いて少しホッとする。

 腕に潰された彼らは沈黙状態、気を失っているのだろう。

 ならば敵勢力を無力化できたと言って良いはずだ。


「……ところで、気のせいか我もこの炎から少し熱を感じるのだが」


「それは……貴方がそう感じるということは、そういうことなんでしょうね」


「小娘が……中々良い性格をしているようだな」


 炎を熱く感じる。つまり私が少なからず敵だと思っているということだ。

 獅子郷のことは仲間だと思うようにしているが、正直に言えば嫌いだ。

 自分の心に嘘はつけない。それが炎に反映されるのも仕方ないことだ。

 とはいえこれ以上炙りたい相手も居ないので私は炎を引っ込めることにした。


「ふむ。第二症状をそこまで自在に操るか。その心のコントロール能力だけは認めてやっても良い」


「……どうもです」 


「では障害が消えたところで行くとしようか。悲劇のお姫様を気取る魔王の元へ」


 獅子郷は群衆の中心を見て言った。

 彼の言う魔王というのは当然赤佐宇花のことだ。

 私達の本来の目的、赤佐宇花との接触がようやく叶おうとしていた。


お読みいただきありがとうございます!


今後もできる限り月1投稿を心がけたいと考えております。

第二章、今年中の完結を目指して頑張ります……!


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