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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
第二章:パパ活少女と妹の話
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第二章26.名前のない関係

『4人からの通信が途切れた。4人の救出は別動隊を向かわせる。残る4人イーグル1、2とハウンド3、4は引き続き注意して作戦を遂行するように』


 通信機の言葉で知人たちの危険を知った。

 叶うことなら救出に向かいたいが、それは許されない。

 あくまで任務優先。仲間の命は二の次というブラック組織。

 しかし任務を怠れば一般人への危害が拡大するばかりだ。

 少数より大勢を助ける。それを考えるのなら例え一人になっても任務はやり遂げなければならない。


 そう、頭で分かっていても私の心は理解してくれない。


「ハウンド2……」


 特に親しい仲間が危険な状態と知り、思いを馳せてしまう。

 私とハウンド2との出会いは2年前……。







 政府組織『リーパー』に入ってから1年が経過した頃。

 元々家族を心壊症患者に殺され、復讐のために入った組織。

 しかし想像以上に早く復讐をやり遂げてしまい、私は無気力だった。


「やっ。あなたが今回の私の相方、だよね。具合悪そうだけど大丈夫?」


「あっ……うん」


 そんなときに出会ったのがハウンド2だった。

 彼女の名前は未だに知らない。


「ねえ。もしかして殺すの嫌? 狙撃手のあなたが迷ってたら私まで危険になるんだけど?」


 仕事として当然の指摘。

 今更心壊症患者を撃つことに躊躇いはない。

 けれど私の態度で不安にさせたのなら謝るべきだろう。

 

「ごめんなさい。ちゃんとする」


「うん。それならよし!」


 朗らかに笑いかけてくれた。

 こんな暗い仕事内容で明るく笑えるなんて珍しい。

 その笑顔には嫌みなど感じられず、彼女の側にいると不思議と気が楽になった。


「任務おつかれー。思ったより相性良いのかもね。私達」


「私も……最初はごめん。あなたの言う通り迷ってた。でもあなたと話したらなんだか気が楽になって……良ければこれからも仲良くして欲しい、です」


 仕事をする目的がなくなった私は、それでも続けるための活力が欲しかった。

 職場に親しい間柄の者がいればその人を守るために優秀な狙撃主を目指せると思って、私はお願いした。


「ふーん。別にいいけど、名前は教えないよ」


「えっなんで……」


 半分肯定、半分拒絶。

 それに何の意味があるのか分からず問いかける。


「野良猫に名前つけると愛着湧いて離れ辛くなるって言うでしょ? 私達いつ死んでもおかしくないんだしさ、楽にお別れできるようにしとこ」


「そっか……じゃあ、私も教えない」


「それでよし」


 理由は納得できる者だった。

 狙撃主と斥候のパートナーはいつも同じ相手を選べる訳じゃない。

 自分の預かり知らぬところで命を落とすことだってある。

 私ももう悲しいのは嫌だったから、私も彼女の名前を聞かなかった。







「嘘じゃん……全然辛いよ……」


 名も知らぬ少女の安否が分からない。

 ハウンド2の死を想像し、心が締め付けられる思いを味わう。

 そんな折、通信機の音が鳴る。


『こ……こちらイーグル2。現在謎の敵の襲撃に遭っている』


 イーグル2、つまり今回の作戦のもう一人の狙撃主。

 顔を想起させながら次の通信を聞いた。


『全員通信機器を捨てろ。居場所がバレて……ガシャン』


 機械の落ちる衝撃音が聞こえた後、イーグル2からの通信は途絶えた。

 襲われたのだろう。彼ももう無事ではないのかもしれない。

 狙撃主の彼が襲われたということは、自分にも危険が迫っているということだ。


 私達の持ってる通信機はGPSで現在位置を送信しあっている。

 この端末を奪われれば、敵にも現在位置が把握されるということだ。


「すーっ……一回落ち着こう。落ち着くために、書いて整理しよう」


 深呼吸し心を落ち着かせる。

 現在の状況を理解するため、地面にメモを置いてペンを走らせる。

 メモは自分なりルーティーン、心の落ち着かせ方だった。

 俯瞰の視点で読み解くことで淡々と仕事がこなせるようになる。


「こんなとこかな」


 メモに書かれたのは以下の3行。


・標的はハーメルン、その関係者と思われる敵が自分達を襲っている

・現在襲われたのは5人、その中にハウンド2も含まれていて安否は分からないが生存の可能性もある

・通信機で位置がバレている可能性大、すぐにこの場を離れる必要がある


「切り替え完了。こんな仕事さっさと終わらせてハウンド2を助けにいく」


 まだ彼女達が死んだと決まったわけではない。

 生きているのなら早く助けにいきたい。

 今回の襲撃者が事件の関係者なら、事件を終わらせてしまえば襲撃者の目的もなくなるはず。


 憶測の域を出ないが信じることで心を落ち着かせ、私は通信機の電源を落としつつその場に捨て、次の狙撃ポイントを探した。

 






 青葉と別れて2時間が経過した頃。

 私達二人は赤佐宇花の元に向かっていた。

 彼女がどこにいるのかは知らない。けれど案内人ならいくらでもいる。


「春瀬白を知っていますか?」


 見知らぬ人間が口にする春瀬白の名前。

 その人間からは自分の意思というものが抜け落ちているように感じられる。

 言わされている言葉、つまり赤佐宇花により操られている人間ということだ。


「知っています。春瀬白を探している人物の元に案内してください」


「……はい。こちらです」


 無駄なことを話さず、ただ私達を案内する。

 そんな風に春瀬白を探す人間がそこら中にいるのだ。

 探すのに苦労するはずもない。


 すると共に行動している獅子郷から問われた。


「なにゆえ赤佐宇花は一般人を巻き込んでまで春瀬を探す? 自らの離反したくせに」


 口の悪い聞き方、まるでバカにしているように聞こえて気分が悪くなる。

 確かに合理性に欠ける行動だが、事情を知っていれば彼女の行動の意味は分かる。


「これは私達の見解ですが……覚えていないんだと思います。全て」


「……なに?」


「凪さんが消したんですよ。宇花さんの記憶を、辛かった思い出含めて全て」


 赤佐凪が心壊症患者であり、その能力は記憶消去に類するものというのが私と青葉の見解だ。


 この仮説と現在の状況を照らせば、宇花の状態を推理できる。


「なるほどな……なら何故春瀬だけは覚えている?」


「……白さん曰く、それが自分の役割だ。とのことです」


「? 答えになっていないが……まあいい。目的地に到着したようだな」


「ここは……あのときの遊園地?」


 見覚えのあるアトラクション、そこは自分と春瀬と赤佐姉妹の4人で遊びに来た遊園地だった。


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