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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
第二章:パパ活少女と妹の話
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第二章24.処刑人の憂い

 防衛省心壊症対策課、通称『リーパー』。国家直属の非公開組織だ。

 活動指針は国民の安全を守ること。それを脅かす外敵の対処のために組織は設立された。

 人ならざる能力を持つ者。それらは少なからず心に闇を抱え、社会に災いをもたらす。その災いが新たな不幸を生む不の連鎖。

 故に心壊症は感染症として認識し、末期の患者は容赦なく駆除の対象とする。

 そんな組織に一報が届いた。

 

「今回の標的だ」


 10人チームの作戦会議にて中心人物の男性がホワイトボードに紙を張り出す。


「呼称名『ハーメルン』、危険度はA。現在は第二症状で、目を合わせた者を操る能力を持っている」


 説明する部隊長とそれをメモする9人。

 彼らが集められた理由は唯一つ、説明にあった『ハーメルン』と呼称される心壊症患者を殺すこと。


「編成は捜索部隊6名と狙撃部隊2名、私と残りの1名は部隊指示に当たる。イーグル1、イーグル2起立!」


「「はい」」


「今回は狙撃部隊の君達が要だ。既に操られている民間人もいる。被害を最小限にできるよう、一撃で確実に仕留めるように」


「「はい」」


「捜索部隊ハウンド起立!」


「「「はい」」」


「君達は標的の捜索と民間人の誘導だ。必要があれば標的と接触する必要も出てくる。武装の使用は現場判断で許可する」


「「「はい」」」


「作戦は以上だ。解散」


 男の一言でメンバーは動きだし、『ハーメルン討伐作戦』が始動した。







 会議終了後、一人の女性が憂いていた。


「どうしたイーグル1、浮かない顔をして」


「……ちょっとね」


 作戦中はお互い与えられたコードネームで呼び合うことになっている。

 今回の作戦の場合、狙撃部隊はイーグル1、2。捜索部隊はハウンド1から6の名を与えられた。

 

「気にしないでいいわよイーグル2、その子いつもそうだから」


「ちょっと、余計なこと言わなくていいのに……」


「ハウンド2。いつもって?」


 イーグル2と呼ばれる男性が尋ねると、ハウンド2と呼ばれる女性が私のことを語る。


「理由を探してるのよ。標的を殺すための」


「理由? そんなの……仕事だと割り切るしかないんじゃないか?」


 2人してこちらに注目するので、気は進まなかったが私もその会話に参加することにする。


「……逆に聞くけど、イーグル2はなんで今の仕事やってるの?」


「俺は狙撃の腕を買われてスカウトされたんだ。本来戦争でもなければ実銃の狙撃なんて役に立たないけど、今の仕事なら国民を守るのに役立つって言われて」


「そっか……私は才能とかなかったからひたすら努力した。私の……復讐を果たすために」


「復讐、か……」


 重苦しい響きの言葉に表情を暗くするイーグル2。

 横で話を聞いているハウンド2は既に内容を知っているからか、ただ静観していた。


「私は両親は殺された。表向きは事故死にされたけど、本当は心壊症患者による人災の被害。その心壊症患者はまだ逃げ仰せていたから、復讐するためにこの仕事についた。けど……終わっちゃったんだ。復讐」


「それは……復讐相手を見つけたってこと?」


「うん。何回か仕事をこなしていたら偶然標的として選ばれて、この手で殺せた。奴の頭を撃ち抜いたとき、色んなものから解放されたよ……そしたら分からなくなった。なんで復讐なんてしたかったのか」


 あの頃の私は復讐心に燃え、回りが見えていなかった。

 一辺倒に仕事に打ち込んでいて、仕事に打ち込む目的が無くなると疑問に思う余裕ができてしまった。


「それから殺す理由がないと仕事に集中できなくなったの。親を殺された恨みを晴らすために仕事に打ち込んで、恨んでいない相手にまで力を振りかざした私も、結局ただの人殺しなのかもなって……」


「それは違う」


 その声は私が語りかけていた方とは別の方向から飛んできた。

 ずっと黙って私の話を聞いていた、この場で唯一の私を知っている者の声。


「ハウンド2?」


「私たちの仕事は人を守る仕事、人を殺す仕事じゃない。心壊症患者は悪魔に取り憑かれた人ならざるもの。あれを人と一緒にしちゃいけない」


 私はその聞き覚えのあるフレーズにハッとした。

 ハウンド2が語っているのはこの仕事に着く前に教習所で教わる内容。

 心壊症は女性なら誰もが成りうる病と言われている。

 そのためこの教えは私達を守るための精神論、ミイラ取りがミイラにならないために。


「そう考えないとあなたも悪魔に取り憑かれるよ。イーグル1」


「……」


 私は何も言い返せなかった。

 本心で言えば心壊症患者も元々人間で今も人の形をしているから、それが人間じゃないなんて考え方は暴論だと思っている。

 けれどハウンド2の言葉を否定すれば、この教えに救われている者を追い詰めることになる。

 この仕事をしている以上は間違いだとしても、その教えを受け入れるしかないのだ。


「まーあまり気負わないでよ。言われたでしょ? 今回は狙撃部隊の二人が要。二人がいつも通りの仕事をしてくれないと私達や一般人も危険に晒されるんだから」


「……そうだな。今難しいこと考えるのはやめにして仕事に集中しようか」


「うん……そうだね」


 私達の仕事は国民の安全を守ること。

 そのために心壊症患者は殺さなくてはならない。

 それが私達『リーパー』の役目だから。







『ハウンド3、4、『ハーメルン』を捕捉。位置送ります』


『第一目標のクリア確認。それぞれの配置ポイントを送る』


『ハウンド1、2了解』


『イーグル2了解』


「イーグル1も了解です」


 無線による通話で指示を貰い、目的地へ急行する。

 作戦は順調に進んでいるかと思われたが、指令部が異変に気づいたらしい。


『ハウンド5、6どうした? 応答せよ』


 指示に対し、呼ばれた者達からの応答はなかった。

 作戦開始から既に3時間経過しているが、1時間前は応答もあった。

 通信機器の故障でなければトラブルにあったということか。


『GPSも動きはないか……』


『こちらハウンド1、2。様子を見に行きますか?』


『すまない、頼めるか』


『了解』


 チームとしては正常な判断だろう。

 捜索部隊は2人組で行動し、うち目標を捕捉した一組は見失わないよう監視が必要。

 となれば現在動けるハウンド1、2の二人がサポートするのは当然のこと。

 しかし私は何となく胸騒ぎがした。

 ハウンド2とは旧知の仲だから、より一層心配も大きくなる。


「ハウンド2……大丈夫、だよね?」


 自分の取り越し苦労だと信じつつも、誰にも届かない声で一人呟いた。







 

「位置情報によるとこのあたりのはずだけど……」


 マップに示されるポイントを辿り、ハウンド1と二人で到着したのはとある公園だった。

 既に日が落ちているため黙視で確認しづらいが、人の気配は感じられる。

 その気配を辿って公園内を軽く散策すると、私達の探し人はすぐに見つかった。 

 

「いた……ハウンド5、ハウンド6。無事?」


「二人とも座り込んでどうした?」


 胸を撫で下ろしたのも束の間、発見した男性二人は明らかに様子がおかしかった。

 目は開いているが視線はピクリとも動かず虚ろを見続ける。

 ただ座りつくし意識はあるのに微動だにしない。


「ちょっと、なんで動かないのよ……」


「動かない、じゃなくて動けないんだよ」


「っ……誰!?」


 背後からの声にすぐさま振り返り、声の主である女性を黙視する。

 その女は逃げも隠れもせず堂々と私たちの前に姿を現した。

 口ぶりからしてハウンド5、6の二人の状態を理解している。何なら二人に危害を加えた容疑者だ。

 最大限警戒しつつ、女の返事を待った。


「可愛い女の子の質問だから答えてあげたいところだけど、訳合って名前を教えられない。だから一先ず……白百合の騎士、とでも名乗っておくよ」



忘れた人のために補足、白百合の騎士は青葉李里のゲーム内でのハンドルネームです。

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