第二章19.利用される者達
「や、つぼみちゃん」
「来てくれてありがとうございます、青葉さん」
「つぼみちゃんの頼みなら例え地の果て空の果て……それで、メールの内容は本当?」
「はい、赤佐姉妹が行方不明に。それから……白さんは一人で探しに行きました」
早朝、私が目を覚ましたときには既に二人はいなかった。
白さんは急いだ様子でメモを残し、それを私に押し付けて早々と家を出て行った。
そうして家に一人残された私は青葉さんをここに呼んだわけだ。
「はぁ……みんな勝手すぎ。春瀬君もああ見えて結構熱くなりやすい」
「ですよね……でも大丈夫です。白さんは冷静ですよ」
言いつつ私は白さんから預かっていた一枚の紙を手渡した。
「これは?」
「今回のプランだそうです」
「プラン…………ん? これ本当に冷静? 正気の沙汰じゃない」
「かもしれませんね。けど白さんは家を出る前に言ったんです」
数刻前のことを思いだし、彼の言葉をなぞる。
『僕は選択を間違えた……だからせめて自分のミスは自分で取り返します』
『……ただ、今回のことで分かりました。僕では……宇花さんを救えない』
『だからお願いします。つぼみさん、あなたが宇花さんを救ってくれませんか?』
それが白さんの願いであり、初めて私は頼られたような気がした。
それを聞いた青葉さんは私に尋ねた。
「そう……それでつぼみちゃんはどうする?」
「やりますよ。そうしないとたぶん、白さんが救われませんから」
「……そうだね。じゃあ助けに行こうか。つぼみちゃんのお友達を」
「宇花さんは友達じゃありませんよ?」
「そうなの? じゃあ春瀬君はなんでつぼみちゃんなら助けられると思ってるんだろ……」
「……でも、友達になりたいとは言われました。それなのに私から逃げるとか……ちょっと腹立つので一発ぶん殴ろうと思ってます」
「そっかー……うん。そう言われると私も春瀬君に散々コキ使われてちょっと腹立ってるから殴りたい」
「一発だけなら許可します」
「お許し助かる。よし、二人で殴りに行こっか」
「はい!」
私たちは白さんがメモに残したプランを元に、行動を開始した。
最初に私たちが訪れたのは河川敷の橋の下。
ここに宇花さんがいるわけはないが、別の人に会う目的で来た。
その人はしばらくの間ここに滞在している、所謂ホームレスだ。
「少し、お時間良いです?」
「ん? ああ、あんたは前にも来た……今日は子供まで連れてきて俺に何の用で?」
どうやら青葉とは面識があるらしい薄汚れた身なりの男。
「青葉さん、この人が……」
「そう。1年前にある事件の捜査中、被疑者に有利な証拠物品を隠蔽して不当な罪を負わせたことで懲戒免職になった警察官」
「本当に何しに来たんだよ……負け組の末路を子供に見せて社会勉強か? 人を見世物にしやがって……何を言われても俺は間違ったことをしたなんて思わない。殺人犯を殺人の罪で罰せないから、代わりに罰を上乗せしただけだ」
「前にも言ったけど彼は殺人なんて……え? つぼみちゃん?」
何かを言いかけていた青葉の言葉を遮り、私は男の前に立った。
「あなたのせいで、危うく私と白さんは7年も離れ離れになるところだったんですね」
「? 君は春瀬白の知り合いか?」
「本当に私の顔に見覚えはありませんか? と言っても、あなたが私の顔を見たことあるかなんて私は知りませんが」
「顔……? ああ、いや覚えていたよ。あの事件の関係者の顔は嫌でもこの目に焼き付いている……灰咲つぼみ。春瀬白に誘拐された被害者か」
「それは何よりです。これでようやくあなたに糾弾できます……市松元刑事」
男の名は市松和樹。
1年前の誘拐事件で白さんが警察に残した証拠を隠した刑事。
結局それがバレて無職、挙げ句ホームレスになったらしい。
しかし私にとっては関係のないことだ。
「糾弾? 何に対して?」
「それは勿論、白さんの証拠を隠したことです。あれがなければもっと白さんと早く会えたかもしれない。だから市松さん、私はあなたを許さない」
「そうか……けど一つ聞きたい。灰咲つぼみ、君はなんであんな殺人犯が好きなんだ?」
「白さんが殺人なんかしてるはずありませんが……していたとしても変わりません。私を地獄から救ってくれたのは当時無関係だった白さんだけ、好きになって当然でしょう?」
「なるほどな。だが俺も謝るわけにはいかない。俺だって春瀬白を今でも許せない。あいつは……白銀先輩を……」
「じゃあ……その許せない理由がなくなったら、ちゃんと謝ってくれる?」
「……何を言ってるんだ? 理由がなくなるなんてそんなこと……」
「あなたの上司、白銀刑事は生きています」
「!? そんな……そんなはずはない。焼死体の検死結果も出てるんだ。俺は騙されない……」
「生きてますけど、今も危険な状態です。助かるかどうかは……市松さん、あなた次第です」
「俺……次第?」
「また後悔するんですか? 下らないプライドで嘘だと決めつけ、殺されたと思い込み、人に架空の罪を擦り付けて恨み続ける。あなたはそれで満足ですか?」
「俺……は…………」
今さら生きているなんて言われても信じられない、けど本心では信じたい。
そんな長い葛藤を続けた後、男は立ち上った。
すると何も言わずに歩きだし、ゴンッと頭を壁にうちつけた。
「あの……市松さん?」
「……正直信じられない。騙されてるとしか思えない……けど先輩に会える可能性があるなら、人生賭けたって構わない。……話を聞かせてくれ」




