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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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第一章5.気の緩み

 夕食を片して渡された歯ブラシで歯を念入りに磨かされ、部屋に戻ると布団がしかれていた。


「少し早いかもしれませんが今日はゆっくり休んでください」


 時刻は9時過ぎ、確かに少し早いかもしれないがいつもやることなく同じくらいの時間に寝ているし問題ないだろう。

 しかし今の問題といえば……。


「お兄さんは寝ないんですか?」


 そう聞いたのも布団が一つしか出されていないから。

 この一つしかこの家に存在しないのかもしれないがそれを私が占領していいのかという話だ。


 いや、もしかしたら一つの布団に二人で寝るつもりかもしれないので遠回しに拒否するための言葉でもある。

 嫌と言うわけではないが見ず知らずの男だし警戒はした方がいいだろう。


「僕はまだやることがあるので」


 そう言いながら男はノートパソコンを立ち上げた。

 気になり近づいて画面を覗く。


「……ゲーム?」


「はい、オンラインのネットゲームです」


「……なんで今?」


「今の時間が一番ログインする人多いので」


 いや、聞いているのはそういうことでなく何故こんな状況でゲームをやろうと思えるのかという話だが……。

 少しげんなりした顔をしていると男が口を開いた。


「うちのギルドはこの時間にログインしないと怒られるんですよ。ついでに聞きたいこともあったので」


 言いながら場面転換して画面にはアバターが数体映っており、画面の端でチャットが流れた。


〈フェイスレス〉『こんばんわー』


〈ロンリーコング〉『ばんわー』


〈白百合の騎士〉『重役出勤ですかそうですか』


〈フェイスレス〉『すみません、リアルの方でいろいろあって』


〈シミパンマン〉『いろいろ(意味深)』


〈フェイスレス〉『ええ……本当にいろいろ……。てことで今日は狩りも不参加で』


〈ロンリーコング〉『りょです』


〈シミパンマン〉『仕方ないですにゃあ』


〈白百合の騎士〉『じゃあ今日はお疲れ様です?』


〈フェイスレス〉『あ、いえ。少し相談事があって』


〈ロンリーコング〉『相談……まさか恋愛……!』


〈白百合の騎士〉『ふっふっふ、この私に恋愛相談とは……なんて酷なことを思いつきやがる』


〈シミパンマン〉『燃料キマシ。爆発予定時刻は5分後でよろし?』


〈フェイスレス〉『よろしくないです恋愛じゃないです。ということで議題を発表します』


〈ロンリーコング〉『会議なのかよ』


〈フェイスレス〉『急募、幼女の服を21歳の男が手に入れる方法』


〈ロンリーコング〉『通報した』


〈白百合の騎士〉『通報した』


〈シミパンマン〉『通報した』


「うわぁ……」


 思わず声を漏らす。なんというか、いろいろと強烈だった。


「え? 何かありましたか?」


 タイピングしながら私に聞く。

 彼のアバター名は察するに〈フェイスレス〉なのだろう。

 まあ名前などとやかく言うつもりはないがこの人が〈シミパンマン〉じゃなくてよかったと思ってしまうのは普通だと思いたい。


 しかし名前や会話内容も中々だったがそれ以上に強烈なものがあることに気づいた。


「この『幼女見守り隊』っていうのはなんですか?」


「ギルド名、所謂この4人のグループ名ですね」


「それは……この4人の共通点みたいな感じで?」


「ネタ的な部分もありますが、まあ全員少なからずロリコンですね」


「……」


「いや最近じゃロリコンなんてネット上で溢れるほどいるんでこのくらい普通ですって」


 ……普通ってなんだろう。

 私はネットを見れる環境でもなかったのでよく分からないがひとまず警戒レベルは上げておくべきということは分かった。


〈フェイスレス〉『まあ待て落ち着けください』


〈フェイスレス〉『通報は会議が終わってからでも遅くないですし』


〈白百合の騎士〉『否定しないだと……』


〈ロンリーコング〉『ついにうちのギルドから犯罪者を出してしまうとは……』



〈シミパンマン〉『触らずの誓いはどうした!』

〈フェイスレス〉『いや冗談ですので、姪っ子にプレゼントするだけですよ』


〈ロンリーコング〉『なんだ手出してないのか』


〈シミパンマン〉『ケッ、チキンが』


〈白百合の騎士〉『お前の覚悟はその程度だったのか、失望したぞ』


〈フェイスレス〉『どうしろと?』


〈フェイスレス〉『まあそれは置いておくとして解答をどうぞ』


〈ロンリーコング〉『ランドセルを背負った幼女を見つけて諭吉を差し出し土下座。脱ぎたてほやほやゲット』


〈シミパンマン〉『で食べる』


〈白百合の騎士〉『それやったらお腹壊した』


〈フェイスレス〉『通報した』


〈シミパンマン〉『通報した』


〈ロンリーコング〉『通報した』


〈白百合の騎士〉『警察の魔の手が今度は私に……!?』


〈シミパンマン〉『警察なのに魔の手てw』


〈ロンリーコング〉『むしろ魔の手はお前だよ』 


〈フェイスレス〉『ちなみに真面目な解答は?』


〈ロンリーコング〉『ネットでポチる』


〈白百合の騎士〉『デパート行ってプレゼント用に包んでもらえば怪しまれることもないんじゃ? 実際プレゼントなんだし』


〈シミパンマン〉『そうだ、その姪っ子に土下座して恵んでもらえばいいのでは?』


〈ロンリーコング〉『それだ!』


〈フェイスレス〉『本末転倒って言葉知ってます?』


〈シミパンマン〉『けど最近の子って結構難しいですよ? 子供っぽすぎると怒りますし一緒に買いに行くのが無難では?』


〈白百合の騎士〉『特に〈フェイスレス〉なんて名前のセンスの人に選んでほしくないですww』


〈フェイスレス〉『えー自分はこの名前カッコよくていいと思うんですけどねぇ』


〈シミパンマン〉『そういうとこだゾ』


〈フェイスレス〉『残念です……しかし一理あるので参考にさせていただきます。ありがとうございます』


〈シミパンマン〉『いえいえ。お代は試着写真でいいですよ』


〈フェイスレス〉『まともな解答に一瞬見直した過去を消し去りたい』


「好みか……確かに」


「服買いに行くんですか?」


 呟く男に何気なく聞いてみる。


「ああ、はい。明日にでも行こうかと」


「……そうですか」


 姪か……どんな子なのだろう。しかしこの男平和ボケしすぎでは?

 誘拐した子を放って姪のプレゼントを買いに行くとか。まあ私には関係のない話だが。


〈フェイスレス〉『あともう一つ、痛みは感じるけど熱を感じなくなる病気ってご存じですか?』


〈ロンリーコング〉『なんか小難しいこと言い出したぞ』


〈シミパンマン〉『うおぉぉぉ脳が焼け死ぬぅぅぅぅ!』


〈白百合の騎士〉『知恵熱で死ぬ人初めて見た』


〈ロンリーコング〉『てか誰か医学部の人いなかったっけ?』


〈白百合の騎士〉『それフェイスレスさん』


〈シミパンマン〉『じゃあダメじゃんw』


〈フェイスレス〉『ですよねぇ』 


 思わぬところで男の素性が見えてしまった。医学部ということはおそらく大学生か。

 確かに治療の手際などはよかったが医者を目指しているのだろうか。


〈ロンリーコング〉『そういえば次のオフ会はみなさん問題なく?』


〈フェイスレス〉『来週でしたっけ』


〈白百合の騎士〉『私に予定が入るとでも?』


〈シミパンマン〉『例え雨が降ろうと母の頭上に槍が降ろうと駆けつけるさ』


〈ロンリーコング〉『もっと母親を大事にしなさい?』


〈フェイスレス〉『ペットの世話があるんで休んでもいいですか?』


〈ロンリーコング〉『我々のことももうちょっと大事にしてくれません……?』


〈白百合の騎士〉『ペットなんて一日くらい放っておきなさい』


〈シミパンマン〉『私とペットどっちが大切なのよ!』


〈フェイスレス〉『じゃあ幼女の世話なら?』


〈ロンリーコング〉『それは仕方ない休め』


〈白百合の騎士〉『放って来たらすり潰します』


〈シミパンマン〉『むしろ連れてきて』


〈ロンリーコング〉『天才かよ』


〈白百合の騎士〉『餌付け用お菓子10キロくらい持ってく』


〈フェイスレス〉『そのお菓子でパーティーですね。もちろん4人で』


〈ロンリーコング〉『あ、フェイスレスさん先に帰るんですね』


〈シミパンマン〉『私が代わりに持ち帰ってお世話してあげるんで安心してください』


〈フェイスレス〉『いやここの4人だけですから。架空の幼女に僕の席を奪わせないでください』


〈白百合の騎士〉『そんなにタマゴボー○食べたいの?』


〈フェイスレス〉『まさかのお徳用タマゴボー○10キロ?』


〈白百合の騎士〉『子供は好きでしょ?』


〈ロンリーコング〉『タマゴボー○を過信し過ぎでは?』


〈シミパンマン〉『過信し過ぎって日本語頭悪そう』


〈ロンリーコング〉『出たな重言警察、ら抜き警察と一緒に滅びてくれ』


〈シミパンマン〉『私怨を感じる』 


「ん?」


 ネットでの会話に気をとられていた男はふと後ろから体重がかかってきたことに気づく。


「……寝てしまいましたか」


 疲れは溜まっていたのだろう。肉体的にも、精神的にも。

 緊張が弛んだところで限界を迎えたといったところか。

 かかる体重を手にのせて布団の中に入れてやる。


「長い間耐えてきた分、ゆっくり休んでください」


 消え行く意識のなか、体を包む重さと優しい声音を感じる。


 ああ、これほど心地よい一日の終わりも久々だ。

 そういえば今日は誕生日だったか、気づいたところで今日はもう終わろうとしているのだが。

 結局自分で用意しようとした自分へのプレゼントは駄目になってしまった。

 しかし思わぬところで叶ってしまった。地獄からの解放という願いが。


 男の思惑は未だ分からないけれど今日の幸せは間違いなく男がくれたもの。

 男が意図したものでなくても関係ない、今だけは感謝を捧げよう。

 警戒もしないといけないけど……それはまた明日に……。

この作品を面白いと思っていただけた読者様へ

 

不躾とは存じますがお願いがございます。


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より多くの人に感動を届けることを目標とする作者にとって、読者様が増えることはモチベーションの向上に繋がり、作品の質と更新頻度の向上にも繋がります。


皆様のご協力で本作品をより良いものにしたいと存じます。


どうかよろしくお願いします。



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