第二章11.新たな仮定
「と、いうわけで、第一回チキチキ能力検査ー」
「……いやどういうわけですか?」
突然明るい口調で企画を始めた青葉に戸惑いながらも一応聞いた。
「施設案内も済んだし、宇花ちゃんの能力について調べたいなって」
「それにしたって温度差激しすぎてついていけないのですが……」
「重い空気を換気したかった」
「あー……。気を使わせてしまったみたいで申し訳ありません」
「春瀬君、あまり気にしすぎないように。確かに彼女が苦しみ続けているのはあなた達のせいなのかもしれない。けどそうしなければ『白銀優希』は今頃この世にはいなかった」
「はい……ありがとうございます」
「……春瀬さんのせい?」
「また今度説明するから、今はそっとしておいてあげて?」
「? はい……」
宇花は怪訝な顔をしたが、自分にも説明する余裕はないので心の中で謝罪する。
彼女、白銀優希は第三症状を越えた唯一の生き残り。
悪夢の中で生き長らえさせるというのは酷だが、起こすわけにも、況してや最悪の手法で楽にさせる訳にもいかない。
どうあれ罪悪感から逃れられない僕は彼女に会うだけで周囲の空気を重くしてしまうらしい。
それを分かっているからかいつもフォローしてくれる青葉には感謝しきれない。
「じゃあ早々で悪いけど春瀬君、頼める?」
「もちろん、元々その予定だったので」
「? えっと、何の話?」
「宇花ちゃんの能力、春瀬君に使ってみようかって話」
「え……大丈夫なの?」
「催眠の能力だと他人に使ってみないと確かめようがありません。危険な能力なのか確認するなら、それはここに連れて来た僕に責任があるので」
「危険はないと思うけど……じゃあ、お願いします」
「お願いするのはこちらの方ですよ」
そう、宇花の催眠能力を受けることに抵抗はなかった。
だから自信満々に答えたのだが……。
「えっと……」
「あ、ちょっと目反らさないでよ。能力使えないから」
「はい……けど改めて見つめ合うとなると……なんか恥ずかしくありません?」
「え? 全く」
「メンタルがお強い……」
情けないことに女性経験の乏しい身では催眠発動の条件である数秒間目を合わせることが難しかった。
呼吸を整えもう一度視線を交差させる。
「……」
「……」
緊張で逸る動悸に耐え、視線を固定し続ける。
どうしてこういった時間は長く感じるのだろう?
嫌な訳ではないのだが、気恥ずかしさからか頭がふらつく。
開き続けているからか目も乾いてきて……。
「……あの」
「はい」
「流石に長すぎません?」
「……はい」
長く感じる、とはいえ30秒近く経っているのは確かだった。
それまで意識が途切れた記憶はない。
つまりは……。
「使えなくなってしまった……と?」
「…………はい」
春瀬白と会う前まで使えていたらしい催眠能力、それが使えなくなったらしい。
沈黙が続きまたも空気が重くなり始めた頃、青葉が声をかけた。
「……今までその能力は何回くらい使った?」
「えっと、たぶん10回以上……全員男の人だったけど大体5秒も目を合わせれば発動して……」
「うーん……」
「何か分かりそうですか?」
「全然。強いていうならここ最近は春瀬君の家で暮らして精神負荷も少なかったみたいだし、むしろ発動しなくて良かったのかも?」
「なるほど……」
言われてみれば心壊症能力を発動するときは自分も無理矢理心に負荷をかけている。
とはいえこちらの都合で彼女に無理をさせるべきでもないだろう。
「検査は難しそう、かな。じゃあ今日はお開きにしようか」
「……そうですね。じゃあ凪さんとつぼみさんを……」
「春瀬君はちょっと話あるから。宇花ちゃん、お願いしていい?」
「あ、うん……」
少し気落ちした様子ながらも返事をして二人のいる方向へ向かう。
おそらく目に見えない体の変化に不安を感じているのだろう。
彼女を見送り、姿が見えなくなったところで青葉に話しかけた。
「それで、話というのは?」
「……心壊症は未だに分からないことばかり、とはいえ解明されていることもある」
「? 突然何を……」
青葉は自分の言葉を遮り、そのまま続ける。
「例えば症状の段階について、第二症状なら精神負荷がトリガーとなって能力が発動する。身に覚えはある?」
「ええ、まあ……」
能力発動の度にそこそこキツいトラウマを掘り起こしているのを思い出す。
つぼみも精神的に追い詰められたときはよく炎が漏れ出ていたのでそこはみんな同じなのだと思っていた。
「そして第二症状の能力を酷使することで第三症状に移行する……けど、実は例外もある」
「例外?」
「その一つが、精神負荷に関わらず条件さえ満たせば勝手に能力が発動してしまうケース。言ってみれば第二と第三の間、通常の第二症状よりも危険な状態……」
「……それが宇花さんだと?」
「そう……正確にはそう思ってた……話を聞いた限りでは」
「しかし今回は発動しなかったと……発動条件が違うのか、それとも新しい例外なのか……」
幾つか予想を挙げてみるが、それに対し青葉は首を振る。
「単に想定と違っただけならそれでいい。けど赤佐宇花には第一症状、感覚喪失が今のところ見つかっていない」
「……? えっと……つまり宇花さんは心壊症患者ではないと言いたいのですか? けど彼女の話に嘘がなければどう考えても……」
赤佐宇花には心壊症を患ってもおかしくない過去がある。
それに話に出てきた催眠の能力は明らかに心壊症絡みだ。
青葉も宇花の話を否定するつもりはないらしい。
それを踏まえた上で、彼女は口を開いた。
「……赤佐宇花が能力を発現したときから、ずっと彼女と共に行動していた人間がいる」
彼女は神妙な面持ちで疑念を僕に語る。
「その子は能力検査のときはいなかった。それに第一症状と思われる睡眠障害が見られるようになったのも能力が確認されてから」
「っ、まさか……!」
そして述べる、今までの前提を全て覆すような仮定を。
「催眠の能力を持つ心壊症患者は赤佐宇花ではなく、妹の赤佐凪かもしれない」




