表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
第二章:パパ活少女と妹の話
44/79

第二章1.庇護の汚泥

 私は恵まれていた。


 自分で言うのもなんだが顔とスタイルは良くそれなりにモテた。

 それで同性から煙たがれることもなく友達にも恵まれた。


 家では私と妹と両親の4人家族でずっと家庭円満。

 何不自由なく、幸福で、平和な日々だった

 けれど、そんな平和な時間は……パパの一時の情欲に壊された。



 ある日ママが買い物に出掛けている時間、突然部屋に押し入ってきたパパに襲われた。


 もちろん抵抗した。

 けれど豹変したパパへの混乱の方が大きかった。


 どうすることが最善か、どうすれば今まで通りの平和は保たれる?

 段々と、どうしていいか分からなくなって、最後は為されるままに純潔を散らした。


 動き続けるパパを他所に呆然としてしばらく経った頃、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 その主はママだった。

 行為に夢中だったパパは扉の方を見て、すぐに青ざめる。


 ああ、これで終わりか。

こんなことをされても、まだパパを好きだった頃の感情も少しは残っていた。

 できることなら、今まで通りの生活に戻りたい。


 けれど、無理だろう。

 パパが犯した罪は大きすぎる。


 ママが床を力強く踏み、近づいてくる。

 残念だがこれでパパともお別れか、そんな風に思っていた。


 しかし、私の予想とは違うベクトルでそれは実現した。


「出ていきなさい。二度と顔も見たくない」


 その言葉を放ったママが見ていた対象は、パパではなく明らかに私だった。


 ママは関係を続ける相手として、私ではなく私を襲ったパパを選んだのだ。


 私が幸せだと思っていた家庭、けれどパパは私を汚れた目で見ていて、ママはそんな汚れたパパを選ぶために私を捨てた。


 今まで裏切られたことがほとんどなんてなく、ずっと幸福に生きてきた私の精神は弱く脆かった。


 こんなものが私の大切にしていたものだったという事実は、私の心を意図も容易く粉微塵にした。




 放心しながら目的もなく歩みを進める。


 刻は黄昏、人目は少ないけれどいつも以上に気になる。

 こんな惨めな私を見て、人々は何を思うだろうか。


 彼らは何を思っているのかなんて分からない。

 分からないから、両親が私をどう見ているのかも分からなかった。


 今はとにかく誰にも会いたくない。

 もう、誰にも裏切られたくない。

 

 とにかく人目のない方へと進み、公園の遊具に身を潜めることにした。


 だが隠れて間もなく、人の気配が近寄ってくる。


 やめろ、やめろ、やめろ。


 とにかくこちらへ来るなと必死に願った。


 願いも虚しく、足音は確実に近づいてくる。


 せめて話しかけないでくれと俯き顔を隠す。


 無情にも気配の主は私の足を掴んだ。


 いっそ大声で嘆こうかと思ったとき、私は気づいた。


 私に触れる手の大きさと、すすり泣く嗚咽に。


「お……姉、ちゃ……」


 顔を上げ、目に飛び込んできたのはボロボロと涙を流す妹の姿だった。


 私に差し出されたのは嘲笑の後ろ指でも救いの手でもなく、むしろ救って欲しいと言わんばかりの小さな手だった。


「置いてっぢゃ……やだ……」


 思わず手を取りそうになる。


 しかし今の私にそんな余裕はない。


 助けてほしいのも泣きたいのも私の方だ。


「……だめだよ。あんたは……帰る家があるでしょ」


 冷たく突き放す。

 その方がこの少女は幸せに生きられるから。

 私なんかに着いて来ては……。


「お姉ちゃ……ない家……いらないもん……」


 そんな我が儘を言われてどうしろと。


 普通に考えて私は一人でも生きていけるか分からない。

 況してや二人なんて……だからここで妹は帰すべき……。


 けれど、私は思わず妹を抱き締めてしまった。


「お姉……ちゃん……」


「……どうしても、着いてくる?」


「う゛ん…………」


「分かった……いい子にしててね」


 私を必要としてくれる人がいる。

 その事実は私の痛みを和らげた。


 絶対に守らなくてはいけないという重圧がのし掛かる。

 けれどその重荷は、すべて失ったときよりずっと軽かった。




 家を失った。


 今は冬場、一晩過ごして分かったが止まる宿がなければ生きていけない。

 昨晩はコンビニで夜を明かしたが、寝床にはならず一睡もしなかった。


 昼間は比較的過ごしやすく、公園に戻り仮眠をとったがこんな生活は続けられない。


 拠点がない、お金もない、そんな私に残された選択しといえば……。


「妹と一緒に泊めてください。……私には何をしても良いので」


 体を売ることだった。


 どうせ既に汚れた身、気にすることはない。

 生きるために必要なことだから、恥ずべき行為ではない。


 そう自分に言い聞かせて、会社帰りの男数人に声をかけてようやく宿を確保した。

 その男が危険人物じゃないか、リスクの大きな賭けだと自覚しているが、他に方法が思いつかなかった。


「妹さん、寝たよね? そろそろいいかな」


 寝かしつけるという理由で時間を稼いでいたが、1日ぶりの暖かい寝床で妹はすぐに熟睡してしまった。


 これでもう逃げ場はない。

 逆らってはいけない、逆上されて追い出されると困るのは私達だ。

 男が手招く方へと近寄る。


 少しでも畏怖を紛らわすために顔を背けていたが、男に無理矢理顔を引き戻され、目が合う。


 吟味するように、舐め回すように私の顔と体を見る。


 その顔は昨日見たパパと同じだった。


 私を人ではなく、欲望の捌け口としか見ていない。


 大丈夫なつもりでいたが、体が震える。


 豹変したパパのときとは別の恐怖、愛がなくただ一言に気色が悪い。


 怖い、怖い、怖い。


 男が恥部に手を伸ばしてきて、思わず……。


「っ……やめて!」


 耐えきれず払い除けてしまった。


 しまった、どう弁解する。

 なんて言えば追い出されない? 

 考えろ、妹のために。


 乱れる思考の中で必死に言葉を紡ごうとする。

 すると男が、


「………はい」


 無気力な返事をした。

 その言葉がどんな意味をするのか理解できず、思考が完全に停止した。


 怒りを露にしているだろうと思い、怖くて見れなかった顔を恐る恐る見る。

 そこには怒る様子も、先程のような下卑た表情もなく、まさしく無表情だった。


「……怒ってないの?」


「はい」


「……何もしなくていいの?」


「はい」


「……言うこと、聞いてくれるの?」


「はい」


 わけが分からない。

 男は淡々と私の質問に答えるだけ。


 まるで催眠でも掛けられたように……。


 段々と緊張の糸が解け、ここ二日分の疲れがドッと押し寄せてきた。

 もう思考する気力も残っていない。


 よく分からないけれど、この男が私の言うことをなんでも聞いてくれるというなら、


「……とりあえず、明日の昼まで床で寝てて」 


「はい」


 男を退かしてベッドを借りることにした。


 それにしても、本当に疲れた。


 問題が解決したわけではない。

 明日この状況をどうするかも決まっていない。


 けれど、考えるのはちょっと休憩してから……。




 疲れていた割りには、朝早く目が覚めた。


 ベッドが変わったからだろうか? 当然ここは知らない男の部屋という事実は変わらない。


 しかし寝る前とは異なる点が一つあることに気づいた。


「……ん?」


 私の腕に抱きつく形で寝ているものがいる。


 それは別の部屋で寝かせたはずの妹だった。

 夜のうちにわざわざ移動してきたのだろうか。


 隣で寝るといえば、と辺りを見回す。


 すると床で寝ている男を発見した。

 やはり昨夜の出来事が夢じゃなかったのか。


 しかし昨晩の現象は一体何だったのか。


 犯されると思って拒絶したら私の言いなりになって。


 催眠術の知識などはないが、彼の状態は催眠のそれに近かった。


 私が何かしたのだろうか?


 ……まあ考えても分かるわけがない、か。

 記憶が正しければ男は昼まで起きないはずだから時間はあるが、早いところ逃げた方がいいだろう。


「……起きて、そろそろ出るよ」


「ん……ぅ……」

 

 妹を起こし、部屋を出る準備をする。


 しかしあまりの準備の少なさにどうしても不安を覚える。


 ……どうせ逃げなきゃいけないならいっそ……。


「……お姉ちゃん? それおじさんの財布……?」


「……うん、お小遣いくれるって約束してたの。これでご飯食べに行こっか」


「そうなんだ……おじさん起こさなくていいの?」


「……急ぐよ」


「……うん」


 財布からお札を数枚抜き取り、部屋を出る。


 もちろんお小遣いの約束というのは嘘だ。


 生きるのにお金は必要、しかし妹に必要のない罪悪感を与えたくはない。


 これは私一人の罪だ。妹を守れるなら私はどれだけ汚れたって構わない。

 そう言い聞かせた。


第二章スタートです。

是非楽しんでいただけると嬉しいです。

次回の更新は1週間後を予定しています。


※この作品を面白いと思っていただけた読者様へ

 

不躾とは存じますがお願いがございます。


本作品のブックマーク、および☆☆☆☆☆の評価をご協力いただけないでしょうか。


この2つによりこの作品の評価ptが上がることで、より多くの人に読んでいただく機会が得られます。


より多くの人に感動を届けることを目標とする作者にとって、読者様が増えることはモチベーションの向上に繋がり、作品の質と更新頻度の向上にも繋がります。


皆様のご協力で本作品をより良いものにしたいと存じます。


どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ