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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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第一章28.それぞれの境遇

 移動先は取り壊し予定の廃工場にだった。

 人目につく訳にもいかないためにここを選んだのだろうか。


「そろそろ銃を下ろしてもらえませんか? このままじゃ話しにくいでしょう」


「……そうね、こんなことしなくても逃げられないことには変わりはないものね」


 すると背中の感触が消えた瞬間、別方向から金属扉の締まる大きな音が響く。


「……閉じ込められたって感じですかね」


「あなたがどんな方法で逃げ出すか分からないもの。退路を断つ準備は先にしておいたの」


「なるほど……それで白銀さんでしたっけ。僕が犯罪者? 一体何をしたって言うんですか」


「惚けても無駄よ。少女失踪事件、あなたが誘拐したのは分かっている」


「では何故逮捕しに来ないんですか? 証拠もないのに決めつけられても困るんですが」


「証拠なんて関係ない。私には犯人を知る能力がある、あなたと同じようにね」


「……なるほど。隠しても無駄みたいですね。参考までにどんな能力か聞いても?」


「そうね……私の質問に答えてくれたら私も教えるわ。何故、誘拐なんてしたの?」


「……失踪した少女の生活環境をご存知ですか? 学校でも家でも虐げられ、誰にもいうことができずに長い間耐えるしかなかった。僕は彼女を助けたかった。ただそれだけです」


「助ける? ふざけないで。見知らぬ男に連れ去られて監禁されて怯えることしかできない。助けになるはずないでしょう」


「……助けようともしなかった人に言われたくないですね。ましてや警察なんて助ける力があるはずなのに」


「だから今助けようとしている。卑劣な誘拐犯の手から助け出そうとしているのよ」


「彼女は今が幸せだと言っています。彼女が今怯えているのは誘拐犯ではなく、今ある幸せを取り上げようとしている警察に対してです」


「ただの妄言よ。犯罪者の妄言に乗せられて堪るものか。あなたは誘拐がどれほどの人を不幸にするか分かってない。誘拐された子供はもちろん、その子供を愛する者まで悲しませる。帰らぬ子供を心配し、挙げ句もう二度と会えなくなった親の気持ち、私には分かる。あなたには分からないでしょうね、だからこんなことができる。だから私は、あなたを許せない」


 白銀は拳を握りしめ恨みを込めた視線で相手を見る。

 もしかしたら彼女は過去に何かあったのかもしれない、それこそ心壊症になるほどの何かが。

 けれどそれは自分たちには関係のない話だ。


「妄言はどっちですか。下らない一般論をさも正論のように語って事実を見ようともしない。誰にも愛されない不幸な子供だっていることを知ってください。あなたは今、そんな子供がやっと手に入れた幸せを侮辱したんだ。あなたの勝手な感情で、権威を振りかざし少女の唯一の幸せを取り上げる。僕はその行為を許せない」


「……これ以上話しても無駄ね。約束通り私の能力を教えるわ。私は犯人に繋がる糸が見えるの。私にしか見えない、誰にも触れない光の糸」


「その糸が、少女失踪事件の犯人として僕に繋がったと」


「ええ、それからもう一つ。普段は触れられないけれど、一定以上近づいていれば実体化することも可能なのよ。こんな風にね!」


 すると突如、胸部から白銀の手に繋がる光の糸が現れ、糸は何重もの円軌道を描いて春瀬の体を縛り上げた。

 力を入れても糸はびくともしない。

 なす術なく白銀の方を見ると、彼女はまたも拳銃を上げていた。


「このままあなたを殺す。あなたの能力がなんなのかは知らないけれど、法では裁けそうにないもの。だから私が代わりに裁きを下すわ」


「それは困りますね……けれどここまで縛り上げられては逃げられそうにない」


「便利な能力でしょう? 理不尽な犯罪を取り締まるために神がくれた奇跡の力なのよ」


「……それは違う。あなたの能力は神の奇跡などではなく、病です」


「……病ですって?」


「心壊症、この世の理不尽に心を砕かれたとき、感覚の一部と引き替えに能力を得る病気です。そして病気と言われる所以は能力を使い続けることで心を侵し続け、症状が悪化し最後には破滅するからです。……能力を解いてくれませんか? あなたの身のためにも」


「そんな何の根拠もない出任せ信じるわけないでしょう。信じるとしても、それはあなたを殺してからでも遅くない」


「そう言うと思いました。けれどもう遅い」


 言葉に反応するように拳銃の狙いを絞る。

 だが気づけば彼女が銃口を向けた先には何もいなかった。


「消えた……?」

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