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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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第一章27.心層は見えず

2017年12月21日


「僕の心壊症は、羽黒未散という少女の第四症状により発症させられました」


 春瀬はつぼみに話した。

 女性にしか発症しないはずの心壊症が何故男である自分に発症したのか。

 その原因を話すために、全て話した。


 過去の自分と、羽黒未散という『恐怖』の感情を失い心壊症になった少女の話を。


 自分が虐められていたこと。

 自分を助けてくれた羽黒未散という少女が代わりに虐めに会ったこと。

 自分が羽黒未散を助けられなかったこと。

 羽黒未散が、自分を助けるために心壊症を悪化させて、結果第四症状『心喰』を発症させ自分を襲ったこと。


 聞いて、つぼみは口を開いた。


「それは白さ……お兄さんが、春瀬白を名乗る羽黒未散さんということですか?」


「いえ、僕は春瀬白です、今も昔も変わらず春瀬白のままです」


「え……でも第四症状は……」


「はい。心を喰らいその人間に成り代わる、新しい体で新しい人間へ。そうなるはずでした」


 だがそうはならなかった。


「……耐えられなかったんです、彼女は。僕の心に渦巻く膨大な恐怖という感情に」


「恐怖に……?」


「羽黒未散は心壊症により長い間恐怖を忘れていた。けれど第四症状で心を喰らおうとして、逆に飲まれてしまった。僕が彼女に感じていた恐怖に押し潰されてしまったんです」


「それで……どうなったんですか?」


「彼女は今も僕の中にいます。僕の心に彼女が住み着いてから、僕に心壊症の第二症状が発症するようになりました。第一症状により失ったものはありませんが、心の傷を開くと僕の存在は周囲に認識されなくなります」


「……羽黒未散さんとは話せますか?」


「……いえ、彼女は一度も出てきたことがありません。色々試して、今回もつぼみさんを助けるところを見せれば出てきてくれるかもしれない思いましたが残念ながら……」


「…………そうですか」


 そう言って少女は俯いた。

 少しばかり重い話を聞かせてしまったから疲れてしまったのだろうか。

 暗い雰囲気を何とかしようと口を開く。


「まあ昔の話ですので、つぼみさんが気にすることでは……」


「白さん、少しわがまま言ってもいいですか?」


「何でしょうか?」


「私が出ていくのと白さんが出ていくの、どっちがいいですか?」


「え……?」


「少し、一人で考えたいんです」


「……分かりました。3時間ほど歩いてきます。何かあれば連絡してください」


 意図は分からなかった。

 けれど俯く少女のわがままを拒めず、春瀬は一人外に出た。




 夕焼けに照らされながらゆっくりと歩を進める。


 彼女は何に思うところがあったのだろう。

 僕の過去を悲しんでくれている? 

 自身の過去を思い出してしまった?

 それとももっと別の理由で……。


 考えたって分からない。

 例え代用品のハリボテでも立派に機能する複雑な心。

 それを読み解くなんて不可能だ。

 今はただ待つだけ。彼女の心が落ち着いてくれるまで。

 話さなければよかったと後悔しないわけではない。


 けれどそれ以上に彼女に知っておいて欲しいと思った。

 春瀬白という存在を。

 春瀬白は完璧なんかじゃなく、臆病で情けない人間であること。

 そんな人間でも一人の少女を助けるために立ち上がれると彼女に伝えたかった。

 彼女の不安を少しでも減らすために。


 最も、それも裏目に出てしまったのかもしれないけれど。

 陰鬱な気持ちを消しきれず歩く。


 こんな気持ちで帰っても彼女を余計に不安にさせるだけだ。

 やはり暗い話はやめにしよう。

 帰ったら不安なんて感じる暇もないくらい笑いあえるようにしよう。


「止まりなさい」


 不意に背中に硬い感触を押し付けられた。

 突然のことだが大して驚きもしなかった。

 後ろを見なくてもそれがなんなのか、相手が誰なのかも分かっていた。


「……いいんですか? 警察が一般人に拳銃なんか向けて」


「今の私は警察じゃないわ。ただの一般人、ただの白銀優希よ」


「一般人でも銃を持っているのも他人に突きつけるのも犯罪ですよ?」


「犯罪者のあなたに言われてもね……場所を変えるわ。そのまま進みなさい」


「……そうですね、今は従っておきましょう。お互い積もる話もありそうですしね」


 拳銃を突きつけられたまま、ゆっくりと移動を始めた。


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