第一章26.止まぬ執念
少女誘拐の容疑者の家を訪ねた翌朝。
警察署内にて、白銀が出勤したのを確認した彼女の上司は立ち上がった。
「白銀、ちょっといいか」
呼び掛けに応じ、上司の前へと向かう。
白銀は呼ばれた理由を何となく察していた。
「春瀬白の捜査の件ですね」
「……そうだ」
「その感じだと降りなかったんですね、許可」
明らかに難しそうな顔をした上司を見れば分かる。
多少無理を言っている自覚はあったため驚くことではない。
だが目の前の男は未だ浮かない顔を続ける。
「それだけなら話は簡単だったんだがな……」
「……? 他に何かあるんですか?」
「今朝連絡文書が届いたんだ……行方不明の少女の捜索、打ち切るそうだ」
「っ!? そんな、急すぎませんか!」
「上層部では既に話し合われていたらしい。それが先日決まったそうだ」
「それでもまだ手を尽くしたわけでもないのにこんな簡単に諦めるなんて……!」
「俺だって分からない! 納得行くわけがない!」
男が声を張り上げ思わず抗議を止める。
「……詳しい話は今日の会議で聞くが、もう捜査はするなと言われている」
「しかし犯人も目星は着いているのに……」
「……その証拠は押さえられていないんだろう?」
「っ…………」
「白銀巡査長、現在の捜査は打ちきり本日から別件の捜査に当たるように。……分かってくれ」
お互いに歯噛みしながらその場は終えた。
その日の業務終了時間。
「それじゃ、私は帰るわね」
「あれ? 珍しいですね。先輩が残業無しなんて」
「人を仕事の虫みたいに言わないで頂戴。今日やる予定だった仕事が全部キャンセルになったからやることがなくなっただけよ」
「ああ、確かに」
後輩の市松は苦笑しながら同意した。
けれどすぐに苦笑すらやめて陰鬱な表情へと変える。
「……本当に捜査止めてよかったんでしょうか」
「止めるように命令されたのよ。それで捜査を続けては本来の仕事をサボタージュすることになるわ」
「……本当に珍しいですね。いつもの先輩なら無視して捜査を続けて犯人取っ捕まえに行きそうなところなのに」
「私だって業務命令には従うわよ。じゃあお疲れ様」
「あ、お疲れ様です」
白銀の去っていく姿を見て市松は呟いた。
「あんなに熱心に捜査していたのに、本当に諦めてしまったんですか……?」
諦められる訳がない。
上層部がなんと言おうと私の心は変わらない。
私は誘拐犯を決して許さない。
とはいえ表立った捜査はもうできない。
今までは許可が降りなくても証拠を先に見つけてしまえば無理矢理押し通せると思っていた。
だが昨日の訪問では何一つ成果が得られなかった。
その上許可どころか禁止をされてしまってはどうしようもない。
無理に捜査してクビになれば余計に犯人は捕まえられなくなる。
それでも抜け道はある。
捜査の禁止はあくまで業務命令。
行方不明の少女の捜索を警察ができなくなっただけ。
ならその少女を発見し通報があった場合は?
誘拐犯の存在が確定した場合は?
捜査せざるを得なくなるだろう。
そして通報するのは一般人の役目。
業務時間を過ぎれば警察も一般人に過ぎない。
ここからは私個人が趣味で犯人と思われる怪しげな人を調べるだけ。
上からの命令がなんだ、警察の私を止めたからなんだと言うんだ。
個人としての私がその程度で止まると思うな。
私の執念を、舐めるな。




