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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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第一章25.終わらせたくない

 窓のカーテンの影から警察を見る。

 あの女性の警察官、こっちが姿を現した瞬間に気づいた。

 さっきのこの部屋での反応を見るに、僕の位置を正確に把握できる何かがある。

 そういう能力を彼女は持っている。


 つまり彼女は心壊症患者だ。


「あのとき話しかけてきたのも偶然ではなく、第二症状の能力で既に分かっていたのかもしれませんね。にしてもまさか警察官だったなんて」


 女性警察官と会ったのはニュースで報道された日。

 そのときから自分の存在がバレていたということか。


 それでもこれほど時間が経っているのにこの家に無理矢理押し掛けて来ないということは明確な証拠はないのだろう。

 まだ猶予はあるということだ。


 逸る鼓動を押さえながらも考えをまとめる。


「しかし、やっぱりキツいですね……」


 嫌な汗まで出てきた。だがこうしなくては切り抜けられなかったのだから仕方ない。

 今は耐えるしかない。


「白さん……? 今、何したんですか? 警察来てましたよね」


「……ふぅ、警察から逃れるためにこの部屋の一角の存在を一時的に消しました。僕の能力で」


「能力って……もしかして白さんも……」


「……はい、つぼみさんと同じ心壊症を患っています」


 警察官を撒くために無理矢理第二症状を発症させた。

 心壊症の症状を進めるには心に傷を入れなくてはならない。

 この鼓動も冷や汗も精神的負荷によるものだ。


「僕の第二症状は存在消失、僕と僕が触れているものの存在が他者に認識できなくなります」


「認識、見えなくなるってことですか?」


「視認以外にも僕のいる空間に触れることも無意識的に避けさせることができる。それが僕の能力、ロストフェイスです」


「…………その能力名は自分でつけたんですか?」


「え? 普通つけません? その方がカッコいいですし」


「……そですね」


 半ば呆れながら適当な返事になるつぼみ。

 彼のネットゲーム上の仲間達が言っていた厨二病とはこういうところを差すのだろう。


「でも心壊症は女性にしか発症しないって……」


「ああ、僕の場合は少し特殊なんで……話すには少し時間がかかります。けれど今すぐやるべきことができてしまったので余裕ができてからでもいいですか?」


「やるべきこと……どこか行くんですか?」


「今日のことを組織に報告しに行きます。警察に勘づかれたことと、警察官に心壊症患者がいることを。対応もしてもらわなくてはならないので」


「……私も着いて行っていいですか?」


「できれば家にいて欲しいのですが……留守中にまた警察が来るかもしれませんね。夜に一緒に行きましょうか」


「はい!」


 夜なら人目も少ないだろうと考え、待ち合わせ時間もそのように連絡を入れることにした。


 おそらく警察含めこの家に訪問しに来る者はいないだろう。

 しかし今のつぼみを一人にする方が危険だと考えた。


 現在の生活を脅かす者が目の前に現れたことで精神が余計に不安定になった。

 何かの拍子にまた症状が出るかもしれない、となれば連れていくべきだ。

 そうした思惑から少女の久々の外出と、組織との邂逅が決定した。




 待ち合わせ場所は徒歩5分程度の公園。

 ファミレスなどはどうしても人目に着くため避けたかった。

 さらにいざというときに自分の第二症状で姿を隠せるようにしたかったため、徒歩で行ける場所ということで指定した。


 そして到着すると一人の女性がベンチで座っていた。


「お待たせしました」


「うん、座って」


 女性の手招きにしたがって二人はその女性の隣に腰かける。

 待ち合わせの相手、つまり春瀬の言う組織の人間ということだろう。

 けれどその相手はつぼみも面識がある者だった。


「え……青葉さん、ですよね」


「また会ったね、つぼみちゃん。暖かいココアはいるかな。春瀬くんもコーヒー」


「あ、ありがとうございます」


「どうも」


 いいながら程よく温かい缶飲料を与えてくれたのは、1週間ほど前家に来た3人のうちの一人、春瀬がオンラインゲームで所属するギルドの仲間である青葉李里だった。


「白さん、この人が……?」


「はい、彼女がいつも言っている組織に所属している今日の待ち合わせ相手です」


「改めて、私は秘密結社『シャッター』所属、青葉李里。うちの組織は心壊症の研究をしてる。けど公にはできないから表向きは薬品会社として精神安定剤の研究開発とかもやってる」


「秘密結社……今どきあるんですね」


「ちょっとカッコいいですよね」


「…………」


 ずれたことを言う男にジト目を向ける。

 春瀬の感性は少し子供っぽいところがある。

 ヒーローに憧れる子供と同じような。

 すると青葉は話を続ける。


「そろそろ報告いいかな。あんまり長居しても風邪引く」


「そうですね。実は……」


 今日起こったこと、さらに自分達を追ってきた警察について現時点で分かっていることから予測まで話した。

 その間も青葉は随時メモを取っていた。


「心壊症と思われる警察官……分かった、調べておく。写真とかは?」


「記録用のカメラに写ってると思うのでまた明日持っていきます」


 真面目な顔で話し合う姿を見て改めて思った。

 今まで春瀬が言っていたことは冗談ではなかったんだと。


 嘘だと思っていたわけではないが超常を引き起こす謎の病気、それを対策する謎の組織、そんな物語のような話こうして目の当たりにしなければ実感は湧かない。


 青葉が話を進める。


「こんなに早く手を出して来るとは思ってなかった。こっちも根回しして捜査しにくくなるようにしておく」


「根回しってそんなことできるんですか?」


「秘密結社に不可能はないのだよ」


「警察の上層部につてがあるらしいですよ」


 つて、というのも合法的なものではないだろう。

 秘密裏の組織で警察につてと言えばスパイのようなものと考えて良さそうだ。

 彼女の言う秘密結社と言うのは思っていた以上に大きな組織なのかもしれない。 


 冷や汗を誤魔化すために未だ温いココアを喉に流す。


「とまあ報告は以上ですかね」


「分かった。警察の件は明日の朝には何とかしておく。今日は戻って残業か」


「すみません」


「まさかこんな時間にこんな大事な報告がくるとは」


「本当にすみません……でもできるだけ早く手を打った方がいいと思ったので」


「だね。でも無事でよかった。君達に何かあったら芽吹が悲しむ」


「そうですね……また近いうちに集まりましょう。クリスマスにでも……ん?」


 話しているとふと春瀬の右腕に軽めの体重がかかる。

 見ると横に座っていた少女は静かに寝息をたてていた。


「寝ちゃったね」


「……寝ちゃったと言うより寝させたんですよね」


「む、人聞きの悪いことを言わないで欲しい」


「人聞きの悪いも何もココアに何か混ぜたんでしょう?」


「寝させるために入れた訳じゃない。ただかなり不安定だったみたいだから少し強めの精神安定剤が必要だと思った。副作用で眠くなっただけ」


「それはまあ……でも言ってくれれば帰ってから飲んでもらったのに」


「甘いよ、子供は薬を飲むってだけで余計に不安がる。気づかないように飲ませるのが一番」


「……まあそういうことにしておきますか」


 どうやら少女の精神状態を案じて一服盛ることにしたらしい。


 確かに警察が来たことで相当不安が煽られただろう。

 心壊症患者にとって不安は危険な敵だ

 その薬で少しでも落ち着いてくれればこちらも安心できる。


「……それで春瀬くん、君は大丈夫?」


「何がですか?」


「第二症状、使ったんだよね」


「……少しキツかったけどまだ今は問題ありませんよ」


「そう……いつまでこんなこと続ける? 現状維持もそろそろ限界。逃げるにしても捕まるにしても決めて動かないと後悔する」


「分かってます。けどつぼみさんの傷がなおるまで、症状が安定するまでは……」


「体はともかく心は時間が解決してくれるものではない。何かしてあげたいならそこも含めて早く決めないと」


「…………」


「ごめん、そのくらい言われなくても考えてるね」


 反論することなく黙っていると何かを悟って謝られてしまう。

 正しいのは青葉であり、謝るべきは自分の方なのに。


「……何にしても、言ってくれれば『シャッター』はつぼみちゃんを守るよ。少し不自由を強いることになるかもしれないが匿うことも可能。君がうちの組織に入ってくれるならね」


「そんなに念を押さなくても分かってますよ。全て終わったら僕は組織に入る。その代わり支援は惜しまない。そういう契約ですから」


「ならよかった。それじゃ私は戻るよ」


「はい、お体に気をつけて」


「君達も、風邪引かないように気をつけて」


 そう言って青葉は公園を後にした。


「……帰りますかね」


 青葉に言われたことを噛み締めながらつぼみを背負い帰路に着く。


 いつまでこんなこと続ける、か。

 早く終わらせるべきなのは分かっている。

 けれど終わりを求めている者はいない。

 背に眠る少女も、自分自身もまだ終わってほしくないと思っている。


 だが人の意思に反して、終わりはもう近い。

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