第一章23.証拠はなくとも
あれから1週間が経過、捜査は難航していた。
犯人は監視カメラも上手く避けており、物的な手掛かりは一切見つかっていなかった。
他の捜査でも同じ。
学校は体罰などの事実は隠蔽し、警察に通報しなかった理由も少女の父親が厳しい人物だったから訴えられる可能性も考慮したと上手く逃れられた。
そして当の父親は焼死、焼けた家からは何も見つからず全てにおいて行き詰まっていた。
白銀優希は焦っていた。
今さら焦っても仕方ないかもしれないが少女が誘拐されてから少なくとも2週間以上。
時間が経てば経つほど少女の生存は危ぶまれる。
仕方なしと、強行策に出ることを決めた。
「部長、少しお願いがあるのですが」
「……またか。お前のお願いは危なっかしいからあまり聞きたくないんだが……」
40代の男性、私の上司に当たる部長がげんなりした顔で言う。
「すみません。この男を捜査したいんです」
私は机の上に写真と書類を提示した。
「……これは?」
「春瀬白、21歳大学生。今回の事件の容疑者……の可能性が高い男です」
「……証拠は?」
「ありません」
「はぁ…………毎度同じことを言うようだけど、捜査しようにもそれ相応の根拠がないと許可は出ないんだよ! しかも今回の事件って火災および少女失踪のやつだな? 火災は事故としてすでに処理されている。少女の方は誘拐されたのかすら断定できていない。山で遭難したかもしれないし他の可能性もある。そんな状況で証拠もなく犯人だと思うからなんて理由で捜査できるか!」
年長者からの説教に少し萎縮してしまう。
けれど引くつもりはないと目線で訴えた。
「なんでこの男を捜査しようと思った?」
「……根拠はありませんが、以前買い物をしてるときにこの男とすれ違いました。男子大学生にしては手の込んだ食材を買っていたことが気になって……他にも電話での会話内容など気になる点がいくつか」
「ようするにお得意の勘が働いたか」
「そうなりますね。いつもと同じように」
いつもと同じ、と強調して言ったのは伝わっているだろう。
部長は知っている。私の勘が外れたことがないことを。
だからそれを交渉材料として提出した。
「……確率は?」
「95%」
「よくそこまで高い数字を軽々と言えたな……拠点は?」
「調べてあります」
私の即答にしばらく悩んだ末、部長は答えた。
「……分かった。何とかしてみよう」
「ありがとうございます」
「ただし、踏み込みすぎるな。あくまで訪問まで。家宅捜索などの許可までは無理だ」
「分かっています」
「それが本当ならいいんだが……前回はやらかして俺まで始末書書かされたんだからな……」
「重々承知しています」
「……まあいい。市松、ちょっと来てくれ」
部長が作業をしていた後輩を呼びだすと、彼はすぐさま立ち上がり私の隣に立った。
「はい! なんでしょうか!」
「これから白銀と一緒にこの男の調査をしてもらう」
「今回の容疑者ですか?」
「違う、白銀が勝手に目星をつけただけの一般人だ」
「なら容疑者じゃないですか、先輩が言うなら間違いないですよね」
「……まあお前がどう思うかは勝手だが、現時点では証拠もないからあまり踏み込んだ調査はできない。白銀がやり過ぎないようにお前が止めてくれ、市松」
「無理です! 俺に先輩を止められる気がしません!」
「無理じゃない。やらないと巻き添えを食うことになるぞ」
「そんなぁ」
「ちょっと、酷くありません? 二人とも私をなんだと思っているんですか」
「周りが見えなくなるほど捜査に入れ込んで平気で俺に迷惑をかける女」
「とてもストロングな尊敬できる先輩です!」
「その節はすみませんでした。市松は後で覚えておきなさい」
「褒めたのに!?」
「ストロングは女性に対する褒め言葉じゃないわ」
「えーかっこいいじゃないですか、ストロング」
「女はその種のかっこよさを求めないのよ。それともかっこよくない私には着いていけない?」
「いえ、どんな先輩でも付いていきます!」
「……市松、あなた犬みたいって言われない?」
「よくわかりませんが高校の頃は忠犬イチ公って呼ばれてました!」
「ハチ公じゃなくて? ……ああ、市松のイチか」
「あーそろそろ無駄話はあとにしよう。ひとまず手続きもあるから今日のところは身辺調査、明日の午後に本格的に動いて貰う」
真面目な話へと戻り上司としての指示を貰う。
指示とはいえこれは私の願いを聞き入れてもらったものだ。こちらも真摯に答えよう。
「分かりました。明日12月20日午後5時、春瀬氏を訪ね、可能な範囲で取り調べます」




