第一章22.許せない
後輩に指示を伝え別行動を取ることにした。
捜査のため愛車に乗り込み、座ってひとつ大きめのため息をつく。
「信じる、か」
市松とは短い付き合いだがいくつもの捜査で協力してもらった。
中には殺人事件もあり、私たちの手で解決したこともあった。
そしてそれらの捜査で私の「勘」は外れることはなかった。
市松からすれば私は勘の鋭い先輩程度にしか考えていないのかもしれない。
けれど私が勘と称するのは、実際はただの勘ではない。
私には人には見えない「糸」が見える。
その糸を私の人差し指の先から延びており、辿ると事件の犯人に繋がっている。
私と探し人を結ぶ私にしか見えない糸、それが私の「勘」の正体だ。
その糸はいつも犯人に繋がっていた。
糸が見えるようになったのは3年前のことだ。
私には一人の娘がいた。
旦那とは娘が生まれる前に離婚した。
原因は生活スタイルの違い。
警察官である私は休みなどがあまり融通を効かせられなかった。
それが旦那に思うところがあったらしく妊娠から10週目で別れた。
子供が生まれてからでは離れにくくなると思ったのだろう。
旦那との別れはそれほど辛くなかった。元々見合いの席での出会い、相性もよくなかった。
だが離婚したのは我々の問題であってお腹の中の娘には関係ない。
私のできる限り不自由ない暮らしをさせてあげたいと思った。
旦那と別れた私の生きる目的は娘しかいなかった。
女手一つで育てるには働く必要があった。仕事柄家を空けがちでよく一人にさせてしまった。
母親としては失格だと思う。けれど二人で生きるためには必要なことだからと娘にも自分にも言い聞かせていた。
そんな私の傲慢が事件を起こした。
4歳になった娘が誘拐された。
私が仕事をしている頃に一緒に外を出歩いていた私の両親が目を離した隙に拐われたらしい。
私は自身の持てる権限全てを使って捜索した。
監視カメラ、近隣住民、考えうる方法全て用いて調べ尽くし、犯人の拠点を突き止めた。
結論から言えば手遅れだった。
突入した頃には犯人の男は海外へ高飛び。そして部屋に残された娘は息をしていなかった。
見るに耐えない部屋の惨状。
裸に剥かれた遺体はアザや傷、そして何かも調べたくない液体まみれ。
見たとき体の内側から何かが粉々に散る音がした。
耐えきれなかった。
生きる目的を奪われた。それも暴虐の限りを尽くされた上で。
娘を失った悲しみは、次第に守れなかったことによる自分への怒りと、犯人への憎しみへと変わっていった。
絶対に許さない。
憎悪が頂点に達したときだった。私の目には奇妙なものが見えていた。
指先から伸びる希薄な光の糸。他の人に聞いても見えないという、私のみが見える糸。
最初は幻覚かとも思った。
暫くは無視して高飛びしたという犯人を調査した。
調べた結果、台湾にいることが分かり、私は休暇をとってすぐに追った。
海外ともなると調べる方法は限られ見つかるわけもないと思いながら、それでも動かずにはいられなかった。
何を便りに探そうか、そう思いながら台湾の地に辿り着いたときに気づいた。
指先の糸の光が濃くなっていた。
なんとなく、ただ宛もなく歩くよりはと思いその糸を辿ってみた。
そして暫く糸に導かれるままに歩くと、その糸が繋ぐ人物がいた。
その者は日本人の男性で、そして調査の際になんども憎悪の目で貫いた顔を持っていた。
逃げ延びた犯人を見つけてしまったのだ。
そこから私は自身を止めることができなくなった。
その男を眠らせ、誰にも邪魔されない廃墟に拉致し縛り付け、目を覚ました男を痛めつけた。
骨が粉々になるまで殴打し、全身丁寧に切り刻み、男の声と涙が枯れるまで苦痛を与えた。
男は何度も謝っていた、だが許す気など起きるはずもなく何の情も湧かなかった。
男が死んでも気がすむことはなかった。
ただ今は憎い、この男のような人間が。
私は犯罪者を、特に誘拐犯を憎むようになった。
同時に私はこの糸についてこう考えるようになっていた。
これは世界の犯罪者を根絶やしにするために神がくれた私の能力なんだと。
この糸のお陰でどんな事件もすぐに解決した。
どんな犯人も簡単に捕まえられた。
そして今回もその糸が見えている。
糸の指し示す人間に接触できた。
奇しくもそいつは男で、幼い少女を誘拐した犯罪者。
だから私はあの男を許せない。
叶うのならばこの手で裁いてやりたい。この能力があれば逃げられることもない。
私が必ず捕まえる。
決意を胸に私は捜査へと車を発進させた。




