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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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第一章21.捜査始動

 警察署にてある捜査会議が行われた。


 内容は火災により死亡した40代男性と行方不明の娘についての事件性。

 捜査報告として白銀優希も参加していた。

 会議終了後、次の捜査について考えているところへ一人の部下が声をかけてきた。


「先輩、白銀先輩!」


「……連呼しなくても聞こえているわ。何か用? 市松」


 話しかけてきたのは男性の後輩だった。

 市松は少し年の離れた私の部下だ。 


「次の指示を貰いに来ました!」


「あなたね……少しは自分で考えて動いてもいいのよ?」


 こうして慕ってくれるのは嬉しいけれど彼も警察官になって2年目、そろそろ自分で仕事を進められるようになってほしいところだ。

 しかし後輩は首を横に振る。


「いえ、事件を早急に解決するなら先輩の指示に従うのが一番なんで」


「そういうことじゃなくて……まあいいわ、なら聞いてもいいかしら」


「はい!」


「うん、返事は良い。けど声が大きい。それで、あなたはこの事件どう見る?」


「……どうというのは?」


「少し整理しましょう。今分かっていることは何?」


 そう聞くと彼は急いで手帳を取り出して答えた。


「えっと……まず12月11日の夜、民家で火災が発生。ほぼ全焼し中から男性の遺体が発見、検視の結果遺体は家の主である灰咲和馬氏と断定。火災発生原因は灯油ストーブの劣化、事故死として捜査を進めています」


「……手帳見ないで言えるようにしておけっていつも言ってるでしょう?」


「すみません! 自分は暗記が苦手です!」


「あなたの苦手は聞いていない。それから暗記力なんていらないわ。ただ事件の全貌を予想するために可能性を全部出すだけ。それを考えれば自然と覚えているものよ」


「それ出来てるの先輩だけですよ……」


「それで、続きは?」


「あ、はい。それから焼けた家からはそれ以外の遺体は見つからず、そこに住んでいるもう一人、灰咲氏の娘さんは行方不明。学校の方に確認するとどうやら1週間以上前から休んでいたみたいで。身寄りの親戚などは連絡がつかず現在調べているところです。また倒壊の恐れがある家の中も探せていない場所があるため捜索を進めていますが……」


「探せていないのは屋根裏、クローゼットなどおよそいるはずのない場所、見つからないでしょうね。それで市松の考えは? 行方不明の少女はどこにいると思う?」


「そうですね……しばらく学校を無断で休んでいるというのが気になります。さらに家にも帰っていない理由を考えると父親と喧嘩して家出とかですかね。泊まり先は友達か親戚の家、もしくは灰咲氏は離婚しているので別居中の母親の家か」


「どれも微妙ね、それだと学校に連絡が入っていない理由にならない。普通なら休みの一報くらいいれるでしょう?」


「じゃあ野宿ですか?」


「小学生が一週間も耐えられると思う? ないとは言わないけれどその線は薄いわ」


「ですよね……」


 他のアイデアを出そうと唸る後輩。

 これでは先が思いやられるなと嘆息する。


「思考が足りない、もっと不自然なところがあるでしょう?」


「不自然、というと?」


「まず学校、一週間も連絡がなかったという話だけれど、学校から連絡は?」


「したと言っていました。けど繋がらなかったとも」


「なら何故警察に通報しなかったのかしら? 事件性を考えればすぐにするべきよね」


「通報しなかった理由……警察に調べられると何か都合が悪いことがあった?」


「おそらくね。学校で警察に調べられたくないような状況、例えば体罰か虐めを見逃していたか」 


「……父親、灰咲氏はどうしていたんでしょう。娘が虐められても一週間も帰らなくても通報せず、心配しなかったんでしょうか」


「……それはもう調べようがないわね。亡くなっているもの。それより考えるべきは……」


「少女はどこへ消えたか、ですね。けど他の原因となると……」


「……ここからはただの根拠のない予想よ。聞き流してくれてもいいけど……おそらく誘拐ね」


「それはまた中々に凄まじい予想ですね」


「けれど可能性としては一番高いと思っているわ。いなくなってもすぐには通報しない学校と親を持つ少女、だからこそ誘拐犯に狙われた。付け加えてそんなときに父親が火災で死亡。これも裏があるように見えるんじゃないかしら」


「確かに、筋は通ってますね」


「ま、ただの勘でしかないわ。馬鹿げていると思ったら無視して勝手に捜査進めてもいいわよ」


 そう、ここまでは全て可能性があるというだけで根拠もなにもない。

 そんなことで部下をつれ回すなんてできるはずないと考えていたのだが……。


「いえ、付いていきます!」


「……私のことを気にして言っているなら止めなさい。止めて自分で考えて行動しなさい」


「考えた結果です。先輩の予想は否定する要素がなく可能性は十分にある」


 後輩は真っ直ぐと私を見据えて言葉を付け加える。


「それに先輩の勘はいつも異常なほどに当たりますから。外れるまでは信じさせてもらいます。だからいつもと同じように指示をください!」


「……私の勘が外れることを考えるとは生意気ね」


「え? いやそんなつもりは……!」


「冗談よ。それじゃそろそろ、捜査に行きましょうか」

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