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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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第一章20.望まぬ遭遇

『20分経ちました。あと40分ですよ白さん。帰りの運転時間も12分だとしたら買い物にかけていい時間は28分です』


「分かりました。急いで済ませますね」


 凄まじい束縛も軽く受け答える。


 家を出る条件として自分が提示したのは「外にいる間通話を切らないこと」だ。

 これならば自分の状況を細かく把握できるし、話続ければ不安も減らせるだろう。


 そう考えたが追加で必ず1時間以内で帰ってくるようにと言われてしまった。

 話せれば大丈夫と思ったが触れていないとダメらしい、禁断症状でもあるのだろうか。


「それで夜は何が食べたいですか」


『何でもいいです』


「じゃあ茄子メインの……」


『なんでそんな意地悪言うんですか……』


「冗談です。でも何でもいいなんて言うからですよ?」


『じゃあオムライスがいいです』


 1週間も一緒に生活していると食の好みは大体分かってしまった。

 彼女の好きな料理はオムライス、カレー、ハンバーグなどお子様ランチ筆頭のものばかり。

 普段大人びているだけあってそれを知ったときは少し意外に……最近の甘えてくる姿をみればそうでもないか。


『子供っぽくなんてないです。お子様ランチに入るのは嫌いな人が少ない料理だからです。万人に好かれる料理なんです。ポピュラーなんです。だからそれを好きになるのは普通です』


「ではお子様ランチは名前を変えるべきですね。何がいいと思いますか?」


『……人様ランチとか?』


 そんな名前レストランで見てしまったらつい頼んでしまいそうだ。

 それに対して嫌いなものは茄子、これは何がなんでもNGと。

 けれどそれ以外に嫌いなものがないのは子供にしては珍しい。

 それっぽい仮説を立てるなら過酷な食環境でなんでも食べられるようになったという可能性が……それでも茄子はダメらしいけれど。


『またこっそり茄子入れてたりしませんよね?』


「もうしませんから、そろそろ許してくれませんか?」


『別に怒ってないです。けど次買ってきたらご近所のポストにぶちこみます』


「何故そんな微妙な嫌がらせを」


『食材を無駄にするわけにはいきませんから。けどうちの食卓には並べられないので他所に消費してもらいます』


「自分の家のポストに茄子が入ってても怖くて捨てますけどね」


 くだらない会話も交えつつ食材をどんどん籠へと入れていく。


「これで5日分の食料は揃いましたかね」


『なら早急に帰宅してください』 


「時間はまだあるのでは?」


『残り26分ですが早いに越したことはないので』


「分かりました。それでは……」


「今話しているのは、いつも一緒にいる女の子かしら」


「……少し、待ってください」


 通話中の携帯を下ろす。

 突如聞こえた声の主、背後の人物へ意識を配る。


「すみません、誰かと勘違いしてませんか。僕はあなたと面識ないんですが」


「ええ、間違いなく初対面よ。こちらが一方的に面識あるだけで対面はしたことはないの」


 そう言ってのけるのは私服姿の女性だった。

 主婦というには少し若い気がする、おそらく30歳前後といったところか。


「……それで初対面のあなたが何か用ですか?」


「いえ、ね。今朝のニュースで誘拐事件だなんて見たものだから。そこで普段連れていた女の子を今日は連れていないなんて、タイムリーだなと感じてね」


「……そうですか、何を疑っているのかは知りませんがあの子は実家に帰りましたよ。姪っ子なんですよ。姉が忙しいなんて言うものだから世話の手伝いをしてたんです」


「ああ、そうだったの。あ、いえ疑っていたわけではないのだけれど」


「……用はないみたいですね。急ぐので失礼します」


 早足でその場から離れる。

 レジを抜けつつ携帯を再び耳元に寄せた。


「お待たせしました。今から帰ります」


『何かあったんですか?』


「いえ、話かけられたんですが人違いだったみたいで」


『そうですか。なら急いでください。あと20分切ってます』


「分かってますって」


 大丈夫、まだ気づかれていない。平静を装って話せているはずだ。

 鼓動は爆発しそうな勢いだが名も知らぬ女性にも、つぼみさんにも気づかれていないはずだ。

 平然と嘘をついたが内心は凄まじく焦っていた。


 あの人は一体なんだったんだ?


 あの口振りからするとこのスーパーで僕とつぼみさんが二人でいるところを何度か目撃したということだろうか。

 となると地元の人間だが……いくら疑いを持ったからと言って普通犯罪者の可能性がある者に声をかけるだろうか。


 勘も驚くほど鋭いし近づかない方がいい人種だろう。警察に通報されれば一貫の終わりだ。


『白さん? 聞いてますか?』


「……はい、聞いてますよ。車につきましたからあと少しだけ待っていてください」


 次からは隣街まで行くことを決め、スーパーをあとにした。




 買い物籠をいっぱいにさせた少年が去っていくのを見て一息つく。

 第一目標、対象との接触はクリア。けど問題なのは……。


「臆面もなく嘘を吐ける胆力。少し厄介ね」


 そう呟くと携帯電話が鳴る。着信は部下からだった。


「もしもし、ええ、今から戻るわ。少し調査することがあったの。……ええ。例の事件絡みでね。まだ大した情報はないけれど……あら。私の勘が外れたことがあったかしら? 分かったら戻るまで待ってなさい。それじゃ」


 カモフラージュとして籠の中に入れていた商品を戻し、車へと戻る。

 警戒されないようにと用意した私服を脱ぎ捨て、仕事着に着替えてから運転席に座った。


 今回の標的は今までより手間がかかるかもしれない。あの感じではボロも出にくいだろう。


「けど関係ない。いくら逃げても絶対に逃げられないのだから」


 そう、私なら追い詰めることができる。

 それを可能にする力も持っている。


「ええ、本当に疑っているわけではないの。ただ確信しているだけ。どれだけ巧妙に隠しても私には分かるのよ、誘拐犯さん」


ちょうど発進していった一台の車を指差す。その車はもちろん、標的が運転する車だ。


 まだ追わない、これ以上警戒させる方が厄介だから。

 今は作戦を練るために一度職場に戻ろう。


 狙った獲物を確実に捕らえるべく、女性警察官、白銀優希は動き出した。

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