第一章18.仲間がいれば
「しかし本当にうちのギルドから犯罪者を出してしまうとはなぁ」
「しかもギルド名にお似合いの罪状」
「触らずの誓いはどうしたの!」
「触ってないからセーフです」
「つぼみちゃんホントのところは?」
「有無を言わさず脱がされました」
「アウトだこのやろう!」
「ちょそれ治療のためでぐはっ!」
止める間もなく鋭いアッパーを見舞われる。
暴力系ヒロインは流行らないからやめた方が……と言う余裕もないほどいい攻撃を貰ってしまった。
仰向けに倒れていると、また少女がぴったりとくっついてきた。
「大丈夫ですか?」
「世界が揺れてます気持ち悪いです……」
「よしよし」
「ありとうございます……」
自分より一回り近く年の離れた少女に撫でられる。
けれど恥を捨てれば案外良いものだ。
やっぱりヒロインは癒し系の方が……口に出すとまた犯罪者呼ばわりされそうなので言わないけれど。
「いい雰囲気だが元凶はその子の誇張表現」
「なんて自然なマッチポンプ……この幼女できる……!」
「幼女じゃないです11歳です」
「じゃあロリっ子」
「おっけーです」
「おっけーなのか」
「なでなで羨ましい……」
「変態は黙っててねー」
「そこは芽吹が撫でてくれれば好感度爆上げだった。チャンスを逃したね」
「あら残念。けどそういうのは二人のときだけ。大人の李里ちゃんは我慢しようね」
「でも探ればまだ出てきそうだな。春瀬のことだし本人でも気づかないうちにやらかしてたり」
「つぼみちゃん、他に何かない?」
「あとは……四六時中手を繋いでるとか?」
「ツーアウト!」
「それはいつもつぼみさんが無理矢理ごふっ!」
ようやく回復したところへ今度は鈍めのボディブロー。
彼女は何か格闘技でもやってるのかと思うくらいにいいパンチを持っていた。
「手を繋ぐってアウトか?」
「家族ならいいけど赤の他人の知らない大人はダメじゃない? しかも四六時中って」
「じゃあ一緒の布団で寝てるのもダメ?」
「はいスリーアウトぉ!」
「ぐぅふっ!」
倒れ伏す自分に止めのエルボー。
もはや突っ込みを入れる余裕すらない。
「スリーアウッ、チェンジ!」
「チェンジって何をチェンジするんだ?」
「ロリっ子との生活」
「春瀬さんお疲れ様です。この子のことは私達に任せてブタ箱にでも行ってきてください」
「チェンジって言うなら罪も一緒に持っていくべきでは……」
「私は誘拐してないですもん。誘拐犯から助け出しただけで、おいでーつぼみちゃん」
そんな詭弁じみた言い訳をしながら手招きすると、少女はゆっくりと近づいて目の前で立ち止まった。
「ん? どしたの?」
「暴力3回」
「え」
「スリーアウトでチェンジです」
「ロリっ子ジャッジ入ったぁぁぁ!」
「審判的に暴力NGだったみたい」
「そんなぁ……」
「なら次は俺だな。まあ春瀬が大丈夫なら俺も問題ないだろう」
「体格、髭、おじさん。スリーアウトです」
「おじさんはもうどうしようもないだろ……てか体格なら春瀬もそんなに変わらないのでは?」
「白さんは……理由は言えませんがセーフです」
「この審判アンフェア過ぎる……」
「最後は私、そう簡単には負けない」
「変態性を感じるのでちょっと……レッドカードです」
「勝負すらさせてもらえない……だと……」
「見抜いたか、やるな」
「奴の変態性は我ら四天王の中でも最強。うちのギルドの面汚しよ」
「ということで白さんの番で試合終了です。チェンジは受け付けません」
またも定位置に戻る少女。
「これはどうやっても引き剥がすのは無理だな」
「今までずっとこんな感じなの?」
「ここまでになったのは最近ですけどね」
「うはー、羨ましいけどキツそう。自己処理はどうしてるんですか?」
「処理? 何のですか?」
「またまたーしばらくこの子家にいるってことは溜まってるんですよね?」
「おい、子供の前で話をシモに振るんじゃない」
「だって気になるじゃないですかー。それに分かりませんって小学生なら。ね、つぼみちゃん」
「……あ、はい。そういうことでいいです続けてください」
「……ちょっと顔赤いね」
「完全にバレてるな」
「でも続けてほしいってことは……」
「つぼみちゃんも聞きたいそうですよ? 春瀬さん」
「情操教育上よろしくない気はしますね……。けど期待してもらって申し訳ないのですがそういうのはあまり経験ないですね」
「え? なに不能?」
「いや性欲だけなら人並みにあると思うんですけど」
「一番最近で自己処理したのはいつ?」
「うーん……2……いや3?」
「3週間?それで性欲人並みだったら結構キツくない?」
「あ、年です」
「修行僧かな?」
「悟り開くレベルなんですか……」
「枯れすぎ……男性の場合体に悪いって聞く」
「既婚者男性としてはその辺どうですか? 茶和田さん」
「うちは結婚して7年経つし俺も若くはないからそんなに……ってもういいだろ。流石に深掘りしすぎだぞ」
「えへへ、ちょっと調子に乗りましたね。ごめんねつぼみちゃん変な話して」
「いえ、勉強になります」
「そんな勉強しなくていいです」
そんな感じで案外話題は尽きなかった。
しばらく話していると時間はあっという間に過ぎて外は暗くなっていた。
「っと、もうこんな時間か」
「いつもなら夜も一緒に食べに行くけど……今日はやめとこうか」
「うん、今日はお開き」
「すみません気を使わせてしまって。それにせっかくのオフ会をこんな形にしてしまって」
「そこは気にしなくていい。楽しかったしな」
「このメンバーなら話すだけでも楽しめますね」
「久しぶりに女の子と話せたしむしろ感謝する」
どうやら本心からの言葉のようで安心する。
家に呼んだもののどういう反応されるか少し不安だったけれどなんとかなってよかった。
見送ろうと立ち上がる。
「春瀬さん」
「なんですか?」
「私、協力したいです」
「清水さん……」
その要求は流石に受け入れるのを躊躇う。
だってそれは……。
「芽吹、自分が何言ってるか分かってる?」
「うん。共犯者になるってことだよね」
「…………」
やはり全員が気づいていたらしい。
それでも清水は撤回しない。
「だって、私春瀬さんが間違ってるとは思えない。私もつぼみちゃんを助けたいと思う。だから……」
「それは分かるけど……」
青葉がなんと言うべきか迷っているところで、押し黙っていた茶和田が口を開いた。
「春瀬」
「……はい」
「俺もお前が間違っているとは言わない。協力できるものならしてやりたい」
茶和田も同じ気持ちではあるらしい。
けれど顔つきは強張ったままだった。
「けどさ、うちの娘まだ6歳なんだ」
「あ…………」
「犯罪者の娘にはしてやりたくない。悪い」
「……茶和田さんが謝ることじゃないです。ですが僕も謝れません。謝ればつぼみさんを助けたことを間違いだと言うことになりますから」
「……そうだな」
「清水さん」
「……うん」
「お気持ちは嬉しいです。けど自分が始めたことですので、何より――――あなた達のことも大切だから、巻き込みたくないです」
「……そっか」
「芽吹……」
青葉が清水を慰めようとする。
けれど清水はそれを振り払うかのように顔を上げた。
「なら仕方ない。私は私らしくするよ」
「清水さん……?」
「私はヒーラーだからね。後方支援は任せて」
唐突にゲームの話かとも思ったが意味はすぐに伝わった。
後方支援、つまり共犯までは行かずとも手伝える場面で手伝うということらしい。
すると他の二人がにっと笑って言った。
「私がタンクだとヘイト集める。転職する」
「全員一時的にヒーラーにジョブチェンジだな。相談くらいならいくらでも乗るぞ」
「みなさん……ありがとうございます」
お礼を言って3人を見送った。
自分は一人で助けるつもりだった。
けれど今日打ち明けて、理解してもらえて、協力してくれると言ってくれて。
これほど心が楽になると思っていなかった。
「みんな、いい人たちですね」
「……はい。自分には勿体ない仲間です」
言ってしまえばたかがネトゲ仲間。
けれど自分達にとっては背中を預けられるほど信頼に足る仲間。
その信頼が自分の犯罪にも理解を示してくれた。
本当に彼らと出会えてよかったと思える、そんな一日だった。
その次の日、11歳の少女が行方不明になったと報道された




