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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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幕間之上:恐会

 私は友達を助けたかった、ただそれだけなんだ。


 クラスに虐められている少年がいた。

 そいつとは幼稚園時代からの幼馴染みで、以来ずっと一緒だった。

 3年生ではクラスが別になり話す機会は減ったけど、それでも別の場で交流は続いていた。


 4年生に上がって再び同じクラスになった。

 また同じクラスだ、と控えめながら内心は喜んだ。

 けれど彼は微妙な顔でそうだね、と一言。


 その顔の理由は数日とかからず分かった。

 彼は私のいない一年で虐められていたらしい。

 ことあるごとにネタにされ、絡まれ、弄ばれる。

 宿題、掃除当番、荷物持ちと使える場面では便利にこきつかわれる。

 典型的な虐めだ。

 けれど周りは助けようとせずそれを見ても笑っているだけ。


 私がおかしいのだろうか、それを見て腹立たしいと思うのは。

 少年に話を聞くと大したことじゃないから気にしないでと空笑い。

 気にしないなんて私には無理だった。


 担任の教師に報告した。

 教師はすぐに自分の挙げた名前の生徒を呼び出し注意していた。


 少年への虐めは悪化した。

 少年が教師に報告したとでも思ったのだろうか。


 私はそれも含め、また教師に報告した。

 今度は2時間に渡る説教が行われた。

 しかし現状は変わらなかった。


 私は何度も教師に報告した。

 その度に親を呼び出したりと様々な対応が行われた。

 しかし変わらないどころか悪化するばかり。


 なんて愚かなのだろう、そこまでする理由でもあるのか。

 それをする度に損をするのは自分なのに。


 私はいつものごとく担任に報告する。

 すると担任はため息を吐いた。

 心底呆れたような顔をして私の手を引いた。

 導かれるまま連れてこられたのは体育倉庫。


「いい加減にしてくれ、先生も暇じゃないんだ」


 倉庫の中へと放り込まれ重厚な鉄扉を閉められた。

 何が起きたのか分からず起き上がる。

 するとそこには私を待ち構える生徒達がいた。


 その日から少年が虐められることはなくなった。

 結局のところ少年を助けるには彼らが憂さ晴らしするための人柱が必要だったということ。


 その人柱は私に代わり、期せずして少年を助けることに成功した。




 学校での生活は劇的に変わった。


 クラス内で私に話しかけるものは一切いなくなった。

 仲良かった者どころか担任でさえ私をいないものとして扱う。


 クラスを出るとそこは無法の地。

 どこで何が待ち構えているか分からない。


 あるときは使われていない教室、またあるときはトイレ、校舎裏、倉庫、学校の隠れられるところ全てに警戒する必要があった。

 そこへ待ち伏せ引きずり込み、耐え難い暴力の数々を繰り広げられたから。

 何度も何度も行われたから。


 学校が怖かった。

 行きたくなかった、逃げ出したかった。

 けれど学校の外に出るとその気持ちは打ち消せた。


 少年がいたからだ。

 学校ではやりたい放題、だが人の目を気にしてか奴等は学校外では手を出して来なかった。

 そして決まって少年が駆け寄ってくれた。


 少年は何度も謝った。

 毎日毎日同じように謝った。

 助けられなくてごめんって。


 助けられない理由なんて分かっている。

 私を助ければクラスが自分の敵に回るから。

 ようやく解放されたのにまたあの日々が戻って来てしまう。

 それが怖くてたまらないのだろう。

 虐められる私を見ても後ろめたさを感じながら、また恐怖に縛られ足がすくんで動けなくなるのだろう。


 だから私はそれを責めない。

 学校でいくら無視しようと、こうして外で駆け寄ってくれるだけで私はまた頑張れる。

 私がこうなったのはこの少年を助けるためだったのだから。

 一年耐えたこの役目をせっかく私が代わってあげられたのに、また少年が虐められていては私のしたことは無駄になる。


 私が耐えればいいだけなのだ。

 痛いし、辛いし、怖いけれど、全てはこの少年のためになっている。

 その事実が私の心の支えになってくれている。

 助けてくれなくたって、毎日会いに来てくれるだけでそれが再認識できる。


 だから私は耐えられる。




 ある日の下校時間、少年が来なかった。


 いつものように帰りのホームルームが終わってすぐに私は学校の外へ逃げたけれど、少年はその後を追って来なかった。


 彼の下校ルートの一角で少し待った。

 1時間待っても来なかった。

 彼は下校する場合間違いなくここを通るはず。

 ならば彼はまだ学校にいるということ。


 嫌な予感がした。

 その予感は再び私に恐怖を思い出させた。

 怖い、けれど私は行かなければ。


 今の時間なら私の驚異となるものはすでに帰っているはず。

 そう信じて震える手を強く握り、私は学校へ戻った。


 校内には部活に残る生徒のみで、それ以外の場所では人影はほとんどなかった。

 生徒がいなければ空き教室だらけ、奴等にとって絶好の機会。


 恐る恐る階段を登り、自分のクラスの戸を引いた。

 そこにはあるべきでない生徒の姿があった。


 クラスの男女数名に囲まれる少年。

 這いつくばり、青アザだらけにした体。

 何があったか、全てを物語っていた。


「あら、来たの? あんたつまんないし飽きちゃったからさぁ。前のオモチャ、また連れてきちゃった」


 何を言っているこいつは。

 つまんないから? オモチャ?


 どれだけ私が耐えたと思っている。

 そいつを守るためにどれだけ犠牲になったと思っている。

 それをつまらないからと一蹴した。


 私達をなんだと思っている?

 その答えもすでに出ている。

 少年が前のオモチャで、私は今のオモチャ。


 私は……守るために耐えていたんであって、楽しませるためでなんて断じてない……!


 体の内側でビキッという音が聞こえた。

 まるで何かがひび割れたような音だった。


「なーんか必死に守ろうとしてたみたいだけど、今度はちゃんと壊れるまで使ってあげる。そしたらあんたも少しは面白くなりそうだし」


 ひびは一気に全てを包み、砕ける。

 パラパラと、破片が落ちる音がする。


 衝撃を受けると同時に何かを失ったような気がする。

 何が失くなったのかは分からない。

 けれど体が軽くなった。私を縛っていた何かが無くなったようで。


 気づけば歩きだしていた。近づくと周りを囲っていた男が私の肩を掴んだ。

 けれど何も感じない。

 今まではそれだけで動けなくなっていた。

 だが今は違うと手の甲を一閃、鼻頭に叩きつけた。


「……てめえ、何してくれてんだ」


 後ろに倒れる男と、それを見て怒りを顕にし、近づいてくる男共。

 それを見ても私は止まらなかった。

 何も、怖くなかった。


 そうだ、私は怖くて動けなかったんだ。

 けれど今は難なく動ける。

 私に触れようとする者共をスルリとかわし、軽く押して転ばせる。


「ぐっ」


「いってぇ……」


 呻く男子たちを見て思う。


 私は今までこんな奴等の何が怖かったんだっけ。

 何に対して恐怖を感じていたんだっけ。

 恐怖って、なんだっけ。


 気づけば少年の目の前には一人の女子がいるだけ。

 こいつは少年を壊すと言っていた。ならばこいつを止めないと、壊さないといけない。


 手のひらを顔面に叩きつける。


「きゃっ、いった……」


 地に這うそれに私は馬乗りになり拳を振りかざす。


「ひっ……ちょっと止めて! お願いだから、その手を下ろしぎっ!?」


 容赦なく拳を振り下ろす。何度も何度も振り下ろす。

 呻いても、喚いても、赦しを乞うても関係ない。

 押さえつけられてもそれを片手で排除し、騒いでも無視して殴り続ける。


 相手がどうなるかなんて考えなかった。

 これ以上やったらこの先どうなるか、なんて気にならなかった。


 わたしは何も怖くなかった。

 ただ思ったことは、最初からこうしていればよかったんだと。


 拳を叩きつける度に得られる達成感。

 私はその後教師に取り押さえられるまでひたすら殴り続けた。


 元々の目的、助けるべき少年が怯えていることにも気づかずに。

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