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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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第一章15.私の結論

 対話を終えたあとは寝る前の身支度をした。

 いつも通り体を濡れたタオルで拭き取り薬を塗ってもらう。

 今日……いや昨日はいろんな変化があったはずだけど傷が増えたりはしなかったのは幸いだ。

 しかし気づく。私が傷つくことはなかったけれど彼は?


「あの……白さん」


 照れ臭くなりながらも名を呼ぶ。


「はい、なんでしょうか」


「その……傷はありませんか? 火傷とか……」


 彼は燃え盛る私を抱き締めた。

 私はあの炎で父が焼け死ぬ場面を見てしまったから分かる。

 あれほどの火力だ、少し収まっていてもあんな馬鹿な真似をすれば大火傷は免れないはず。


「あー……大丈夫です。それほど酷くありませんし薬塗っていればそのうち治りますから」


 やはり否定はしない。

 私に気を使って大丈夫だと言っているのだろうけど服の下から包帯が覗いている。

 恐らく広範囲に火傷の傷があるのだろう。


 それはもちろん私のせいだ。

 そう思ってしまえば、何もしないわけにはいかない。


「あの……その薬、私が塗ってもいいですか?」


「え?」


 彼も一度は断ろうとしていた。

 けれどこちらも引き下がるわけがなく、こちらの気持ちも酌んでくれたのだろう。案外あっさりと承諾してくれた。


 服を脱いでもらうとやはり包帯だらけだった。

 けれど包帯を取ってみると……。


「あれ?」


 私の体に密着させていた部分は確かに火傷していたがそれほど酷い傷ではない。

 男に抱き締められたときもかなり動揺していたため炎が収まっていたわけでもない。


「でもお父さんはあんなにすぐ燃えて……」


 父親の死んだときの様子を思い出す。

 私が触れると一気に焼きただれ、すぐに黒く炭化していった。

 あれほどの火力に触れればこの男も無事では済まないはずなのに。

 すると男が口を開いた。


「……もしかしたらつぼみさんの炎は、つぼみさんの感情で与える影響が変わるのかもしれません」


「与える影響?」


「例えば相手のことを物凄く嫌っていればそれだけ高温の炎になり、その逆に好意を持っていればその分熱の弱い炎になるとか」


「そんなことできるんですか?」


「それはつぼみさんにしか分かりませんよ。けど心壊症で発現する能力はその人の心次第で変化するものですから」


「私の心……」


「……なので本当に大丈夫ですし自分でやりますよ?」


「いえ、私がやります。それこれとは話が別です」


 男もばつが悪そうな顔をしながら塗り薬を手渡してくれた。

 塗っている間は終始無言だった。

 範囲が広いだけに時間はかかった。

 ときにむず痒そうに、ときに痛みを感じていたみたいだったがそれでも無言で耐えてくれた。


 彼自身で塗った方が効果的に塗れるのかもしれない。

 けれど私はどうしても何かしてあげたかったから、申し訳なく思いながらも譲ることはできなかった。


 再び包帯を巻き直し、服を着れば終了。

 あとは眠るだけのはず、なのだけれど。


「白さんってどこで寝てるんですか?」


 素朴な疑問だった。けれどずっと考えていた。

 私が寝ている間は部屋に一つしかない布団を占領してしまっている。

 いつも私が先に眠り、起きるのも私の方が遅く彼が眠っている場面を見たことがない。

 だから聞いてみたのだが。


「…………」


「白さん? ……もしかして私が来てから寝てないとか言いませんよね」


「あー……いや、寝てますよ。はい、それはもうしっかりと」


 ……数日しか一緒に過ごしていないけれど私は知っている。

 この反応は嘘をついている反応だ。

 嘘じゃないにしても何かを隠している。 


「どこでですか?」


「まあその……車の中で」


「……こんな寒い中ですか?」


「コート着て毛布も使っているので大丈夫ですよ」


 この男の大丈夫は当てにならない。

 特に自分の身を案じた大丈夫という言葉はほとんど大丈夫じゃない。

 けれどそもそも私が布団を使ってしまっているのが問題なのだ。


「今日はちゃんと布団で寝てください」


「いえ、布団は一式しかないのでつぼみさんが使ってください」


「一緒に寝ればいいじゃないですか」


「それが一番不味いんですけど!? 同じ部屋で寝ることも微妙だから外に出てるのに……」


 この男は……たまに大胆なことをするくせに男女関係のこととなると律儀というか童貞臭いというか……。

 しかしこうなっては埒が明かない。


「……じゃあ私寝ません」


「え」


「白さんが布団に入るまで布団には入りません。寒い中一晩過ごして風邪引いてやります」


「いやそれは不味いですって。なんのために布団があるのか……」


「白さんが布団に入るだけで全部解決しますよ?」


「……いやでもそれは倫理的にどうかと」


「倫理的に不味いこと、するんですか?」


「するかもしれないって言ったらどうします?」


「できもしないこと言わないでください。そんな度胸もない癖に」


「急にドライなこと言うようになりましたね……確かにできませんけども」


「じゃあいいじゃないですか」


「…………はぁ、分かりました」


 仕方なく、といった感じで布団に入って行く。


「入りましたよ。だからつぼみさんも早く入ってください」


「はい」


 空けられたスペースに体を収める。

 そして私は間髪入れず男の腕にしっかりしがみついた。


「あの……つぼみさん?」


「白さん、私が寝たらまた外に行くつもりでしたね?」


「……よくお気づきで」


「だから逃がさないために今日はこのまま寝ます。眠っても絶対に放しません」


「……分かりました。負けを認めましょう。けどこの体勢だとお互いに傷が痛むと思うので手を繋ぐだけにしませんか?」


「むぅ……仕方ないですね」


 少し名残惜しく思いながらも渋々腕から体を離し、代わりに手を握る。

 普通の握り方では逃げられてしまうので恋人繋ぎで。


 相手の動揺も感じ取れたがやがて諦めたように脱力してくれた。

 横になってから眠りに落ちる前に最後に聞いておきたかったことを思い出し口に出す。


「白さん、あの監視カメラは何に使うんですか」


「……やっぱり気づいてましたか。まあ見つけてしまえば家を飛び出したくもなりますよね」


「私と同じ部屋で寝ることすら躊躇ったのはカメラの存在を気にしてですよね。けどそんなに監視が必要なんですか?」


「監視目的ではないですよ。この生活を記録しておきたくて」


「それは?」


「今後役に立つ時が来ると思ったので。こんなこと言っても信じられないかもしれませんが」


「言ったじゃないですか。もう疑いたくないって」


「そうでしたね……ありがとうございます」


「あと報告書というのは? 誰に報告するんですか?」


「資金援助をしてくれる組織があるんです。それには報告書がどうしても必要だったので」


「……その組織ってもしかして心壊症の?」


「はい。心壊症は知らない人から見れば異常の力ですから、それを秘密裏に処理している組織です。同時に研究などもしているため情報提供しています。けど個人情報などはほとんど書いていないので安心してください。……それでもつぼみさんが嫌と言うなら提出はやめる他ありませんが」


「……いいですよ。白さんと一緒にいられるならそのくらい些細なことなので」


「……ありがとうございます」


「……そろそろ寝ます」


「はい、おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 ゆっくりと目を閉じる。

 やっぱり誤解だったということでいいのだろうか。 

 監視カメラといっても悪用する気はなさそうだし。報告書もお金は大事だから仕方ない。

 まだ何か隠しているようにも感じたけれど……まあそれも些細な問題か。

 さっきは何となくで言ってしまったけれど、それこそが私の結論なのだ。


 私は白さんと一緒にいられれば、それでいい。

 自分の解答を頭の中で反芻して、握るこの手を離さないように、ゆっくりと意識を手放した。

第一部完!


この作品を面白いと思っていただけた読者様へ

 

不躾とは存じますがお願いがございます。


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この2つによりこの作品の評価ptが上がることで、より多くの人に読んでいただく機会が得られます。


より多くの人に感動を届けることを目標とする作者にとって、読者様が増えることはモチベーションの向上に繋がり、作品の質と更新頻度の向上にも繋がります。


皆様のご協力で本作品をより良いものにしたいと存じます。


どうかよろしくお願いします。



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