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精神弱者のメサイア~誘拐犯に恋した少女の話~  作者: 独身ラルゴ
一章 : 誘拐犯に恋した少女の話
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第一章10.信用堕つ

 2017年12月3日。

 起床したのは8時過ぎ。昨日と比べればずっと早い。

 吐き気もなく調子はかなりいい。

 傷はまだ治っていないから絶好調とまではいかないが体はかなり軽くなってきた。


「……あれ?」


 辺りを見回す。

 体調が良くなったことを報告しようと思った。

 お陰様でとお礼を言うつもりだった。

 けれどその当人が見つからない。

 軽くうろついて捜すが広くもない部屋だとすぐに捜し終えてしまう。


「出掛けたのかな……」


 部屋にいなければそれ以外ないのだろうけど。

 外に捜しに行こうにもできれば外には出ないようにと言われている。

 それに彼は車で出掛けているはずだから徒歩で見つかるはずもない。

 大人しく待つことに決めてその場に座る。


 それにしてもいつ出掛けたのだろう。

 私が起きるまでに帰ってくるつもりだったのだろうか?

 私よりずっと睡眠時間が少ないだろうにご苦労なことだ。

 ……いや、そもそも寝ているんだろうか。

 布団は一式しかなく彼が寝る場所は見当たらないし寝てる場面を見たこともない。

 帰ってきたら一度問い詰めて見るか……。


「……ダメだ」


 落ち着かない。

 待つしかないのだけれど考え事をすると彼に聞きたいことが増えるばかりで帰りが待ち遠しくなる。

 何かやることはないだろうか。


「……朝ごはん、何かあるかな」


 キッチンを物色することにした。

 部屋を調べたって今さら怒る人でもないだろう。

 そもそも私を一人残している時点で警戒はないに等しい。


 朝食の用意をするにしてもひとまず何か食べるものがないか探そう。

 そうして冷蔵庫を隅々まで探すが調味料以外に見つからない。


「もしかして買い物に行ってるのかな」


 朝食の準備のために早く家を出たのなら納得できるがそれなら昨日のうちに済ませておけばよかったのに。

 しかしまともな食材がないとなるとできることもなくなる。


「お米くらいはあるよね」


 男が夕食の準備をしていたときを思い出して米の在処を探す。

 帰ってくる前に炊いておけば多少は助かるはず。

 そうしたら少しは恩返しになるだろうか。

 いろんなものを与えてくれたお礼になるだろうか。

 褒めて、くれるだろうか。


「………………ぇ?」


 動きと視線を止める。

 結論から言えば米は見つからなかった。

 米の代わりに私を驚かすのに十分なものを見つけてしまう。


 小型のカメラだ。

 レンズがあることからそれは間違いない。

 穴空きの引き出しにレンズが穴に通すように置かれていた。


 取り出して見るとそのレンズの動きが見えた。

 作動中、つまり私が取り出す前からカメラは動いていた。

 この部屋を覗き込ませていた。

 つまり、私しかいないこの部屋を記録する監視カメラだった。

 カメラを投げ入れ急いで引き出しを閉じる。


「はぁ……はぁっ……!」


 息が荒くなるのを感じる。

 何故カメラなんかと疑問にも思ったがそれ以上の嫌な予感もあった。

 部屋を隈無く見渡すとちらほらと光の反射が見える。そのなかでも一際目立つパソコンの置いてあった机の引き出しを開く。


 案の定そこにもひとつのカメラ。

 一体いくつあるのか、そして目的はなんなのか。


「なんで監視カメラなんか……ぇ?」


 カメラの入っていた引き出しの中に気になるものがあった。


「報……告書……?」


 報告書と書かれた紙束を取りだしめくって読み進める。

 そこには理解できない部分もあったが、裂傷、火傷など傷の種類、また日記のようなものも小難しく書かれていた。

 見ればすぐに分かる。この報告書は私に関することが書いてある。


「なんで……!」


 紙をくしゃりと握りしめる。

 報告書ということは会社などに提出するのだろう。

 それは仕事として。つまりこの誘拐劇も仕事の一環。

 それは「助けたいから助けた」なんて言葉にそぐわない。


「全部……嘘だったってこと……?」


 信用が崩れ去る音がする。

 監視カメラに報告書。彼はそれを黙って綺麗事を抜かした。

 それが分かって何を信じろと言うのか。

 私はふらふらと覚束ない足で、アパートの一室から出た。

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