序
目の前で、何かパクパク動いている。――粗悪な自白剤の様に私の心身を悪辣に苛み続けているこの長々しい訊問によって、朦朧とする意識と翳む視界の中で、私が何とか捉えていたのはその様な景色だけだったのだが、不意にその脇の辺りへ振り上げられた拳が卓上へ敲き付けられると、私はつい目を剥きつつ完全な意識を久々に取り戻してしまった。即ち、哀れなことに、私は訊問官である警官の唾と罵詈をまたまともに浴びることとなり、こんな役に立たないが威張るのだけは上等な連中に日々税金が費やされていることと合わせ、非常な苛立ちと憤りを再び覚えることになったのである。
その刺々しい情動が私の中のより忌まわしい思いを惹起し、つまり、私が、よりにもよって父母の仇たる〝災炎の魔女〟であるという嫌疑を掛けられているという、これ以上も無く腹立たしい現状を再認識させてくれるのだった。それで、つい、眉を顰め口許を歪ませると、目の前の自意識過剰な役立たずはそれを侮蔑なり反抗なりと受け取ったらしく、また健気に拳を振り上げるのである。
いっそ、さっさとそれで私の顔でも打ってくれれば、と思いながら、私はここ最近自分の渡って来た危ない橋の数々を顧み始めるのだった。あんなことを始めずにいれば、私は安らかに生涯を過ごせただろうか。しかし、それで私の魂は輝きを失わずにいられたか? それで、生きている意味は有ったか?