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第一章 05.ダン(1)

 ダンがこの村での生活を受け入れたことにより、アデルは正式にダンのお世話係を仰せつかった。それまではダンの世話と並行して農作業や薪割といった仕事もこなしていたが、別の者が代わりに行うことになった。いつもダンの傍に控え、身動きの取れないダンの助けとなることが、今のアデルの仕事の全てである。食事から排泄に至るまで、全てアデルが一人で、付きっ切りで面倒を見る。ここまでくるとちょっとした母親気分である。もともと世話焼き体質なアデルは、あれやこれやと必要最低限以上の世話を焼いてしまう。

 そんな生活はそう長くは続かなかった。

 ダンは驚異的な回復力を見せ、秋の実りを収穫し終えた頃には、生活になに不自由のない具合まで回復していた。視力や聴覚も元通りに回復し、立って歩いて、食事も自分でできるようになった。裸を見られるだけでなく排泄まで世話になることに羞恥と焦りを覚えたダンが必死にリハビリした成果であることを、アデルは知る由もない。ただただ感心するばかりだった。



「今日は少し槍を振ってみたいけど、村にある?」

 ダンは昼食の野菜スープを飲みながら、先に食事を終えて皿を洗うアデルに問いかける。

 最近のダンは、リハビリを兼ねて武器を使用した鍛錬を始めていた。

 これを提案したのはアデルである。


 ――彼はおそらく、何かしらの武器を持ち戦っていた


 眠っているダンの体を拭っていたアデルは、彼の体を隅々まで知り尽くしている。鍛え上げられた筋肉、切り傷、打撲跡、幾度となく豆が潰れて厚みを増した手の平。その一つ一つが、彼を英雄たらしめた理由の一つのように感じた。噂では、内乱の終焉間際はただの殺し合いになっていたと聞く。あくまでも想像でしかないが、彼は指揮者や交渉役ではなく、武器を取り戦う戦士だったのではないだろうか。

 何の武器を扱えるのか、何の武器を得意としているのか。彼自身が忘れてしまった彼のことを知るために、アデルは様々な武器を用意した。使ってみれば、使い方を知っているもの、上手に扱えるもの、全く扱えないものがわかるのではなかとふんだのだ。

「探してみるから、先に行って待ってて」

「わかった。いつものところで待ってるよ」



 槍を調達し合流したアデルを迎えたダンの額には、すでにうっすら汗がにじんでいる。準備はすでにできているといった具合だろうか。

 アデルがダンを見つけた場所。アデルの幼少期からの憩いの場所である。見晴らしがよく、静かで、人気がない。この場所でなら、思う存分に武器を振り回すことができる。

「いつもありがとう、感謝してるよ」

 真正面からお礼を言われ、アデルは視線を逸らす。

 いつもそうだ。彼は相手の目をまっすぐに見て、どんなに小さな親切にも必ずお礼を言う。少し口元を緩め、優しい表情をして。

 お礼を言い終えると、ダンは早速槍を振り始めた。アデルの予想通り、彼は武器の扱いになれている様であった。見事な槍捌きだ。幼少期から狩猟のすべを教育されてきたアデルからみても、見事なもので、舞を見ているかのようだ。何物にも逆らわない、流れるような動き。思わず見とれてしまう。

「どう?しっくりくる?」

「んー、これは違う気がする。扱えるけど、手になじむ感は無いかな」

 こんなやりとりが、もう数回続いている。始めに与えた武器は、シンプルな剣だった。その時も、こんな風に見事に使いこなし、馴染む感は無いと言った。片手剣、小刀、弓、斧、何を試してもこの調子である。

 アデルは、これに対する答えは聞けないだろうと思いながらも「こんなにいろいろな武器の扱い、どこで覚えたの」と問うたことがある。

 彼は少し困ったような顔をして、「どこでどうやって身に着けたのか分からない。けど、知識としては残っていて、扱うことはできるから、自分でも不思議な気分だよね」と言った。

 これまでに分かったことは、様々な武器を扱えるということだけ。肝心の、得意武器は未だに分かっていない。

 いったい、どれだけの努力を重ねてきたのだろうか。特性の違う武器を、こうも見事に使いこなすまでに、どれほどの時間を要したのだろうか。

 何時の間にか彼は槍を振り終え、こちらに背を向けてしゃがみ込みんでいた。

「ダン?具合でもわるいの?」

 完全に油断してしまっていた。彼はこんなに動けるし、今では介助なんて必要ではないけれど、数カ月前まで昏睡状態だったのだ。気分でも悪いのだろうか、それとも、どこか痛いのだろうか。

 駆け寄ると、ダンの陰に何やら動く小さな影があった。

「リスが足元にすり寄って来ちゃって、槍が振れなくて」

 困ったような表情を浮かべたまま、リスを撫でるダン。気持ちよさそうに目を細めるりすに、逃げる様子はまるでない。

 心配は安堵へと変わる。と同時に、この行き場のない気持ちをどうしてくれようかと、ほんの少しのいたずら心が芽生える。

「今日の夕飯のおかずにする?」

 アデルは、ダンが断るのをわかっていながら、そんなことを聞く。

「え、食べるの?」

 悲しそうな顔をしてリスとアデルを交互に見るダンを、かわいいと思ってしまう。

 こんなに優しい人が、どうして武器を持ち、戦っていたのだろうか。

「冗談。食べないよ」

 ダンは「そっか。よかった」と言って、再びリスをかわいがり始めた。

 アデルはふっと笑った。彼の前では、素直になってしまって仕方がない。

お立ち寄り頂き有難うございます。こういう、点と点を結ぶような話を書くの、難しくないですか。苦手さが滲むどころかゴロッとむき出しのような一話です。(悲しい)


どうか一章だけでも読み終えて頂ければなと思います。あわよくば感想・アドバイス等も欲しいです。我が儘が過ぎる。

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