プロローグ
お立ち寄りいただきありがとうございます。初投稿です。静かでじわじわ盛り上がる小説が好きで、そのような作品を目指していきます。どうか、一章分読んでいただけませんか。泣いて喜びます。
微かな光を見つけた。
擦り切れたように薄くぼやけた、滲んだような光。
今にも消えてしまいそうで、触れることさえ躊躇われる。
それなのになぜか、きっとこの光は消えないだろうなと思う。
そう思わせるほど、混じりけの無い純粋な白を湛えた光。
だからだろうか。
こんなに薄くぼやけて消え入りそうな光を、ずっと見ていたくなるのは。
この光はどこからともなく現れたのか。それとも、すぐそこにあったその光をただ見つけられずにいたのか。そんなことも分からない。
ただ、綺麗だと思った。
漆黒の夜空の隅々まで敷き詰められた星の群れも、生き別れた母と子の奇跡の再会も、日の差すことさえない瓦礫の隙間で懸命に咲く小さな花も、岩礁で囁くように奏でられた人魚の歌声でさえ、この美しい光の前では霞んでしまう。
これより綺麗なものなんてこの世に存在するのだろうか。少なくとも、僕は知らない。
この美しい光に、捕らわれていく。絡めとられていく。雁字搦めになっていく。
近づくことも遠のくこともなく、触れることも守ることもせず、ただただこの光の傍らに寄り添い、いつまでも眺めていたい。この光だけを思っていたい。
無限に続く黒の中で、意識の狭間を行ったり来たり繰り返しながら、目の前の光だけを見つめ続けた。上も下も分からない。匂いも体温も、耳を澄ます感覚も、何も感じていないことすら自覚せず、ただじっと目の前の光に陶酔する。
僕はこの黒を、まるで自分の一部であるかの様な、或いは溶けて混ざり合って境界線が曖昧であるような、近くとも遠くともない場所に感じていた。
もうずっと溺れている、この黒に。
いったいどれくらいそうしていたただろうか。
いつからかなんてもう分からない。もしかすると、存在した時にはずっとこんな『モノ』だったのかもしれない。
これからもきっとずっと。
漆黒と溶け合い、この美しい光を思う。
永劫。
悪くない。
いや、心地よい。
ずっとこのまま。
変化することもなく。
この光の傍に。
そっと寄り添って。
この光を見続けていたい。
――――本当にそれでいいのか?
誰かがそういった気がした。
構わない。これ以上もこれ以下も望まない。
この光をもう二度と失いたくない。追いつこうとして、追いかけて、追いつけなかったら。見失ってしまったら。誤って壊してしまったら。失って、そうしていつか、その光の美しさを忘れてしまったら。
『本当にそれでいいのか?』
そういえば以前にも、誰かに同じ様に問われた気がした。
――――選べ。
何から何を選べばいい。
それを僕は、知っている。
『選べ』
知っている。僕はそのあとに続く選択肢も、僕が何を選ぶかも、全て知っている。
僕はまたいつかの時みたいに、いくつもの中からたった一つを選んで、手を伸ばした。
腕があるかどうかさえわからないけれど、なんだか光に触れた気がした。
お読みいただき、ありがとうございました。