第1話「巨人になった女子高生!? VS巨大ゴーレム」(5)
(11)
「がんばれ!」
「負けるな、黒いの!」
「がんばってくれ〜!」
ゴーレムと黒い牛人の戦いを見守っている人々から声援が送られる。
都市に近付く驚異を黒い牛人が排除してくれる。
そう願いながらもどんどんと声援の声が少なく小さくなっていく。
明らかに分が悪い黒い牛人。
徐々に圧されているのが見て取れる。
その時ゴーレムの拳が牛人を捉えた。
吹き飛ばされる牛人。
そしてその姿が消えた。
自分達を守ってくれると期待していた存在の消失に皆絶望感に囚われていた。
力なく立ち尽くし頭を垂れその場から動く事も出来ない。
そんな時間がどれくらい続いたのだろうか。
あきらめが心を蹂躙し始めた時声が聞こえた。
「あれは何だ!?」
その声に導かれるように人々が顔を上げ目にしたのは、赤と青の光が螺旋状に絡みあった大きな球体。
その光が消え現れたゴーレムより少し小さい巨人の姿だった。
人々は希望の巨人に目を奪われた。
言葉なく見つめていると巨人がゴーレムに攻撃を仕掛け、コケた。
「あ、コケた。」
人々は新たな希望の光を半信半疑で見守る事になった。
(12)
ゴンッ!!
と鈍い音が響いた。
『『いったぁぁぁぁぁ!!!』』
2人の意識が叫び声を上げ、手をフリフリして痛みから解放されようとしていた。
巨人の渾身の右パンチはゴーレムの頑丈な体に少しのダメージも与えられず込めた力がすべて右拳に戻された。
2人は意識で涙目になりつつ、
『ちょ、莉沙絵何やってんねん。
あんなん全力で殴ったら骨折れてまうわ!』
と紗都美が苦言を呈した。
『あかん、これめっさ固いやん。
全力でいったらバコーって砕ける思たのにぃ。。』
そんな意気消沈する莉沙絵に、
『ちっとは考えて攻撃してや。
・・・って、え、それって!?』
と苦情を言っていた紗都美が何かに気付いた。
『莉沙絵、ちょい会議が必要な事案発生や。』
『え、何、何、なんかヤバいやつなん??』
なんて脳内会話を始める2人を余所にゴーレムが近付いてくる。
それに気付いた紗都美は、
『あれ何とかせんとゆっくり話せんな。
えと、こう、かな。』
と言いながら両手の親指と人差し指で長方形を作ると、
『捕縛結界!』
と叫んだ。
指の長方形から放たれた光がゴーレムを光の箱の中に閉じ込めた。
それでも進もうとするゴーレムだったが行く手を光の壁が阻んでいた。
そんな光の壁を破壊しようとゴーレムが腕を動かした。
光の箱はゴーレムを隙間がほとんどない大きさで捕らえていたので腕を動かせる余地はほぼなかったが、腕の力が強力だったのでぶつかった部分が激しく明滅していた。
そんな様子に紗都美は、
『おお、さすがのパワーやな。
結界あんま保てなさそうやし、さっさと済ませんとあかんな。』
とかやってると莉沙絵が、
『で、何がどうなん?』
と聞いてきた。
『ああ、それなんやけどちょい残念系のお知らせや。
どうもレリシス姐さんは犯罪者を捕獲するのが仕事らしいんよ。
せやからさっきのんみたいな”動きを封じる”系の技は色々持ってはるんやけど、攻撃できるようなんがいっこしかないねん。
しかもかなりエネルギー必要みたいで使ったら変身解けてまうやろな。』
少し残念そうに答える紗都美に、
『って事はそれで倒せんかったら終わりって事か。。』
がっかり度満載の声で返した。
ちょっと落胆気味の2人だったが紗都美から、
『でや、ちょい試してみたい事あんねんけどええか?』
と莉沙絵に提案を持ち掛けた。
『このままやと埒あかんし何でもするで。』
少し気を良くした感じの莉沙絵に、
『・・・ってのいっぱつ頼むわ。』
と考えを伝えた。
『へぇ、そうなってんや。
ええで、任しとき。』
と意気揚々と答えていると、
パリーーーン!!!
とガラスが壊れるような音が聞こえた。
それはゴーレムの力に耐えられず結界が破壊された音だった。
進行を再開するゴーレムに対峙するように立ち塞がった巨人は、
『激しき風よ、円刃となりて、斬りつけろ。』
と魔法発動の呪文を唱え始めた。
呪文に呼応するように風が右手を中心に回りだした。
『サーキュラー・ブレード!!』
呪文を唱えきると円状の薄い風の刃が出来上がった。
それをゴーレムに向けて投げ放つ。
ヒュッ!
とゆう風切り音を鳴らしながら飛んで行った円刃はゴーレムの左腕の付け根近くを通り抜け、消えた。
そして、
ドドーン!
と地響きを起こして左腕が地面に落下した。
ゴァァァァァァァァァァ!!!
叫びを上げたゴーレムだったが落下し土砂に戻っていた腕は少しづつ再生を始めていた。
残っている左腕の部分に吸い寄せられるように土砂が浮かびながら徐々に腕の形に戻ろうとしていた。
だが再生速度はかなりゆっくりで少し時間が掛かるようだ。
攻撃が有効だった事に2人は、
『『おおっ!』』
と感嘆の声を上げた。
『魔法、ええ感じで使えるやん。』
と嬉しそうな莉沙絵に、
『せやなぁ。
レリシス姐さんがゲームのん色々使えるようにしてくれてたからなぁ。
これでなんとか戦えそう・・・んん?』
同様に嬉しそうにしていた紗都美が体の変化に気付いた。
『なぁ、なんか体重なった気ぃせえへん?』
と莉沙絵に尋ねた。
『んんん?』
と発しながら体を少し動かしてみた。
『せやな、ちょい重なった気するわ。』
そんな莉沙絵の返事を聞きいている時ふと腕輪の宝石が目に入った。
そして気付いた。
『なぁ、腕輪の宝石の光ってこんくらいやったっけ?』
と尋ねた。
同じように腕輪を見た莉沙絵も、
『なんかもっとピカーってしてたような??』
と同意した。
『もしかしてこれってカラータイマーみたいなもんなんか。』
『って事は光ってんのん消えたら、終わり?』
2人はこれがエネルギーの残量を示しているであろう事を理解した。
『まさか魔法使ったら消耗早なるん?』
と尋ねてくる莉沙絵に答えようとした時、レリシスの記憶の中に重大な情報があるのに気付いた。
『莉沙絵、あかんわ。
なんか巨大化するだけでかなりエネルギー消費するみたいや。
早く倒さんとヤバいで。』
と伝えた。
『でっかなるんはごっついリスクがあるって事か。
やっぱでかい分消費も激しいんやなぁ。
この感じやとこの姿維持出来んのって10分いかへんくらいか。』
等と意識でうんうんと頷きんがら納得している莉沙絵。
そんなやり取りしているうちにゴーレムの腕がほぼ修復していた。
その事に気付いた紗都美は、
『おっと、のんびりしとったらあかんわ。
とにかくあれ片付けてまわんと。』
と言うとゴーレムを観察した。
『あいつコア系、よな?』
と莉沙絵に確認してみた。
『見たとこ文字刻まれてないみたいやし、せやろなぁ。』
莉沙絵の返答が自分の考えと同じと判った紗都美はさっき記憶を覗いた時に見つけたレリシスの能力を試す事にした。
ゴーレムを見据える。
そして、
『走査。』
と発動キーを発した。
両目から見えない光が放たれゴーレムの頭の先から足の先まですべてを走査した。
そしてコアが胸の奥にあるのを確認した。
『やっぱ胸んとこか。
定番やなぁ。』
『判り安うてええやん。
で、どうすんのん?』
『あと3つで決める。
こうでこうで、最後はやっぱあれで決めんとな。』
『やっぱヒーローはそうやろ。』
2人は脳内会議で段取りを決めると行動に移った。
既にゴーレムは腕が修復され動きだそうとしている。
ここで決める!
そんな決意が感じられるように2人の目が熱く輝いた。
『激しき風よ、剣となりて、斬り落とせ。』
『激しき水よ、激流となりて、押し流せ。』
莉沙絵が風系、紗都美が水系魔法の呪文を同時に唱え始めた。
莉沙絵は右手の指を剣のように伸ばし横凪ぎの構えを取る。
紗都美は左手を握り腰だめに構える。
そして莉沙絵が一撃目を発動した。
『ソード・スラッシュ!』
叫びながら右手刀を横に薙いだ。
その動きに合わせるように指先から伸びた風の剣がゴーレムの首から上を切り落とした。
つづけて紗都美が、
『ウォーター・フォール!』
と叫びながら左拳を突き上げ手を開きながら振り下ろした。
その動きに合わせるように手の平から溢れだした水流がゴーレムの胸を洗い流した。
そこに黒光するコアがさらけ出されていた。
『よっしゃ、コア見えたで。』
『ほなら最後決めるで。』
その時、両方の腕輪の宝石が弱く点滅しているのに気付いた。
『やっぱギリやな。』
『出し惜しみなしや。
行くで。』
言うや2人はレリシスの記憶通りの所作で必殺技の準備を始めた。
両拳を胸の前で合わせ胸に集中させたエネルギーを拳に移す。
徐々に光を増していく拳。
光が十分に貯まったところで拳を左右に開く。
その動きに合わせるように光が伸びて棒状になった。
棒状に固定された光の中心で両手を揃えると左手を放す。
右手で握った光の棒の先端が尖っていくのを確認しながら槍投げの体勢で構える。
本来なら投げて攻撃するのだが的が小さいのと不馴れなのとでそのままゴーレムに近づいた。
『断罪の槍ー!!!』
と技名を叫びながら光の槍をコアに突き刺した。
コアを破壊されたゴーレムは、
ゴァァァァァァァァァ。。。
と断末魔の声を上げながら土砂へと戻っていき小さな山が出来上がった。
そして巨人はエネルギーを使い果たし赤と青の光の粒子になりながら消えていく。
その中から赤と青の小さな光が地上に降りていき人の形となった。
元の姿に戻った莉沙絵と紗都美。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!
のお腹が盛大に鳴り響いた。
(13)
大きく育っていた”悪意”が消えた。
のと同時によく知る気配を感じ取っていた。
「この気配は犬のもの、か。
何故ここに彼奴の気配があるのだ。
まさか小虫を見捨てたか?
ならば気を付けねばならんな。
この場所ならばしばし気付かれまいが、あまりのんびりもして居れんようだ。」
呟きながら次々湧き上がる”悪意”の吸収に集中する。
力が復活するまでまだかなりの時間を要する。
今の己の力では簡単に捕らえられてしまう。
そう感じているランタルにはレリシスの力を受け継いだばかりの2人なら簡単に倒せると気付く事はなかった。
そして力の吸収を早める為しばしの眠りに就いた。
(14)
巨人の戦いをハラハラしながら見守っていた人々。
最初こそ無様に倒れ不安を過ぎらせていたもののその動きは少しづつ良くなり人々の期待も高まっていった。
そしてついに巨人の攻撃が決まりゴーレムはただの土砂の山へと姿を変えた。
それを目の当たりにし人々の顔に笑顔が溢れ出した。
そして、
「おおおおおおおおおお!!!」
歓声が怒濤の如く湧き上がった。
「俺たち助かったんだよな?」
「あの巨人のおかげだよ。」
「あの巨人は神の使いなの。」
人々から巨人を称える言葉が溢れ出す。
そして巨人の武勇伝がいろいろな主観が絡まりながら盛り上がっていくのだった。
(15)
戦いを終えた2人はものすご~くお腹が空いていた。
どうやら変身で消費したエネルギーを欲しているようだ。
「あかん、めっちゃ腹減ってるわ。。」
「我もや~。。」
「変身するとこんな腹減るんや。。」
「なんか食べんと死んでまう~~。。」
等と苦言を呈しているが、爽快な顔をしていた。
そして先程の体験を思い返すように、
「我ら変身して戦ったんやな。」
としみじみ話し出す莉沙絵。
「せやなぁ。
けど、かなりグダグダやったやん。」
と言いながら苦笑する紗都美。
へへ、っと同じように苦笑いする莉沙絵。
「「我ら、ヒーローしたんよな。」」
2人の思いが重なった。
「そんでなちょっと思い付いてんけど。」
と紗都美が切り出した。
「もしかして、あれ?」
察したように莉沙絵が答える。
「お、さすが双子。
やっぱおんなじ事考えてるやん。」
「変身の時の掛け声、やろ。」
「なんかふっと思い付いてん。」
「我もや。」
2人がニヤっと微笑み声を合わせて思い付いた事を口にした。
「「ハーツ・シンクロス!」」
2人の声がシンクロした。
「ハーツが。」
「シンクロし。」
「クロスする。」
「「ハーツ・シンクロス!」」
もう一度口にし、
ハハハハハ
と嬉しそうに笑いだした。
「レリシス姐さんの。」
と言いかけた莉沙絵に、
「なぁ、”レリシス姐さん”って言い難ない。
レリ姐にせえへん?」
と紗都美が提案した。
「お、ええやんそれ。
んじゃ改めて。
レリ姐の無念張らさんとなぁ。」
「せやな。
こんな事になった元凶のランタルとか言うおっさん。
絶対とっ捕まえて罪償わしたる。」
2人は決意を新たにすると腕輪が付いている方の腕を突き上げた。
今は光を失っている宝石を見つめていると、
「お~い、りっさん~、さっつん~。」
と言うのんびりした声が聞こえてきた。
声の方を見るとウィーディムに運ばれ飛んで来る梨深とチャウダーが目に入った。
2人は体を起こすと手を振り無事を知らせた。
その時、
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!
とまた盛大にお腹が鳴り響いた。
1話の5公開しました。
これで1話目完結です。
初変身でグダグダながらも勝利した2人。
これからランタルを捕まえる為の冒険が始まります。
2話では今までほとんど喋ってない智佳が活躍します。
そのまえに閑話な1.5話を出来れば年内。
か年始早々に公開したいと思ってます。
見つけ読んで頂けたら幸いです。
よろしくお願い致します。