第1話「巨人になった女子高生!? VS巨大ゴーレム」(2)
(3)
豪奢な装飾が施された椅子に座っていた男が静かに目を開いた。
その男の周りには黒い煙のようなものが揺らめいていた。
名はトラジス星人ランタル。
レリシスが追っている犯罪ランクSの犯罪者である。
ランタルは何かを感じ取ったように上の方に目を向けた。
「この気配。
どうやら犬に気付かれたようだな。
仕事熱心な事だ。」
つぶやくも焦った様子はなかった。
むしろ喜んでいるように見える。
「この星の”負の気”は極上だった。
もう少し堪能したかったのだがな。
犬に負わされた傷も癒え、転移力も回復している。
ここらが潮時か。」
ランタルはゆっくり立ち上がると周りの状況を確認する。
「小虫が5匹か。
これを使えば犬と遊べそうだな。
少し戯れてやるとしよう。」
ランタルは不敵な笑みを浮かべると拳を振り下ろし椅子を破壊した。
おのれの力に満足すると闇の中に消えていった。
転移の準備を始める為に。
(4)
小型宇宙船がとある建物の上空で停止した。
コックピットではレリシスが位置検索の反応を見ていた。
「ここのようだな。」
そう呟くと宇宙船を不可視モードにして建物の屋上に降り立った。
それは学校だった。
午後6時半を過ぎ辺りはだいぶ暗くなっていた。
既に部活動の時間は終わっているのか校庭に人の姿はなかった。
その時、屋上にある時計塔から強い気配を感じ取った。
それは忘れられぬ気配だった。
「そこか。」
その気に反応してしまったレリシスは時計塔の下に位置する教室に微弱な反応があるのを見逃していた。
時計塔に近づき扉を調べると決壊が張られ人が入れないようになっていた。
レリシスは内部の状況を確認する為、扉に手を添えると、
「調査!」
と唱え、思念による調査を始めた。
その時強い次元波動を関知した。
「これは転移門が開く時の波動。
まさかもう転移出来るエネルギーが貯まったとゆうのか。
早すぎる。」
ランタルに深手を追わせたものの転移で逃げられてから地球時間にして1年程度。
それはこれまで充填に掛かっていた時間の10分の1程度だった。
その事がさらにレリシスの焦りに拍車を掛けてしまった。
手早く扉に掛けられた結界を解除し内部へ踏み込む。
中は闇に閉ざされていた。
その奥からランタルの強烈な気配が感じられた。
『居る。』
確信し気を引き締めると気配の方へ意識を向けた。
「トラジス星人ランタル、居るのは分かっているぞ。
複数の星での人類種殺生の罪、今度こそ償ってもらうぞ!」
と闇に向かって叫んだ。
その時闇の一部が揺らいだように感じた。
その場所に向け能力のひとつ走査眼光で闇を見透した。
そこにランタルが悠然と立ちレリシスを見ていた。
不敵な笑みを浮かべながら、
「まさかこんなに早く見つかるとは思っていなかったよ。
まったく仕事熱心な事だ。」
と愉快そうに声を掛けてきた。
「お前を捕らえるまで気持ちが休まらないんでね。
私の安寧の為にも大人しく捕まってもらおうか。」
と応じる。
「悪いが貴様の安寧になど興味はない。
さっしの通りこちらの準備は既に整っている。
この星は当たりだったよ。
人種の心の闇は深く良質で貴様にやられた傷を癒し、転移のエネルギーを貯めるのにこの程度の時間で済んでしまった。
貴様も余裕がなかったようだな。」
ランタルが楽しそうな声で語るのを、
「それで何人の人の命を奪った!」
怒気が籠った声を浴びせた。
「ここで終わらせる!」
言うや両腕を伸ばし左右の親指と人差し指で縦長の長方形を作りランタルをその長方形な中に納まるよう広さを調整し、
「捕縛結界!」
と叫んだ。
声に反応するように指の長方形が光りランタルに向かって放たれた。
近づいた光が箱状になりランタルを捕らえた。
だが捕らえられたランタルは余裕の笑みを浮かべていた。
「捕縛結界か。
だがこの星で吸収したエネルギーはかなり良質で大量。
ゆえにこんな事が出来る余裕もあるのだよ。
この結界、どこまで耐えられるかな?」
そうゆうと身長2メートル程度だったランタルの体が徐々に大きさを増し始めた。
身長が10メートル程になったあたりで結界が弾けとんだ。
それを見たレリシスは、
「まさかここまでエネルギーが蓄えられていたのか。
こちらも巨大化しなければ押さえられん。
エネルギーを大量に消費するが仕方ない。」
と言いつつ体内エネルギーを使い巨大化を始めた。
徐々に大きくなるにつれ質量が増した2人の重量に負け建物に亀裂が入り始めた。
それを余裕で見ていたランタルが、
「本当にいいのか?そんな事をして。
どうやら周りの状況を確認しなかったようだな。
このまま建物が壊れると面白い事になるぞ。」
ランタルの言葉に、
「それはどうゆう」
「キャー!!!」
問い返そうとしたレリシスの言葉に女性の悲鳴が重なった。
その悲鳴は小さくなんとか聞き取れる程度の大きさだったが、足元から聞こえてきたようだった。
「この下の部屋に小虫が居るのに気づかなかったようだな。
そのまま質量を増やしていくと小虫が潰れるぞ。」
と、笑みを浮かべながら声を掛けてくる。
「貴様、知っていてわざとっ!」
答えながら巨大化を止め元の人間サイズに戻るレリシス。
だが出来てしまった亀裂は大きさを増していた。
「また会える日を楽しみにしえいるよ、捜査官殿。」
と言いつつ笑い声を上げながらランタルは異空間への通路を潜り始めた。
レリシスはとっさに腕に装備されていた追跡装置の照準をランタルに向け発射した。
発射された目では捕らえられない程の細さの光糸の一端ががランタルの足に固着したのを確認すると声がした場所へと向かって行った。
(5)
ログアウトの処理が完了し5人の意識が体に戻ってきた。
ヘッドセットを外すと、それぞれ後片付けを始め出す。
「いやぁ、今日はええ探検やったわ。」
莉沙絵が嬉しそうに話始めた。
「ほんまやで。
ええアイテム手に入ったし、これでチャウダーの改良も出来るわ。」
と、紗都美が話にのっかった。
楽しそうに話始めた2人の会話を遮るように梨深が声を掛けてきた。
「ちょい遅なってもたから~、報告会早終わらせるで~。」
その声を合図に椅子を円形に並べて座ると今日の「異世界探検」でのそれぞれの成果や反省点、今後の方針などを話し合う報告会が始まった。
「ほなら~今日の記録係は~智佳ちゃんおねがいね~。」
「了解っす。」
記録係に任命された智佳がノートを準備するのを確認すると、
「まずは~由維から~いこか~。」
とひとり目の報告者を指名し話を始めようとした時、壁からミシミシと嫌な音が聞こえてきた。
「ちょっ、なんやこれ!」
莉沙絵が驚きの声を上げた。
「これ壁壊れるんちゃうん!」
紗都美もあまりの事態に慌てている。
「ちょっとこれはヤバいっすよ!」
「はよ逃げんと!」
「これは~あかんは~。」
皆がパニック状態になっている。
その時天井の一部が崩落した。
欠片は拳ふたつ分くらいのそれほど大きくないものだったが、運悪く莉沙絵と紗都美の頭部に直撃してしまった。
「「うっっ。。」」
衝撃で倒れた二人の頭には大きな傷が出来ていて、そこから多量の血が流れ出していた。
「りっさん!
さっつん!」
叫びながら由維が駆け寄り二人の状態を確認する。
傷は深く出血量も多い。
それを目の当たりにし、
「あかん!
これあかんって!」
と呟き血の気が引いていった。
パニック状態に拍車が掛かり三人はただ慌てる事しか出来なかった。
その時天井の壊れた部分から闇が染み出してきた。
それは室内を侵食しすべてを闇に染め上げた。
そんな状況の急変に精神が耐えられなくなり三人は意識を失った。
闇の侵食は結果的に部屋の崩壊の抑止になったものの、ランタルが開いた異界への通路はまだ閉じておらず五人の体を徐々に引き込み始めていた。
その時レリシスが現れた。
そして二人の少女の命の灯が消えようとしているのに気付いた。
「まさかこんな事になっているとわ。
すべて功を焦った私の責任だ。」
後悔の念が頭を過るもすぐさま振りほどく。
早く処置しなければ二人の命が失われてしまう。
だが既に治療が間に合う状態ではなかった。
猶予は10分程。
二人の命を救うには自身の命を差し出すしかない。
そう決意したレリシスは少女達を守る為の準備を開始した。
まずはその場を走査した。
近くにあったのは荷物とVRを利用する為の機器が五人分。
後は棚の書籍くらいだった。
VR機器に目を付けその中の保存されている情報を読み取った。
「このデータは使えそうだ。」
そして少女達の情報を走査した。
それぞれの情報を確認し、年長で頭の良い梨深を選んだ。
意識を戻す為、伸ばした人差し指で額に触れると微量の電流を流した。
「うっっ。。」
呻き声を発すると少しずつ意識が戻り始める。
「目を覚ましなさい、聖上梨深。」
レリシスは優しく声を掛けた。
完全に意識が戻っていない状態でぼんやりと相手を認識しているようだった。
なので相手が宇宙人である事には気付いていなかった。
そんな梨深に経緯と現状、これからの事を伝えた。
梨深は夢見心地ではあったがしっかりと記憶に止め、再び意識を失った。
「私の不手際であなた達を巻き込んでしまい申し訳ない。
二人の命を救う為この命を捧げさせて貰う。
命をふたつに分ける為、私自身が蘇る事は叶わない。
どうかそれで贖罪とさせてほしい。」
そう意識のない少女達に語りかけ深く頭を下げた。
それは少女達の記憶に刻まれた。
そしてレリシスは次の行動に移った。
VR機器を3つの指輪と2つの腕輪に形状を変化させた。
それにはゲーム内で使ってい様々なデータが蓄積され、現実で使えるように調整されていた。
3つの指輪を梨深、由維、智佳の右人指し指に。
命を捧げる事で自らの力を使えるようにする為、指輪より容量を増やした腕輪を莉沙絵の左腕と紗都美の右腕にそれぞれ嵌めた。
それらには無限収納の機能を付加しそれぞれの荷物を収納しておく。
最後に五人の持つスマートフォンの通信機能を五人の間で通じるよう調整を行った。
持てる能力を駆使し5人が異世界で困らないよう最低限の準備を整えたがかなり消耗していた。
「これで異世界でも大丈夫だろう。」
そしてレリシスは絶命寸前の二人の少女を仰向けで平行に並ばせた。
二人の足元に立つと腕の通信端末に話しかける。
「ソル、聞こえるか。」
その声に宇宙船のAI・ソルが、
「ゴヨウデショウカ?」
と抑揚のない電子音声で返答してきた。
「私は任務を遂行出来なくなった。
情報を転送するから本部に送ってくれ。
小型船を回収後お前も本部に帰還しろ。」
との指示に、
「リョウカイシマシタ。」
と返答する。
「あと、メリシス捜査官に伝言を頼む。
約束守れなくなった。
スマン。
私より優秀な捜査官になってくれ。
・・・じゃあな。
以上だ。」
そう伝えたレリシスの目からひと筋涙が流れた。
「デンゴンキロクシマシタ。
シジヲジッコウシマス。」
と返答すると通信が切断された。
宇宙船との通信を終えたレリシスの視線は2人の少女に向けられていた。
その表情には強い決意が現れていた。
そして二人に話し掛ける。
「私の命で二人の命を繋ぎ止める。
私の意識はなくなるが記憶は引き継がれる。
願わくばランタルを。」
最後の言葉は飲み込んだ。
自分の送った情報で本部から救援が来るだろう。
それまで生き延びてほしい。
そう願いながら最後の儀式を始めた。
レリシスの体が光を放つ。
そして体がふたつに分離した。
赤く輝くレリシスは莉沙絵に。
青く輝くレリシスは紗都美に。
倒れ込むとそれぞれの体に吸い込まれていった。
しばらく赤と青の光を放っていた二人の体はその光が体内に取り込まれるるように消えると頭の怪我がなかったかのようになくなり血色が良くなっていた。
そして吐息が整い正常な状態に戻った。
それに合わせるかのように五人の体が異世界への通路に吸い込まれていった。
そして闇は消え部室の崩壊が始まった。
第1話の2公開しました。
大幅に書き直してしまった。
とりあえず年内には1話分終わらせたい、と思ってます。
今回は重い部分なので暗めです。
メインはレリシスVSランタル。
次からやっと異世界です。
明るくなります。
それではよろしくお願い致します。