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Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷  作者: くみたろう
第2章 水の都アクアエデンと氷の城
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幻の食材と、レアドロップを求めて8


「……………………はぁ」


スイは倒れているジャンボを優しく撫でた。

横たわり息も絶え絶えのジャンボを慈しむように優しく、優しく撫で付ける。

後一撃で死ぬだろう瀕死状態に、スイはうるうると目を潤ませる。


「………ごめんね」


タケノコ畑の至る所に倒れるイノシシたち。

その殆どが綺麗な状態で倒れていて、それをクリスティーナが笑いながら収納、圧縮していく。

そんな様子に目もくれず巨大なジャンボを撫でるが、クリスティーナ含めた仲間たちは用意していた何百個もの道具を使い収納する為道具はみるみるうちに無くなっていく。

それなりに高い使い捨ての道具の為、それはもう二度と使えないが、そんな事クリスティーナには関係ない。

ニヤニヤニヤニヤとイノシシを確保してストレージに入れていった。

むしろ入り切らず、リィンやデオドールのストレージも借りて入れていく。


「もぅー、この子とか美味しそうじゃない? ほら、筋肉引き締まっていいわぁ!」


倒れている小さめのイノシシをクリスティーナはニヤニヤと締まりのない顔で頭を撫で首を撫で、背中を撫で……

そんなクリスティーナにやっと視線を向けたスイはため息を吐いて渡されていた道具をジャンボに近づけた。


「……………ごめんね、せめて私の手で……」


ウルッとまた目が潤みながらも、ヴァイオリンで出した剣を首にあて…………………

泣きながら道具に収納したスイにはかなりのダメージを負ったが、それでもこれで目的は果たせた……と、どこかほっとした。











あのヴァイオリンを出した時、スイは自バフをして一気に勝負を決めた。

ヴァイオリンに付いているリスさんの目が光り、短剣が無数に現れる。

クルクルとスイの奏でる曲に合わせて動く短剣のうち、ひとつに飛び乗り一気にイノシシに近づいた。

突出するジャンボは集まって丸く盾のようになる短剣が防御、ジャンボは少しも進むことが出来なかった。

むしろ、力を入れるが下がっていくのはジャンボの方。

盾に使ってない短剣がクルクルと回ってジャンボへと向かっていった。

刺さる短剣に、ジャンボが体を捻り雄叫びをあげる。




「…………あれ?」


なにか、お腹をかばっている。

…………………もしかして、お腹に子供がいる、とか?


じっと見ると、お腹にポケットの様なものがありモゾモゾと動いていて、それを必死に手で覆い守る。


「……………お腹に子供いるんじゃないかな」


スイの言葉に全員がジャンボの腹部を見た。

モゾモゾしているのを全員が確認し、クリスティーナはさらにテンションがあがる。


「ジャンボに子供なんて! 聞いたことないよ!!」


これは、捕まえてって事ですね、わかります。


「よーし。がんばっちゃうぞー」


ヴァイオリンを奏でて増やす短剣。

不規則に動きジャンボを翻弄しながら少しづつゲージを減らし、それに合わせて一斉攻撃を始めた。

スイ自身、そこまでレベルが高いわけでない。

自バフをして一時的に上げているが、バフが切れたら自慢の腕力での攻撃だけになる。

もちろん、それだけでも十分強いが。


すなわち、このジャンボ。ボス並みの強さなのだ。

スイ1人で倒しきれる相手じゃない。

泥仕合になりながらも、少しずつゲージを減らすしかなかった。

そして……………



『ぎゃーーーー! やっぱり!!』


ゲージがレッドゾーンに差し迫った瞬間、光り出したジャンボ。

そう、あの第一の街のボスと同じだった。

光がだんだん収まり、そこに現れたのは……


「………………………………」


「わん?」


二本のタケノコを持つ、犬。

二本足で立ちタケノコをフリフリとしている。

しかも、ペキニーズなのだ。


「……………………………むり」


一気に飛んでいた武器が地面に落ち、スイは崩れ落ちる。

その落ちた武器に、下でぎゃー! あぶねぇー!! とクリスティーナの乙女らしからぬ声が聞こえたが、スイはハラハラと涙を流しながら地面に降り立った。

そして泣き崩れ、ペキニーズを指さす。


「むりだよ、むりぃぃぃぃ……わんこだよぉ、よりにもよってわんこぉぉ……なんでぇ、運営ひどいぃぃぃ」


「しっかりして! あれはもふちゃんじゃないから!」


「ほら、色も違うのですよー! よく見るのですよー!」


「……………これはスイにはキツいかも」


イズナとデオドールがスイを揺さぶり、クリスティーナが乾いた笑いを浮かべた。


「………わん?」


フリフリ。タケノコふりふり。

そして、タケノコあむあむ。

さすが元々イノシシ……………


「いやぁぁ! もふさん! 生のタケノコたべないでぇぇ!!」


「あれはもふちゃんじゃないですよ! しっかり!!」


リィンも慌ててスイを揺さぶる。


ちょこちょこ近づいてスイにタケノコを差し出す犬。

尻尾がフリフリしている。

その笑ったような顔で見てくるからスイも思わず笑った。


「………くれるの?」


手を出した瞬間、クリクリの目でスイを見ながらタケノコで殴りかかってきた。

タケノコで……………

先の方で力いっぱい、むしろ刺そうとしてるのかペキニーズが目を光らせている。


「きゃぁ! スイさぁん!!」


「ぎゃあ!まじか!!」


一気にレットゾーンまでゲージが減り、リィンが回復、クリスティーナが一気にスイを引っ張った。


「………はっ! 今一体………」


犬から引きずられて離されたスイは、未だにちょこんと座りタケノコをフリフリしているペキニーズを見る。



………………半分くらい血に染まったタケノコを。



『犬こっわ!!!』



顔は可愛いのだ。

可愛いからこそ、その猟奇的な動きに全員震え上がる。

あむあむシュッシュッシュッ

タケノコをエサと武器一体で使うのやめてください。

血に染ったタケノコを食べ、硬い部分になったら豪速球で投げつけてきた。

必死にぶつからないように避けると後ろに飛んで行ったタケノコが壁を破壊している。

タケノコの威力じゃない。

ペキニーズは新しいタケノコを取り、またフリフリとしている。


「……………どうしよう、私、絶対無理」


スイが真剣にいった。真顔でクリスティーナを見ると、クリスティーナも真顔だ。

大丈夫、みんなわかってる。


結局、ここからはスイは支援を中心に回復するリィンの護衛的立場に収まり、他の仲間たちでフルボッコにすることが決定。

その様子を見るだけでスイは涙をあふれさせて何度も目を擦る。


「ごめんねぇ……ごめんねぇぇ……」


『気散るわ!!』



戦う仲間たちが一斉に振り向きスイに向かってさけんだのだった。









こうして、無事ジャンボを倒し子供もGETしたクリスティーナはホクホクし、スイはやっと復活した。

しかし、心に受けたダメージは大きく油断したら涙が溢れそうだ。とりあえず、帰ったらもふもふを満足いくまで可愛がろうと心に決めた。






「さてさて。ドロップの確認しましょうかー」


6人で集まってストレージを確認する。

清水の欲しがっているレアドロップはかなりの低確率でドロップする。それの確認だ。

全員がストレージを開き入手したアイテムを順番に見ていく。


「…………………毛皮とかばかりね」


「私も……、あ、クイーンの油がドロップしてるのですよー」


「!! デオドールさん! なにかと交換しましょう!!」


クイーンの油もレアドロップではないが、低確率出現だ。

料理で使う高級油である。

それにクリスティーナのテンションが上がり、デオドールはトロトロプリンで手を打つのですよーと笑った。


「……私もないね」


「あ、クリスティーナ油あったよー。後で渡すね」


「ありがとう!!」


スイがクイーンの油を見つけてクリスティーナに伝え、そのまま下を見ていった時見つけたのだ。

レアドロップと輝く文字の横に書かれた【氷結のブレスレット】と。


「「レアドロップ……」」


思わず口にしたスイが言った言葉に重なったリィンの声。

2人は顔を合わせて目をぱちぱちとさせた。


「でたの?」


覗き込んできたクリスティーナに見えるように2人はストレージを見せた。

しっかりと書かれた氷結のブレスレットの文字に全員がおめでとう! と拍手をする。

運いいねー! 2人も出るなんて!!


「可愛いだろうなー、結晶モチーフのドレス! リィンちゃん似合いそうねー」


クリスティーナがうふふと笑うと、リィンは困ったように笑った。


「ドレス………」


ストレージから出した細身の雪の結晶のブレスレット。

ひんやりとしたそれを見たリィンは、自分のストレージを見てガッカリと落ち込む清水へと差し出した。


「……………え?」


「どうぞ。これをプレゼントしてください」


「いや、でも……」


「皆さんで倒して手に入れたものです。ですから、あなたが持っていてもおかしくないです。たまたま、私の元に来ただけですから、ね?」


ふわりと笑って言ったリィンに、清水は少し顔を赤くしながらも、そのブレスレットを受け取った。


「………あ、りがと、う」


「じゃあ、はい。お揃いがいいんじゃないですか?」


リィンのブレスレットを持つ手に、もう1つ渡してスイもニッコリ笑う。


清水はスイを、そしてリィンを見てゆっくりと頭を下げた。


「本当に、本当にありがとう、ございます!!」


嬉しそうに2つのブレスレットを持つ清水に、クラメン達は顔を見合わせて笑いあった。










「よかったんですか? ブレスレット」


「リィンさんだって、渡してたじゃないですか」


クランハウスに帰る途中、2人は並んで歩いていた。

リィンがスイを下から見上げて聞くと、スイも同じ事を聞いた。


「私は、いいんです」


「そう、なんですか? リィンさんの雪の結晶ドレス見たかったです」


「え!?」


「ん?」


いえ! と、首を横に振って答えたリィンに、スイは


「あ、でもお揃いとかちょっといいなって思いましたけどね」


笑って言ったスイに、リィンは顔を赤らめて俯く。


「________を言ったら___」


「え?」


「…………いえ! いつか、お揃いの服もいいですね!」


今はお揃いの髪飾りで満足です! と髪を結ぶアクセサリーを指指して言った。

最初に会った時にリィンがスイにあげたお揃いの髪飾りだ。

スイもそれに触れてはにかむ様に笑うのだった。

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