加入ラッシュ2
「加入したい、ねぇ」
頬杖をついて話を聞いたセラニーチェが言った。
ため息も吐き出してしまう。
「予想はしてただろう」
「そうだけど、まさかスイちゃんの方にいくとはね」
はぁ、セラニーチェはプルプル震えていたスイの頭をグイグイと撫でた。
泣き腫らした顔で帰ってきたスイに、クラメンは一斉に立ち上がり寄り添った。
見知らぬクリスティーナがいて視線を向けたが、先にクラメンのスイを優先した、それはクリスティーナに一言断ってからだ。
むしろ、クリスティーナは自分はいいからスイを、とスイの背中を押した。
「予想……ですか?」
「昔からクランの加入は一切しなかったからな、2人入った事で加入希望は出るだろうなとは思ってた」
「だから予想の範囲内」
座るスイのところに来て無理やり膝に乗り上げるナズナはそのままスイにしがみつくように座って落ち着いた。
「………すいません、俺、ですよね」
「んー、まぁきっかけはファーレンだったけど入れるのを決めたのは私達だし、正直に言うとスイちゃんが入ったのはリィンちゃんのフレンドだからって言うのも当たってるしねぇ。……………いい当たりものだったけどね」
ペコッと頭を下げたファーレンにセラニーチェが苦笑する。
リィンのフレンドだと言われた時、リィンも弾かれた様に顔を上げた。
「今後は一切の加入希望受付はしない、入る場合は俺たちの求めている人材を俺達が見つけたときだけ。クラメンからの加入希望もなしな」
ゴタゴタするからな。
そう言ったカガリに、全員がはーい! と手を挙げた。
「………………あの」
「どうした?」
ファーレンが俯きながら声を上げた。
大きくはないが全員がそちらに視線を向けた時に頭を下げた。
「あの………今まですいませんでした。すごく失礼な態度や嫌な態度を取って不快にさせたし、何よりスイ……さんには暴言も吐きました。クランの仲良くを出来なかった」
「………それ、スイには謝ったのか?」
「はい、謝りました」
カガリがスイを見て確認すると、泣いて赤くなった目をカガリに向けて頷いた。
「……スイは許したのか?」
「はい」
頷いたのを見て、カガリは全員を見た。
「どうだ?」
「………まぁ、正直不快ではありましたねー。ギスギスしたって楽しくない、集まる意味がないですからねー」
クラーティアが言うと、ファーレンは小さな声ではい、と返事をする。
「でも、ちゃんとごめんなさいが言えたのは偉いのですよー」
「ちゃんと反省してるのも窺えるしね」
「何も私たちはね仲良く出来ないならすぐ切り捨てるなんてしないわよ。ゲームだって人付き合い、一緒に居てみないと誰がどんな人かなんてわからないもの」
「まぁ、目に余るものはあったがな」
「だから、今後を見させてもらう。ちゃんとスイに謝ったみたいだしな」
クラメンがどうしようもないな、と言うように苦笑しながら口々に答えた。
ファーレンは弾かれたように顔を上げた。
「………俺、フェアリーロード抜けなくていいんですか?」
「あなたが誠心誠意謝ったら、今後のあなたの成長を見るとみんなで決めたんですよ」
「頑張ってくれよ、盾は俺しかいないんだからな」
「は、はい!! 本当にすいませんでした!!」
ばっ! と頭を下げるファーレン。
すぐ近くにあるテーブルが頭スレスレで、何人かがギョ! としていた。
「あとスイ」
「はい」
「なんかあったら通報なりなんなりしろ、危ねぇ」
カガリが真剣に言ってきた。
「ゲームでもほぼ現実と一緒なんだから、やろうと思えば犯罪並みの事だって出来る。1人の時は通報なりなんなり自衛をしろ」
「スイちゃんなら一発殴るでも良さそうよね」
ウインクしながら手をグーにして言うセラニーチェに、スイは自分の手を見る。
「1対1ならすぐ通報、複数ならそれこそ殴れ。複数相手でハラスメントとかなら正当防衛は働くし、運営に注意や対処されるのは向こうだ」
「わかりました」
真剣に頷くスイに、クラメンはちょっと安心するが、次に出た話にまた心配は押し寄せてきた。
「ちょっと失礼しますね、私スイのリアフレで愛の料理人クリスティーナです!」
「!?!?」
「クリスティーナ!? く、クリスティ……ナ……」
「てか、βから居るクリスティーナ!?」
「………スイ、お前すげーやつ連れてきたな……」
あはー! と頬に手を当ててくねくね二割増で挨拶したクリスティーナに全員顔を引きつらせる。
「か、可愛いんじゃなかったんですか!?」
「……………中身とリアルは可愛いです」
「………そう来たか………」
うふふ、と笑うクリスティーナに全員が、じゃああれはクリスティーナの作ったやつか、それは美味いに決まってるわ!! と内心叫んだ。
「それでですね、これです。この掲示板」
公式サイトと掲示板はゲームからも見れるようになっていた。
開いた掲示板にはフェアリーロード加入への情報や新人2人について書かれている。
特に地雷職、寄生と書かれたスイについてはスクショまである。
そのなかには
スイたん、(´Д`三´Д`*)hshs
かわい!スイたん!
ご飯をあむあむあむあむあむあむスイたん
など書かれている。
ご丁寧に食事中のスイも貼られていた。
『ひぃ!!!』
気味の悪さに全員が腕を摩った。
「この内容とスイの外見拡散された結果、スイに加入の話が行ったみたいですよ。リィンさんに口添えしてもらってるって書いてるから、これが原因ですかねぇ?」
「す……スクショ?」
「ゲーム内で写真を撮れるんですよ。それを貼ったり送ったりも出来ます。基本自由ですね、アバターで身バレもしませんから。ただ、拒否のひとはここの……ここをこうすると……拒否になります」
リィンが自分のステータスをだして説明する。
ステータスの項目で変更可能らしい。
設定した人以外のスクショの悪用は自動的に森と小鳥がさえずる画像に切り替わる設定だ。
「か、変えときます!」
「その方が良さそうだな」
ポチポチと変更するスイを見て全員が顔を見合わせた。
「これは長引きそうね」
「あぁ………………随分個人的な事を詳しく書いてるな」
初期の戦闘棒立ちや、リィンとフレンドなどクラメンしか知らない情報も書かれている。
ファーレンは、はっ! と目を見開いた
「あ、俺アキラにその話したと思います。本当に最初の時の話を少し………」
「…………じゃ、そいつが拡散したか」
「本当にすいません……」
「謝るのは俺らじゃないだろ」
「………はい。あの、スイさんすいませんでした……」
設定を変更したスイはファーレンを見てふるふると首を横に振った。
地雷職だから、いずれは言われると思うと。
「……スイ、これはマジで通報とか何でもいいから直ぐに動け。アブナイ」
「わ、わかりました」
こくこくと何度も頷いたスイをみんなが心配そうに見ていた。




