キャラメイクと設定
4月25日改正
翠はゆっくりと目を開けた。
周りは闇に閉ざされた空間で特に何も無い。
上も下も、右も左も分からない自分しかいない空間。
一気に増す不安感に、これは……と呟いた。
どこまでも続く暗闇に翠だけがボヤっと白く光っているのだ。
しかし、不思議なのはその姿。
全身白塗りのように人工的な白
体は不自由なく動くが、動く度に当たるはずの髪もなかった。
顔ものっぺらぼうで、人形を作る最初の形みたい。
【ようこそ、Anotherfantasiaへ。】
突然聞こえた声に体を震わせると、暗闇の中いきなりモニターのようなものが浮かび上がった。
そのモニターの眩しさに真っ白な手を顔の前まで持ってきてから気付く。
目がなくても見えるんだ。
モニターの隣には背中に羽根のある女性が現れる。
サラリと太ももまでくる銀の髪をそのままに、女性はまっすぐ翠を見た。
【私はAnotherfantasia、以後AFOの世界のナビゲーターです。ゲーム開始までのキャラメイクと設定をお手伝いさせて頂きます。】
そう言ったナビゲーターは、頭を1度下げて翠を見た。
「ナビゲーター……」
【はい、そうです。】
「……なんで私真っ白なの?」
翠は自分の手を見てから聞くと、ナビゲーターは表示されているモニターの1番上、ネームを光らせた。
【まだキャラメイク前だからです。キャラメイクが決まりましたら、自然とお体は変更されます。】
「そうなんだ……」
【それでは、まずはネームを決めてください。ネームはここAFOでのあなたの名前になります。現実世界とゲームを区切るために現実世界とは違うものを推奨いたします。】
身バレ防止、というやつらしい。
翠は少し考えた。しかし、自分の名前を、翠という名前を気に入っている。
そして、呼びなれない名前で呼ばれても翠は反応出来るのか? と考え翠の別の読み方を口にした。
「スイ、にして」
【かしこまりました、スイ様ですね。カタカナでスイ様】
カタカナで表示されたスイという字は、先程光らせたネームの場所に書かれた。その隣にはLv1の文字もある。
翠の読み方を変えスイの名前で書かれたそれは、プロフィールが書かれているようだ。
【それではスイ様、お先にキャラメイクを行います。貴方様のAFOでのお姿を決めて頂きます。】
もうひとつのモニターが光った。
片側に全身の姿。ただし、まだ真っ白。
隣には細かい体のパーツがあった。
これで一人一人違った体が出来上がるのだ。
【まずはデータで取らせていただいたお体を反映させます。】
真っ白だった体が次の瞬間女性らしい丸みを帯びた体に変わった。
それは現実での翠の体。
まだ顔はのっぺらぼうだが体は出来上がり白と茶色の色彩の簡易な服を着ている。
所謂初期装備である。
「私の体だ……」
【はい、ここからリアルと違う肉体を作ってもらいます。こちらのモニターにあるゲージで体格を変えてください。なお、ゲーム開始後キャラメイクをなおすことは出来ませんのでご注意下さい】
モニターに近づくとかなりの細さで体の部位をいじれるようになっていた。
細くしたり太くしたり、身長も体重も変える。
もちろん胸の大きさも変えられた。
現実からかなり離れたら動きにくかったりするのだろうか?
翠は考えて指を動かした。
小柄にしよう、体重も少なめ、そしてちょっと巨乳だ。
色白にして。
あ、小柄でもガリガリは嫌だな……もうちょっとモチモチさせて……
あとは………
指を動かし次々と体を作っていく。
自分で好みの体を作るのってなんだか楽しい。
スイはこのアバターに力を注ぎすぎて作成に8時間かけたプレイヤーがいたことを知らない。
ナビゲーターのアドバイスを聴きながら輪郭や顔のパーツ、髪型も設定する。
大きなタレ目、ふんわりした感じ。色はエメラルドグリーンにしよう。
唇は厚すぎず、薄すぎず。綺麗なサーモンピンク。
眉毛は可愛い感じに、キツくならないように。
髪型は、瞳と同じエメラルドグリーンにして、緩やかなウェーブをつけようかな。
背中の真ん中……や、腰まで伸ばして……
前髪は斜めにして……
ほんとに細かいなぁ。
こうして出来上がったAnotherfantasiaのスイの姿。
全体的にエメラルドグリーンの配色が多く、ふんわりした可愛い感じの巨乳が出来上がった。
サイドの髪を少しだけ残して下の方でツインテールにした髪型。
なぜか風が吹いているのか髪や服が緩やかに揺れている。
全身を見て、スイは頷いた。
「出来ました」
【はい、お疲れ様です。それでは只今より職業を決めて頂きます。】
「職業……?」
【はい、AFOは職業毎に出来ること出来ない事が幅広く存在しています。その職業を選んでいただきます。職業に関する注意事項と説明を受けますか?】
「はい」
ナビゲーターは頷き、3つのモニターを表示させた。
そこには攻撃職、サポート職、特殊職と表示されている。
それでは、職業の説明と注意事項を始めます。
そういったナビゲーターはさらに1つのモニターを表示する。
そこには箇条書きで文章が書かれていた。
・ゲーム中転職は可能
・転職した際、習得していたスキルはそのままだがレベルは1になる。
・以前使用していた職業に戻っても、レベルは1に戻り再スタート。
・上位職への転職はよく使う武器や戦闘の仕方により派生先は違う。
・職業にあってないスキルや、戦闘方法は可能だが威力は落ちる。
大きな注意事項はこちら。
太字で書かれていて意味もまぁ、何となくわかる。
上位職がよくわからないが。
首を一瞬かしげたスイに、ナビゲーターは口を開いた。
【上位職とは、現在使用している職業の更にグレードが上がった職業になります。例えば、同じ近接武器で、ファイターという職業だとしても剣と斧だと同じ前衛火力でも、上位職への転職は違う職種になります。】
【使う武器により立ち回りはかわります。そのため派生先が変わるのです。】
攻撃職と書かれたモニターを光らせた文字を浮かび上がらせる。
剣、斧、槍、棍、拳
又、中間での戦闘に使うであろう弓や、銃の表示
また1つ、別のモニターが光った。
【こちらはサポート職となっています。基本は後方からの支援。回復専門にする職業に、仲間たちの能力値上昇、また敵の能力値を減少させる職業。サポートとはまた違いますが、大きな盾を使用し、敵のターゲットを集める壁職や、後方からの強い火力を生み出す魔術師もいます。】
「サポート職かぁ」
そして、最後に光るのは特殊職
【こちらは専門職です。武器を作る武器職人、防具を作る防具職人、魔道具などを作り出す職人など、技術職が多くいます。】
大きく3つに分かれているがその職業は無限に広がるし、 どんな姿にも変化するだろう。
スイは少し下を向き考えを巡らせる。
ゲームは好きでなかった。だから、ゲームのシステムとかはよく分からない。
これはやってみて覚えるしか無いようだ。
でもファンタジーや、不可思議な世界観は大好きだった。
剣や魔法の世界なんて胸熱である。
スイはゆっくりと顔を上げて、自分の決めた職業を口にした。
【…………それで、よろしいですね?】
「うん」
スイが決めた職業が設定に組み込まれた瞬間、体の数値が一気に上昇した。
プロフィール画面に映し出された攻撃や、防御、体力、 スピード、luckyなど数値が変わっていった。
そしてスキル欄が登場する。まだ、何も書かれていない。
【それでは、スイ様の未来に祝福を】
ナビゲーターは胸の前で手を交差させてゆっくりとお辞儀をした。
瞬きした瞬間に、スイの視界が一気に切り替わる。
暗闇の空間から抜け出したスイは巨大な都市の中心に佇んでいたのだった。