私の戦い方
至近距離にいるデオドールの真剣な表情に、慄くスイ。
スイには十分すぎるほどに強いと思っているから、何が不満なのかわからないでいた。
「デオドールさん? あの……何が不満なのでしょうか?」
思わず丁寧すぎる敬語で話すスイにデオドールが、はっ!とする。
直ぐに離れてからペタリと座った。
「ごめんなさいねぇ? 思わず興奮しちゃて」
頬に手を当てて朗らかに笑うが、数秒前までの鬼気迫る姿を見ていたスイは、無言で首を横に振るしかない。
その間もリィンはスイを後ろから幸せそうに抱き締めていた。
「あのね? 私槌を使うじゃない? 槌ってこのゲームでは大振りで動きが1番遅いのだけど、火力はその分1番なのよ。なのに周りも高火力であまり変わらないじゃない? スイちゃんのバフも大きく作用して……そうしたら大振りで隙あるし火力不足な気がして」
頬に手を当てていうお淑やかなデオドールだが、戦闘中無表情で敵を叩き潰し、強ければ強い程に生き生きとしだす。
そんな姿を思い出していると、フェアリーロードの数名がスイを見ながらバツと腕で示したり首を横に振ったりしているのに気付いた。
「(やめて! これ以上破壊神増やさないで!!)」
フェアリーロードは撲殺天使と化け物人魚でもうお腹いっぱいなのだ。
その他NEWと出ていそうなイケメンクマの盾とヒステリックハープ人魚の色物まで揃っている。
もはや仲間内は必死だ。
ボス戦含み、強いのに予期せぬ罠に振り回される。 今に始まった事ではないが。
必死な仲間内の抵抗を見て、ただただ困惑する。
強くなりたい一心でスイに詰寄る姿に、どうにかしてあげたいけれど、とは思うが、スイの専門は楽器であって槌ではない。
武器屋紹介も勿論出来ないから、困ったなぁ……と思っている時にカガリが割り込んでいた。
「デオドール、力を底上げしたいのは分かったけど、今はまずクエストクリアを優先しよう。あっちもこっちもじゃ進まねぇし」
「大丈夫、デオドール強い」
「そう言いながら手をワキワキさせるのやめなさい!」
いい内容に割り込むように言ったが、その手はワキワキとある一点を狙って指が動いていた。
「……さすがにしない」
「何がさすがなのよ!」
もう! と騒がしい双子を見ながら、デオドールは上品に笑う。
「……そうよね、今はとにかく頑張ってクエストをクリアしないとねぇ」
いつもの調子を取り戻したデオドールにホッと力を抜いたスイは、今更ながらにリィンに後ろから抑えられているのに気付く。
「ああぁぁぁ! ごめんなさいリィンさん!」
「えっ……あ、いえ……」
頭を下げて謝るスイに、リィンは残念そうに微笑んだ。
とりあえず1度ログアウトしようと決まり、翠は部屋で目を覚ます。
ふぅ……と息を吐き出して起き上がった翠は、伸びをしてからベッドから立ち上がった。
ぐっ……と体の具合を確認するのに腕を上げたり回したりしてからカレンダーを見る。
そろそろ調整の日だなぁ……と確認してからキッチンに向かった。
最近1日の自由時間の半分以上をゲームに費やしている。
一人暮らしだからこそ出来る怠惰で堕落した生活だなぁ……と笑いながら冷蔵庫の中を確認した。
うん、食材はある。
手早く料理を作りながらも、考えることはどうやって龍の動きを事前にわかるかなのだが、スイは見るだけではやはり分からない。
「………………分からないならゲームアシストでそんなの無いのかな」
ん……? と首を傾げて、出来た野菜たっぷりの焼きそばを持って呟く。
だが、このゲームはプレイヤーに優しくない。
いかに自分で見極め、仲間と協力して進むかに無駄に力を入れている。
さぁて、どうするべきか……と悩む翠は、はむっ……と大口を開けて焼きそばを食べだした。




