ボス戦4
前衛の位置を直して、スイは戦う様子を俯瞰する。
カガリとファーレンが順番にタゲ取りをして気をそらし、その間に背後や横からタク、デオドール、イズナが攻撃する。
勿論3人をなぎ払おうと動く手足や尻尾がビュンビュンと飛んでくる為、それを避け、時には一撃貰いながらも龍のゲージを減らしていく。
後衛から高火力の一斉射撃や魔法が打ち込まれ後ろに下がるが、魔力耐性が高いのか思ったような攻撃は通らなかった。
その様子をじっくり見ながら走り出し、クリスティーナやアレイスターがいる場所まで出てくる。
スイの響かせる範囲に仲間が来るようにだ。
「……まずは」
スピードアップが切れたのでスピードアップを全体に、後衛に2種類の防御アップを時間差でかける。
それから、攻撃力アップを前衛に、後衛に魔法攻撃アップを。
それから……それから……
ここまでは今まで通り。
敵の行動を見て、どのモーションでどの攻撃がくる? よく見て……よく見て……
スイは音楽を奏でながら今まで蟻さんで行ってきた模擬戦の注意を思い出す。
「毒くるぞ!!」
カガリから全体に声が掛かる。
光属性アップを重ね掛けした瞬間、スイ以外に光の壁が現れ弱毒化させた。
さらに、状態異常回復が全員にかかる。
やはり僧侶が2人いるのはサポートの幅が広がり戦況をぐっ……とよくする。
毒が来たあとは尻尾の強攻撃が……
スイが走り出すと尻尾を振り上げ岩にぶつかり、その石がナズナに向かう。
石は無機物の為属性なしの投擲扱いになる。
「……くっ! ああぁぁぁあ!! ごめんなさい人魚さま!! 」
顔面に石がめり込んだ人魚の青い髪が真っ赤に染まる。
これは…………
「怒りメーターMAX」
後ろでポツリと呟いたナズナの声に泣きながら頷く。
これは……壺の水で洪水を引き起こすのか……と中衛以降の仲間達が震え上がった時だった。
《うらぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!》
「「「ぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!」」」
「まさかのぶん投げたぁ?!」
大きい壺を片手でぶん投げた人魚(楽器のはず)が龍を狙ったが、上手く回避されまさかのタクにヒットして一気に体力を散らした。
「…………あ」
バフ職である筈のスイの楽器が怒り狂い、楽器に着いている装飾品の壺をぶん投げる人魚のクリティカルヒットにスイは青ざめる。
まさかでしょ……とセラニーチェの笑いを含んだ呟きがスイに届く。
ニヨニヨと口が動き笑いを耐えているセラニーチェに釣られてリィンとクラーティアが吹き出した。
しかも、前衛にいるデオドールがフェニックスの爪をタクのおしりに刺した。おしりに刺した。
大事だからもう1回言う。おしりに刺した。
一斉に吹き出すフェアリーロード。
何故わざわざおしりに刺す必要があるのだと目を逸らすが、チラリと見ると立ち上がり哀愁を漂わせるタクとファーレンが同時に目に入る。
動く度に揺れる2人の爪。
「やめて!! ここの運営蘇生させて全滅させるつもりなの?! それが目的なの?!」
色々な要素が混ざり合い、この後全員あっさり死に戻りした。
「運営ぃぃぃぃいい!!」
「龍退治どころじゃない!! 待ってよ! 戦い以前の問題だわ!!」
「これっ!! 本当に抜けないっ!!」
「戦闘終わりも10分は爪刺さったままは継続か……」
「だれだよ! グレンのケツに爪刺したやつ!」
「……………………ふぃ」
「お前か! クラーティアァァァァァ!!」
フェアリーロードの半数以上に爪が刺さっている。
しかも、ほとんど狙っておしりに刺していて、女性陣は生き返らせないで!! と戦闘中に懇願するくらいの衝撃だ。
もう龍との戦闘ではなく、如何におしりに爪を刺すかの戦いに変わっていた。
刺されて起こされたのだ。刺し返さなくては気が収まらない。
因みに、ここで嘴は断固として使わなかった。
こうしてあっさりと龍にやられたフェアリーロードは街に死に戻りして、街にいる沢山のプレイヤーの目に晒された。
初めての蘇生と放送もされているし、使用箇所の注意もされていた。
それなのに、トップランカーの、おしりに、刺さる、フェニックスの爪!!
「………………死にたい」
「死んだら死に戻りするだけだって」
頭を力無く垂らすカガリの肩を叩くイズナ。
イズナの体に爪はないため清々しく笑うのだが後頭部に深々と刺さる爪を思い出すと少しも笑えないカガリ。
恨めしそうに舌打ちするが哀愁漂うグレンを見ると、あれよりはマシか……と視線を逸らした。
後頭部にぶっ刺されている爪の主張は激しいが、おしりに刺さっているよりは……と。
それを口にしたら、死んでないのにおしりに刺されそうだ。
「…………あれ、フェアリーロードだよな」
「どうしたあのシリは!!」
「おケツが! おケツが大変な事に!!」
死に戻りしたフェアリーロード達を、街にいるプレイヤーたちが見てザワついた。
遠巻きに見てはコソコソと話す人の数は多いのでイズナは居心地悪そうに体を揺らす。
「…………目立ってるじゃない」
「初蘇生クランって目立つ。刺し場所はおしり」
「ナズナやめなさい!」
咽び泣くタクをチラリと見たイズナは憐れみの眼差しを向けた。




