模擬戦申し込み
「じゃあ、実際にやってみましょうか」
「どこがいいか、強い敵……」
「模擬戦ルームも無いし」
ふむ……と考え込むカガリに、ナズナが呟く。
模擬戦ルームとは、他のゲームであったらしい戦闘練習の場所らしく、死亡にリスクが一切付かない代わりに経験値も貰えない、本当に戦いの為だけの部屋らしい。
カガリは今までのように簡単に倒せる敵ならあっという間に力技で押し切るだろうと思っている。
それなら、自分たちよりも強い敵じゃないといけない。
スイは考え込み、思わず口に出たのは意外な名前だった。
「……鬼ごっこにも出てるから、蟻さん強いんじゃないでしょうか」
ボツリと呟いた言葉を聞いて、全員がスイを見る。
「………………それよ! 蟻さんなら模擬戦付き合ってくれるんじゃない?! しかも強いから死んじゃう可能性もないでしょ?!…………ないわよね? 死んじゃってリポップとか、私悪夢見るわよ」
クリスティーナが手を叩いて言うが、蟻さんが死んでしまう未来を想像して首を振る。
だが、その想像よりも懐深い蟻さんは、許可してくれるだろうか。
「…………行くだけ行ってみるか」
「蟻さん探しですね〜」
グレンが頷き、クラーティアがワクワクしているが、リィンはソワソワしている。
「…………大丈夫でしょうか。私……蟻さんに攻撃出来る気がしません……」
「俺も……」
「あんた達は回復と盾なんだから攻撃しないでしょーが」
「………………はっ!!」
リィンとファーレンの要らない心配にセラニーチェが言うと、ハッ! と目を見開いたのだった。
蟻さんがいる場所は勿論わからない。
闇雲に探すしかないのでとにかく砂漠を歩いているが、会いたいと思うほど会えないもので。
「やっぱりセンサーかしら……」
「物欲センサー?」
「私、煩悩の塊よ?」
「自分で言っちゃうんだ」
蟻さんが来なくてうぅん……とうなり首を傾げるクリスティーナに、イズナが話しかける。
いつもは前の方でデオドール達と話す事が多いイズナがクリスティーナの隣にいる。
何となく、前にカガリやグレンにタク、セラニーチェやデオドールにイズナがいて、後ろにスイやクリスティーナ、リィンやファーレンがいる。
ナズナとクラーティア、アレイスターはいったりきたりだ。
それが、クリスティーナの隣にはイズナがいて、タクもいる。
逆に、スイは前にいてデオドールと話をしていた。
「蟻さんのグミって美味しいのかしら?」
「美味しいですよ、梨味は飴でもグミでもスペシャルみたいです」
「いいわねぇ」
うふふ……と笑うデオドールに梨味の飴をひと袋プレゼントすると、嬉しそうに笑った。
「グミ食べたいな」
「カガリさん、戦争ですか?」
「なんでだよ」
「グミは! あんまりないんですよ! 口の中で弾ける梨のみずみずしさ!……グミっていうか、もはや果物です」
グミが果物……と首を傾げるグレンに頷くスイ。
もはや意味のわからない会話にグレンは考えを放棄した時、待ちに待った蟻さんが現れた。
「蟻さん!!」
バッ! と腕を開いて走り出したスイを見送るカガリたち。
敵に突撃するのを見送るクランメンバーに、たまたま近くにいた別のクランが、えっ……呟いている。
「え……特攻した……あれ、フェアリーロードじゃ……」
「スイちゃんだよな、あれ…………えーー?! 敵に体当たりと見せかけて抱擁からの蟻登山?!」
「え……夢でも見てる?」
腕でゴシゴシと何度も擦っている4人の別クランは、夢かな……と呟いていた。
「蟻さーん!」
遠くに見える蟻型モンスターを見つけた。
蟻型モンスターは勿論蟻さん以外にもいるのだが、スイは確実に蟻さんを見抜いている。
「えいっ!!」
頭の上にピコン! とビックリマークが浮かんだ。
驚いたのだ、仕方ないだろう。
後ろ向きの巨大な蟻のおしり部分にしがみついたからだ。
「蟻さん蟻さん! やっと見つけた!」
「…………相変わらずあの子の蟻さんセンサーは凄まじいわよね」
あははは……と乾いた笑みを浮かべるセラニーチェが歩きだし、蟻さんの元に向かおうとすると、すでに両手を広げて走り出したリィン達が飛び出した。
「きゃん!!」
「リィンちぁぁぁあん!!」
砂地に足を取られて転んだリィンは、見事にスカートがめくれてカボチャパンツが丸見えになり、ファーレンの腕に着いていた熊が巨大化して背中にそっと寄り添いパンツを隠す。
「お約束すぎますよぉー!!」
あはははは!! とクラーティアが笑いながら写真を撮った。
「お願いがあるんだ」
「敵との模擬戦に付き合って欲しいの」
「強い敵との戦い方を学びたいんです!」
カガリ、セラニーチェが言い、スイが蟻さんから降りながら言った。
クリスティーナの隣に並び、じっと見ていると、他のクランの人達は目が飛び出でる程に驚いている。
「(敵に模擬戦申し込んでるー!!)」
並んでいるスイたちを見ている蟻さんは少し考えるような仕草をしてから足を動かした。
ぐっ!!
にゅん……と出てきた親指らしきものが立つ。
「(許可したーーー!!)」
そんな馬鹿な!! と口を開けて、ある意味凄まじい現場を見てしまったクランは、無意識に掲示板を開いていた。




