戦い方の教授 2
「ではでは、私から魔法使いのレクチャーですー」
クッキーをサクリと食べてから話しだしたクラーティアはピースをする。
「まずはですね、魔法使いには2種類の使い方があります。1つは1種類の属性を極めて高火力を出す。これについては敵の属性でフリにもなりますから、諸刃の剣ですねぇー。次は複数種類の魔法を覚えて戦う、大体はこっちですねぇ。それで武器なんですけども、杖と魔本がありますよー。杖はグレンが使ってますねぇ、魔術発動に時間がかかるけど高火力を1発ズドン! とする杖と、複数種類の魔法を重ねて新しい魔法を作り出す魔本です〜。魔本はロマンですよー」
ぐぇへっへっ……と笑うクラーティア。
なにやら邪な気配を感じるが、あえて何も言わないでおこう。
「ね、職種は勿論、武器の特性もあって面白いでしょ」
「はい、とても」
セラニーチェがニコニコしながら言うと、スイは何度も頷いた。
奏者だって補助特化の楽器や攻撃出来る楽器があるのだから、他の武器にもあるよね、と納得した。
「さて、ここからは奏者にとって大事な立ち回りのお話よ。奏者は唯一バフ、デバフが出来る職業だから他のプレイヤーの動きや敵のモーションも良く見ていないといけないの。サポートキャラ的には私たち僧侶と立ち位置は同じね」
ふむふむ……と頷く。
確かに、リィンやセラニーチェは戦闘の時、じっと動きを見逃さないように見つめている。
それは仲間の体力管理は勿論、状態異常の確認。
あとは、敵の大技のモーションを見極めて回復やバリアをタイミング良く試行する。
「…………敵のモーション」
「さっきの敵で言ったら、口を大きく開けて顎を引いた動作ですよ。その後すぐに口の中が光っていましたから、高火力の攻撃の可能性が高かったのです」
「大体敵の動きってパターン化してるのよ。個別で違いは勿論あるけど、この動きをしたらこうなるとか、こう来たら3連続こういう攻撃がくるとかね」
初耳な情報が盛り沢山である。
最初のエリアボスのクマから、スイは全て力技で倒してきたから、そんなパターン化されているとか夢にも思わなかった。
それをちゃんと理解して、サポートに徹するのはとても難しい。
それを当然のようにリィンとセラニーチェはしていたのか……とスイは目を見開いた。
「……そんな凄いこと……できる気がしません」
「んー、慣れよ」
「慣れ……」
「最初は私もセラさんも、難しくて仲間みんな死に戻り良くしてましたよ!」
「ボス戦倒せなくて30連敗とか余裕でしてましたよねぇ」
「色々してたのよ、装備変える、バリアのタイミングをずらす、誰が最初に攻撃するか。魔法は? 中距離のタイミングがズレたら死ぬ、開幕最初の全体攻撃で僧侶以外死ぬ、吹き飛ばされて死ぬ……もう、何回死んだかわかったもんじゃないわ」
「でも、その攻略が楽しいんですよね」
「Anotherfantasiaの敵は元々強くて、仲間と倒すコンセプトですから、みんな死んでは次はどうするって相談してねぇ」
「だから、その積み重ねなのよスイ。生憎私はソロだったからそこまで攻略に力は入れてなかったけど、これでもゲーマーだからね。楽しさは分かっちゃうんだなぁー」
うふふ、と笑ってスイの頬を指先でつついた。
そんなクリスティーナを見る。
薄いスカートから現れる筋肉質な足は無駄にムキッとしているが、それに合わない綺麗な顔に赤い三つ編みを垂らしたクリスティーナは小指を立てて紅茶を飲む。
顔だけ見たら美少女だ。顔だけ見たら。
筋肉によって巨大化されている腕の先にあるカップが小さく見える。
「…………私も、頑張れるかな」
「頑張れるかな、じゃなくて頑張っちゃうんでしょ? 楽しみながらね」
バチコーンとウインクをかましてきたクリスティーナにクラーティアが吹き出す。
セラニーチェが背中を摩りつつも、肩を震わせているからクリスティーナの破壊力は相変わらず凄まじいのだ。
「1回、2回ボスに挑んで失敗がなんだっていうのよ。私たちなんて数えきれない程に壁にぶつかってるわよ。敵のモーションも、仲間の魔法のクールタイムを測るのだって、すぐに出来るものじゃないんだから」
…………今、なんか凄いこと言った。
スイは、ギシギシときしむ様な動きでセラニーチェを見た。
「………………仲間のクールタイム?」
「そうですよ、敵の攻撃を見つつ、仲間の魔法のクールタイムを計算しながらタイミングを合わせるんです」
「え」
「スイはバフだからねぇ、私達より管理が大変よ」
セラニーチェがニヤニヤしながら言うのを聞いて、ヒッ! と喉がなる。
「私たちの回復と光属性の底上げは今後必ず必要になるからね、回復だったりの使用回数やクールタイムのカウントダウン、さらに魔法使用前のバフや、こっちからの高火力攻撃前に敵にデバフ……やる事は底なしよぉ」
「わ……私一人には……荷が重いです……」
「残念ながら、うちの奏者はスイだけなのよねー」
「ねー」
クリスティーナとセラニーチェが顔を合わせて仲良く同調している。
それはもう、心底楽しそうだ。
「これは数をこなすしかないですからね、スイさん頑張りましょう!」
サムズアップして言うリィンは可愛らしい笑顔をふりまいているが、言ってる内容はゴリゴリのスパルタである。
やりますよね! と背景にデカデカと出ていそうだ。
「………………は、はい」
全員の輝くような眼差しに、スイの地獄の練習が決定したのだった。




