ランダムボス
スイ達の上に現れたのはランダムボス。
フィールド内にランダムに現れるボスで、1グループで倒す場合もあれば、今回みたいにレイド戦の場合もある。
その場合は、戦闘開始までに時間の猶予があり仲間などを呼ぶ事が出来る。
戦闘には参加人数が決まっていて、その範囲内ならいくらでも呼んでいい。
「………………参加人数……200人」
「待機時間が10分って……」
「待ってください、今フレンドに…………」
全員が焦りだしそれぞれフレンドを呼び出したり、ランダムボス出現掲示板に書き込みをする。
だが、捕まる人数は少なかった。
このフィールド到達者がそれ程多くない為だ。
「なんでこんなタイミングで……せめて第2フィールド内だったらなんとでもなるのに……」
掲示板では、ランダムボス掲示板が騒がしくなっていた。
[まじか!! ランダムボスキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!]
[なぁぁぁぁい!! 第3のフィールドなぁぁぁぁい!!]
[すぐいく]
[いけね!!]
[行って死んでくる!]
[フェアリーロードの恩恵がぁぁぁ]
[ごめんなさい。ごめんなさい。保険代高杉ごめんなさい]
[え、なんか変なヤツいる?]
[すぐいくー]
[僕も行こうかな]
ずらららららら……と流れる掲示板を眺める。
その間もカウントダウンは刻一刻と減っていき、戦闘開始まであと6分弱。
集まるのかすら分からないボスを目の前に、スイはコクリと喉を鳴らして人魚さんハープを持ち直す。
全体バフを開幕で掛けたいから、出来たらスタートに出来るだけのプレイヤーが集まって欲しい。
まだ目を瞑っている人魚を見てから、自分のスキルを思い浮かべる。
何を優先して、どう動くか。
それも大事だが、なにより敵の行動パターンが分からないのが難点だ。
こういったランダムボスの場合は、エリアボスより強い傾向がある。
様々な発見報告はあるが、いまだに一体も討伐達成はされていない。
ランダムボス専門で回るプレイヤー達もいて、様々な角度から調べ上げているにもかかわらずだ。
「………………倒せると思うか?」
「今まで1体も討伐達成がされてないのよ、いきなり今日出来るとおもう?」
「思わねぇな」
「死に戻り久しぶり……」
カガリの軽口にセラニーチェがため息混じりに言い、ナズナが足をシュッシュッとしながらも死に戻り確定なことを言う。
中距離型の武器、クリスティーナと似てる武器を使用するナズナだが、クリスティーナより遥かに小さく手で持つ武器だ。
小柄なナズナには巨大な大砲のようだが。
「さて、あと3分……誰が来るか」
優雅に空を飛んでいる巨大なランダムボス。
それはまさかの芋虫だった。
下から見た芋虫は、緑と深緑のツートーンカラーでとても鮮やかだった。
空飛ぶ芋虫、君、地面が生息地ではないの?
カウントダウン 10……9……8……
「間に合った?!」
「やべっ!! はじまる!!」
「装備がー!」
バタバタと駆け込みでやってくるプレイヤーたち。
その人達はスイの知らない人達ばかりで、ぺこりと発見者であるフェアリーロードに頭を下げた。
まだ遠くに走ってきているプレイヤー達も見えて、スイは目を丸くした。
「おじゃましまーす!!」
「発見報告あざーす!!」
「ほらっ!! 早く走って!!」
「ひぃー!! デブにはつらぁぁい」
騒がしく武器を構えるプレイヤー達を見て、スイは、はは……と笑う。
ゲームを始めてつくづく思う。
本当にゲームが好きなんだ、ここの住人は。
掲示板1つで沢山の人が集まるくらいに。
リアルと上手く付き合いゲームを楽しむ人や、元彼である宏のような廃人ゲーマーもいる。
そんな人たちがのめり込むほどのゲーム。
最初は苦痛でしかなかった。ゲームなんて、なんでそればかり、なにがいいの?
だけど、この美しいグラフィックに非現実的な世界観。そして自由に動く腕、手、指先。
こんなに素晴らしいものはないと、今なら素直に思える。
あれだけ怒って怒鳴りつけた、あの時の私を否定するみたいだけど、素直にこの世界は素晴らしいと思う。
勿論、あの時付き合っていた時に素直にゲームをしていたら……そんなタラレバも考えた事が無いわけじゃないけれど。でも。
「はじまるぞ、スイ、開幕バフ頼むな」
「はい! カガリさん!!」
あの時、ゲームをしなかったから。
その後にゲームを始めたから。
些細なタイミングで、今がある。この今が、スイは楽しくて仕方ないのだ。
ランダムボス…………スタート!!
「鳴らします!!」
ふわりと風が吹く。
髪が浮き、顔にかかるのも構わずに指を弾いた。
カッ! と戦闘モードになった人魚さんが目を見開き、周りに泡が浮かぶ。
開幕と同時に防御、攻撃、スピードアップのバフを全体に掛けた。
イルカさんよりも小さく、だが重いこのハープが今後の相棒。
スイはくいっと口の端を持ち上げて挑戦的に笑う。
「楽しそうですねぇ、スイさん。いやらしい顔をしてますよぉー?」
「ぶふっ……いやらしくないですよ! クラーティアさん言い方!!」
「…………来るぞ」
クラーティアの言葉に反応して一瞬目を離した隙にゴロゴロと芋虫が地面に降りてきて凄まじい勢いで転がってくる。
「うわっ!! 全体攻撃?!」
「ありがとうございますー」
「いーえ!!」
バフにステータス値が上昇すると、ちょうど落ちてきた芋虫が旋回するように回り出す。
カガリ率いる盾が抑えるが、結局吹き飛ばされた。
残るプレイヤーは、その数秒間で飛んだり潜ったり、必死に走ったりと芋虫を回避する。
「うわっ、盾が5人とはいえ、簡単に弾かれた」
怒りでクマさんがプルプルしている。
ゴロゴロと転がる芋虫はピタリと止まり、ぐにゅんぐにゅんと体をくねらせてにじり寄ってきた。
どうやら動くスピードはそれ程早くは無いようだ。
「………………今の人数25人、か。これは、5分保てばいい所だな」
吹き飛ばされたカガリは起き上がり呟いた。
5人いた盾の1人は最初の一撃で死に戻りしたようだ。
他にも前衛1名、後衛2名が既に死に戻りしている。
バッタンバッタンとジャンプして地面に体をぶつけている芋虫の目はつぶらな瞳なのに、なぜか腹が立つ顔をしている。
「…………なぁんか、あの顔目掛けてクリスティーナちゃんの武器をめり込ませたくなっちゃう」
「筋肉?」
「武器って言ってんでしょ!!」
「「「ぶふぉ」」」
スイ、クリスティーナのリアフレコンビの会話をたまたま聞いてしまったプレイヤーは吹き出した。
笑われたじゃない!! んもぅ!! と言いながらも武器を放つクリスティーナの豪快さに思わず笑った。




