砂漠のサボテン
うーん……と見つめる掲示板。
様々な内容が行き来していて、それに目を走らせる。
「…………ドラゴンのドの字も出ないわね」
「タク……隠してない? 」
「なぁんで俺が隠すのよ?! 」
ナズナの無茶ぶりに返事を返すタクを見てから、ある掲示板を見る。
それは、この第3の街で新しく解放された場所。
そう、あの穢れた龍を倒した時に解放された天空庭園だ。
まだ誰も到達していないフィールドには、勿論目撃情報などなくて。
新しいクエストの採取がまさかのドラゴンだ。
ここに居る可能性は十分にある。
だが、あえてそれをスルーしたスイ。
一応龍を倒したからといって、それをクリアしているのはスイとクリスティーナ、ファーレンだけだ。
リィンは死に戻りしてクリアしてないうえに、ほかのメンバーも当然倒してない。
空中庭園に行くには、またあのドラゴンとの戦闘をする事になる。
むしろあれは龍だ。ドラゴンの肉、もしかしてあいつでもいい?よくないか。
ふむ……とちらりとクリスティーナを見ると、クリスティーナも考えていたのだろう。
だが、絶対口に出さないマンだと口元にバッテンマークを指で作る。
ファーレンも頷き、リィンは困惑しながらも頷いた。
「良し、とりあえずは獣人の村方面に行きますか」
掲示板にも有力な情報はなく、とりあえず歩こうとなった。
ホワイティに聞くのも有りだが、立て続けであり、内容によって料金が変わるらしいので最終手段とした。
まずは地道に足で探そうと歩き出したのだった。
「強い敵に出くわしたらタクを盾にする」
「ナズナちゃぁぁぁぁん?! 」
力強く頷いたナズナに慌てるが、そんな守る為の戦闘も実は好きだったりするタク。
そうなったらナズナ達を背に必死に剣を振るう事をナズナもわかっているからこその軽口だ。
「あら、じゃあアタシも守ってもらおうかしら」
「アレイスター、一緒に後ろにいよう」
「いや、お前なら一撃必殺……」
「タクさぁぁぁぁん! 私もお ね が い !! か弱いからぁぁぁん」
上半身から腕、肘、腰、膝、足首まで全てクネクネと動かしアピールなのだろうか、近付いて来る筋肉ムキムキ人魚に激しい恐怖を覚える。
バッドステータス恐怖、混乱
「…………なんでナチュラルにバッドステータス付けれるのよ」
「あぁん!! タクさぁぁぁん!! 」
クネクネしているクリスティーナに、スイは引き攣り隣にいるクラーティアの目を塞いだ。
「ふぉ?! 私はクラーティアですよぉ?! リィンちゃんじゃないんですからねー?! 」
こうして次の目的地を獣人の村にしたスイ達は、またあの疫病によって半壊した場所へと向かっている。
ゲームではあるが、1日寝たら街や村が元に戻るという訳じゃないので、きっと今も復旧作業中なのだろう。
「なるほど、だいぶ砂漠が広がってるな」
「カガリさんは初めてでした?」
「ああ、ゲームで砂漠か。貴重な体験だな」
ざりっ……と砂地を踏みしめるカガリのすぐ後ろにはファーレンが、あちぃ……と服をパタパタしている。
そのチラリと見えたインナーは、あのインナーであった。
「………………あ、オレっちシリーズ」
「っ!! 見んなよ!!」
親指を立てて、今日のオレっちセクシーなんだ、目が潰れちゃいそうだろ? と目をキラキラさせて言っている。
勿論、周りにはハートを飛ばしている女性たちが居るのだが、今回は年齢層が高めだった。
「…………好きなんだね、気に入ったんだね」
「ちがっ……違う!!」
ブンブンと首を横に振るファーレンをくふくふと笑って見た。
いいね、お気に入り大事。
本人は拒否しているが。
「良し、じゃあ行くか。まずは……」
獣人の村に……そう言おうとしたカガリが見たものは、砂漠に現れる敵だった。
赤チェックのレジャーシートを敷いて、その上に柔らかな生地の布を敷き座っているのは、手足があるサボテンだった。
可愛らしい麦わら帽子にはピンクの花が着いているが、サボテンの棘が帽子を突き抜けている。
そして、レジャーシートには空になった日焼け止めが10個は転がっていて、今別の日焼け止めを棘だらけの体に塗りたくっていた。
「……………………サボテン」
「美意識高めね……」
ポカンと口を開けているカガリの隣には無表情でセラニーチェが見ている。
あれだけ塗っているのに全く美白になっていないサボテンに、デオドールが一言。
「サボテンにいるかしらぁ?」
それは聞こえていたらしい。
地獄耳なサボテンは、キェーー!! と叫び、日焼け止めを投げてきた。
「おわぁ!! デオドール!! 聞こえてるじゃねーか!!」
「あらあら、怒っちゃたわ。困っちゃうわねぇ」
「困ってねぇだろ!!」
使い切った日焼け止めも投げるが、距離があるのに豪速球で遠投してくる。
しかも、獣人サイズなのだろうか、スイの半分くらいの巨大サイズで、ぶつかったタクが吹き飛んでいた。
「きゃぁ!! タクさん!!」
杖を振り上げ回復するリィンに向かって飛んでくる日焼け止め。
クリスティーナがまさかの体当たりで守ると、ぶつかられたリィンは、日焼け止め被弾よりもダメージを食らっていた。
「いや! 本末転倒!!」
「あっはっはっはっはっは!! やめてくださいよぉ!! 笑ってお腹痛いじゃないですかぁ!!」
クラーティアが風魔法を使って投げ飛ばされる日焼け止めを受け止めている間にグレンの巨大な火の玉がまっすぐ向かっていった。
サボテンも植物なのだ。効果抜群である。
断末魔の悲鳴をあげて燃え上がるサボテンを見つめてカガリがちらりとスイやクリスティーナを見る。
「…………砂漠は、こんな感じか」
「どこのフィールドもこんな感じじゃないですか」
「まぁ……そうだな」
こっちでもかぁ……と呟いたカガリにクリスティーナがニヤニヤしながら、好きなくせに! と身体をくねらせてダメージが無かったはずの体力を減らした。




