畔の魔女の採取クエスト 6
「……凄い」
グレンが林檎をぐるりと回したことによって、林檎から柔らかな暖かい風が吹きスイの頬を撫でた。
髪がふわりと揺れて後ろに流れていくのを片手で抑えると、林檎の輝きが風に乗って周りを輝かせ、森の木々がザワリザワリと葉を揺らす。
林檎の輝きは木に宿り葉が煌めき、その煌めきが集まって虹色の橋が湖の上に掛けられた。
ほう……っとあまりにも美しい情景に息を吐き出した時、離れている筈なのにキィ……と蝶番の擦れた音が聞こえ全員が振り返ると、小柄な人影が家の前に佇んでいた。
「…………ようこそ、ルージュのアトリエへ」
「……いや、ゲーム違いな名前だな」
小さく響いた声はまだ幼い子供の声だった。
あまりにもな名前にカガリが思わず突っ込むがルージュは可愛らしく首を傾げるだけ。
「どうぞこちらにいらしてください」
手ですっ……と促されスイはクリスティーナと顔を見合わせてからカガリを見ると、行くぞと声を掛けられ虹色の橋を渡った。
「わ……変わった感触」
橋は所謂アーチ橋と呼ばれる弓なりの形をしていて手すりは無い。
虹色に輝く橋の輪郭はぼやけていて空に浮かぶ雲が虹色に煌めき橋を形作っているようだった。
片足を乗せると、ふわりとした、それでいて足底がしっかりと吸い付くような不思議な感覚がする。
見た目的にバランスがとりにくそうなのに、体が揺れることなくしっかりと歩けている。
「……綺麗」
橋から見るこの森や湖はあまりに煌めかしく輝き居なかったはずの白鳥や水鳥が優雅に泳いでいて、見た事のない生き物が森で生活をしている。
「な、なに? いなかったよね!?」
クリスティーナが目を見開き言うと、スイも無言で何度も頷く。
あまりにも幻想的な情景に今更ながらにゲームのパッケージのイラストを思い出した。
幻想郷は、本当にあったんだ……
ゲームの中の自由度や、予想外な出来事や敵の出現にハラハラドキドキしていたスイだが、このゲームの最大の特徴がこの自然豊かな幻想世界である事を本当に今更ながら思い出す。
「…………さぁ、こちらに」
呆然と見入っていたのはスイだけではなくて、全員が森や湖の見知らぬ生き物達を見ていた時、痺れを切らしたかのような少女の声にハッとして振り向いた。
「あ……あぁ」
声をうわずりながらも返事をしたカガリは、チラチラと森を見ながらもルージュが佇む場所へと歩いていき、勿論スイ達も後に続く。
ルージュに促されて入った家は見た目通りの大きさだった。
平屋の少し大きな一軒家で少し古めかしい。
使い込んだ家具や日用品が行き届いた掃除によって古臭くは感じずアンティーク感を醸し出している。
そして何より、部屋の壁側一面に設置された巨大な台所に人間がゆうに5人は入るであろう艶の消された黒い大釜が存在感を出していた。
「………………いらっしゃい、君たちは依頼に来た? それとも依頼を受けてくれる人?」
カタン、と椅子に座ってじっと見つめるルージュにカガリは口を開く。
「ギルドから依頼を受けた。詳しくは実際に聞いてくれと」
「……あぁ! 君たちがあの依頼を見てくれたのか!! ありがとう、私はルージュというんだ。ちょっとした採取依頼なんだけど…………そうだね、君たちなら僕の依頼を頼んでもよさそうだ」
どこか機械めいた定型文を言っているような錯覚を感じるルージュの言葉にスイは首を傾げてクリスティーナを見るが、クリスティーナはあまり気にしていないのか黙ってルージュを見ていた。
「僕が君たちに頼みたいのはある薬を作るための材料採取なんだ。普通なら僕が自分で取りに行くべきなんだけど、諸事情により此処を離れられないんだ。だから、君たちに素材採取を頼みたい」
「…………報酬は本当にこれでいいのか?」
「報酬依頼の事かい? 勿論だよ! もっと上乗せしてもいいくらいさ!……そうだね、素材の鮮度や状態によっては報酬上乗せをするから頑張ってくれよ!」
両手を胸の前でパチンと叩いたルージュにグレンは眉をひそめてるが、クラーティアは目をキラキラとさせていた。
いい仕事じゃないですかぁー? とニヤニヤしてセラニーチェを肘でつついていると、やめなさいって……と後ろにいるイズナによって窘められている。
能天気に喜ぶクラーティアとは反対にグレンは眉をひそめたままルージュを見ていた。




