畔の魔女の採取クエスト 5
「まず、先に道順を教えるわね、それから船の情報を買うか決めた方がいいわよ」
「たのむ」
「頼まれました! えっとね、あの湖を渡るには3つの道順を踏む必要があるの」
1つ、最初の位置は入口の正面から時計回りに2周歩く。
2つ、そこに現れる金色の林檎がついた小枝を右手に持つ
3つ、3回大きく小枝で円を描くと白い橋が出来る。
「………………船はいらない?」
「まぁ、いらないわねぇ」
「…………船の情報を後にしてくれてありがとう」
「必要な情報を必要な時に、ね! 船情報はまた必要になった時にしましょ」
小指を立てて紅茶を飲むホワイティはにっこりと笑って言った。
「もし知らなかったら……」
「頑張ってもルージュの所にはたどり着けないわね」
「わ……わぁ、ホワイティさんに会えて良かった」
「あら可愛い事言ってくれるのね、お名前は?」
「スイです」
「スイちゃんね、この出会いにプレゼントあげちゃおうかしら」
うふふ、と笑って奥の部屋に行くホワイティを見送ると、クラーティアはスイを見た。
「……スイちゃんは好かれやすいですねぇ……」
「本当よね……なんというか、特殊趣味な人に」
イズナも言いづらそうに、だがしっかりハッキリと言うと全員の視線はクリスティーナに向いた。
「…………え!? 私!? 私はただのか弱い女子よ! 嫌だァ、特殊趣味じゃないわよ!?」
ムキムキの腕をギュッと寄せて頬を包むように両手を添えると、鍛え抜かれたお胸もギュッとした。
ぐふっ! と数人の吹き出した声が聞こえたが、既に仕様なのだ、諦めてもらうほかないだろうとスイは視線を離したのだった。
新たに手に入れた情報を元に、戻ってきたスイたちは、カガリを先頭に全員が時計回りに2周すると、キラキラと輝く大ぶりの金の林檎が突如現れた。
その林檎にはか細く折れてしまいそうな細い枝が付いていて、カガリは恐る恐る持ち上げると、ズッシリとした質量が手にかかった。
折れそうな小枝は林檎の重さにぎしりとしなり今にも折れそうである。
そんな林檎を持っているカガリごくりと生唾を飲み込んだ。
あまりにも甘く芳しい香りが金の林檎から放たれているのだ。
周囲に立ち込める林檎の甘酸っぱい香りに全員が食べたい……と見つめていると、アレイスターがすぐさま林檎をカガリから取り上げた。
「あ……危ないわ、みんな目が飢えた獣みたいよ!?」
「…………それは、タルトタタンにすればいいと思います」
「ほら! スイちゃん! プレゼントを食べたらいいんじゃなぁい!?」
スイのスカートのポケットに入れられた梨味のグミを無理やり引っ張り出したアレイスターは袋を開けて小分けされている小袋をひとつ開けた。
すぐさまスイの口に入れてモグモグさせると、蕩けるように目を細めてサワサワと風に揺れる背の高い草原に倒れ込んだ。
「あぁぁぁ……蟻さんに会いたいぃぃぃ」
なんとホワイティがくれたのは、あの素敵な蟻さんが所有するスペシャルな梨味のグミ版だった。
新しくシステムが更新されたことにより飴だけでなくグミもくれる素敵な蟻さんとなったスイたちの心の友。
そんな蟻さんから貰ったという新作のグミをホワイティは持っていたのだ。
蟻さんから貰えるスペシャルな味のグミと聞かされたスイは両手で掲げるように持ったまま、まるで溶けるようにホワイティの家で倒れ込んだ。
そんなスイの周りにいち早く集まったクリスティーナ、リィンそれにファーレンはスイを心配していると見せかけてハンターの目つきでそのグミを凝視しているのを幸いなことにスイは気付いていなかった。
「…………ああぁぁぁぁ美味しい、蕩けるぅぅぅ」
「ス……スイ、お願い1個……1個だけ……」
「スイさん……お願いします……ください、スイさん……」
「頼むって、なぁ、くれよおぉぉ」
ワサワサと集まりスイを揺さぶる3人はまるで禁断症状が出ているようだ。
そんな3人にいつもなら優しく分けるスイが胸にしっかり掻き抱いて首を横に振る姿に3人は絶望した。
「ああぁぁぁぁ…………そんなぁぁぁ」
「裏切り者ですぅぅう」
「スイのばかぁぁぁぁ」
四つん這いで地面を叩く3人の異様な様子にグミを差し出したアレイスターは頬を引き攣りながら見守ると、グレンがカガリから奪い取った林檎で宙に大きく円を描いたのだった。




