クランハウスのある日の掃除 2
「2ヶ月に1回街が沈むくらいの雨が降る日、ねぇ」
クリスティーナがNPCの女性に聞いた内容をカガリに伝えると、カガリはベチャベチャになった食堂を見回しながら呟く。
その雨が入った惨状がこれなんだな、と頭をかきながら俯いた。
「雨黙りの日は必ず施錠しないと室内に雨が入ってくるみたいよ」
「あー、じゃあVIPルームに泊まってたプレイヤーが窓を開けたって事か」
「多分そうだと思う」
二人は顔を見合せ深いため息を吐き出した。
クリスティーナは自分のお城なキッチンがボロボロにされた事に深い悲しみに陥っているし、カガリはクランハウスの再生をどうしようか迷っている。
「……まぁ、なぁにこれ」
キィ……と音がなり玄関から声が聞こえてきた。
2人は振り向くとスイとリィン、アレイスターが呆然と室内を見ている。
今までの綺麗なクランハウスは見る影もない。
「……はっ! ハーヴェイさんは!?」
「あ、そういや見てねぇ」
「ぎゃー! ハーヴェイさんどこですかー!?」
スイは顔色を変えてびちゃびちゃと音を立てながら走り去っていく。そのスピードは早くリィンは気付いたら走り去られた……と脱力した。
「……行ってしまいました」
悲しみに暮れながら椅子に座ろうとしたが、その椅子も濡れている為座れない。
そっと隣に来たクリスティーナが貝殻を出してあげると、魅惑のクッションに誘われるようにポフリと倒れ込んだ。
貝殻に入り込みしくしくと泣くリィンはただただ可愛らしくカガリは「……お、おぉ」と呟いていた。
「……酷い目にあった」
「誰ですか、鍵を開けたヤツゥゥ……タダじゃすませません」
ガチャリと扉が開き続々とやってくるクランメンバー達。
カガリとアレイスターは振り返りグレンを先頭に入ってきた仲間達を見た。
「……あ、カガリ」
「……どうしたんだ、お前ら」
「死に戻りしたの! 施錠しなさいってアナウンスかかって私達も各部屋全部確認したのに! まさかその後誰か宿泊客が窓開けたみたいでね! それでこの状況よ!! たまったもんじゃないわ!」
「…………許すまじ」
セラニーチェが叫ぶように言い、仄暗い笑みを浮かべたナズナが足をシュッシュッと動かしている。
ストッパーのイズナも今日は止めようとはせず、むしろナズナと良く似た仄暗い笑みを浮かべているではないか。
「酷い有様よね、どうすんのよ、これ」
イズナが食堂内を見ながら言うと、クラーティアが深くため息を吐き出した。
「……クリーンが効きませんよー」
「……やっかいだな」
クリーンひとつでお掃除簡単なはずなのに、誰がやっても水浸しのまま様子は変わらなかった。
「…………まさか、全部買い替え……?」
タクの恐ろしい一言に全員がブルリ……と身体を震わせた。
そんな事ってある……? と顔を見合わせるクランメンバー達。
「……あ、街の人に聞いてみるのはどうかしらぁ?」
珍しく青い顔で言うデオドールに、俺聞いてくる! と飛び出して行ったタク。
「……これじゃ休むことも出来ないですー」
濡れた椅子を見て悲しそうに呟くクラーティアに全員項垂れた。
「……ハーヴェイさんどこ行っちゃったんですかね」
はぁ、と息を吐き出したスイが戻って来た。
泣き崩れているリィンに目を丸くし、グレン達が帰ってきている事に表情を明るくしたりと、表情をコロコロ変えるスイ。
パタパタとグレンの所まで走りより腕を軽く掴む。
「グレンさん、これどうしたんでしょう?」
あの時話していたのはグレンだったから、クランハウスにグレンがいたのをちゃんと覚えていたスイ。
心配そうにグレンを見上げて言うスイに、グレンはワシャリと1回だけ頭を撫でた。
「……3階にいた宿泊客が、窓を開けたんだろう」
「……えぇ、雨入ってきたんですか」
リィンとアレイスターと逃げ延びたスイは、あの波のような勢いで押し寄せる水を身近に感じたばかり。
あの押し流される恐怖は未だに覚えてるし、避難した建物から見た外の様子や、雨黙りの魔物を思い出し顔を真っ青にさせる。
ガシッとスイがグレンの腰に抱き着き、全員がお? とスイを見る。
直ぐに聞こえるセクハラですか? のアラームを解除したグレンはスイを見下ろすと、背中の服が皺になるほど握りしめていた。
「……どうしたんだ?」
「だ、大丈夫でしたか!? 波のように来る雨? 水? もヤバかったですけど、魔物もいたし、ヤバい生物もいっぱいいたし、グレンさん、食べられたりかじられたり舐め回されたりしませんでしたかぁ!?」
しがみつき荒ぶって聞いてきたスイに押され、グレンはなんとかスイの肩に手を置いて止めようとするが、あまり効果は無いようだ。
「だ、大丈夫……ではないが、まぁ大丈夫だ。死に戻りはしたが」
「し! 死に戻り!!…………雨黙りの日、なんて日なんだ……」
ひぃ! と震えあがり更にしがみつくスイにグレンは遠い目をし、それを見ていたリィンは声もなく泣き崩れアレイスターはリィンをあらあら、と見ている。
クラーティアはスイとグレンをカシャカシャとスクショを撮りまくり、「男女もまたよし!」とヨダレを垂らしながらうへへへと笑っている。
「おまたせー、聞いてきたよーーーー!?」
静かに入ってきたタクは、2人が抱き合っているように見え、驚きに叫び仄暗い笑みを湛えている双子が静かに近づいて行った。




