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Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷  作者: くみたろう
第3章 温泉と食料と疫病
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クランハウスのある日の掃除 1


 第3の街であるホワイトライスケーキに着いたプレイヤーにとって、いや、このゲームをしている全プレイヤーにとって初めての雨黙りの日が終わった翌日。

 街はとても綺麗でいつものフィールドと特段変わりは無い。

 だが、それも街のフィールドだけで個人使用のハウスや街、また宿泊している宿などでは悲惨な惨状になっているのも少なくなかった。


 ここ、フェアリーロードのクランハウスである宿泊お宿フェアリーガーデンもだった。

 室内は酷い状態で、その中で立ち尽くすカガリに泣き崩れているクリスティーナ。


「いや、なんだこれ」


 数日間リアルで忙しかったクランリーダーであるカガリは久しぶりのゲームにワクワクしていた。

 いつもよりもすこし張り切った声でゲートオープン! と言ったあと刈り取られた意識はカガリとなって目を開ける。

 じっとりと濡れている自室のベッドの上で。


 呆然と呟いたのも仕方ないだろう、自分好みに飾られた自室はまるで台風が来たかのようにぐちゃぐちゃになって全てが濡れているのだ。

 それも、1度浴槽に沈めたような濡れ塩梅である。

 慌てて部屋から出たのだが、廊下も同じく水浸しである。

 混乱して右往左往していると、下からすすり泣く声が聞こえ驚きと恐怖で飛び上がった。

 ソロリと吹き抜けの廊下から下を見ると、厨房付近で貝殻に入り泣き崩れているクリスティーナを発見する。

 他には誰もいないようだ。


 だれか! 今のクリスティーナと2人っきりにしないでくれ!


 切実な望みを抱えたまま、カガリは苦渋の選択をしたような面持ちで1階に降りていった。


「…………あー、クリスティーナこれは一体……」


『カガリさぁぁん!?』


 両手で顔を覆いサメザメと泣いていたクリスティーナはパッと顔を上げてカガリを見た。

 貝殻に入り足を崩して泣くクリスティーナは、ふかふかの真珠色のクッションに片手を置いたまま、よよよ……と泣く姿は美少女がやると様になるだろうが、やっているのは筋肉ムキムキのクリスティーナである。

 確かに顔は可愛い。可愛いからこそムキムキのギャップが激しすぎるのだ。

 しかも、今日に限っていつもしない高い位置で結ぶツインテールなのだ。その爆発的威力も激しい。


『カガリさぁん! これ! 見てください! こんなの酷いよねー!?』


 右手でカガリの服の袖を握り厨房の中を指さすが、やはりそこも水浸しで使えるだろうか……とカガリはその惨状を眺めた。


「……これ、なにがあったんだ?」


『私もよくわからないの。昨日インした時は何ともなかったんだけど、1階に降りようとしたら三階の客室……だとおもうのだけど。そこから大量の水が入ってきて流されたのよ。私は咄嗟に貝殻に入ったから大丈夫だっんだけどね?』


「……三階客室から水……?」


 2人で三階を見るがシン……と静まり返ったクランハウスがあるだけだった。

 幸いなのはわんこやにゃんこたちがずぶ濡れでペッショリしてはいるがみんな居る事だろう。


「……見に行ってみるか」


「あ、あたしも行く!」


 カガリが2階に行くと歩き出し、慌てて貝殻から出てきたクリスティーナも着いて行った。

 ベチャベチャに濡れている階段を登る、バシャバシャと1歩1歩歩く度に音がなりグシュリと靴の中にも少しずつ滲んできていた。


「……インした時に水が三階からきてたっていってたよな」


「あ、うん。もう津波みたいだったよ。ざーっと、ガーッと!」


 両手で上から下にウェーブして水を表現するクリスティーナに頷く。

 三階についてから1箇所1箇所部屋を開けて中を確認するが、水浸しの状態だが変わりはなかった。

 そして、一番端の部屋を開け中に入ったカガリはピタリと足を止める。


「……ここだな」


「……あらぁ、なにこれ」


 三階に用意されたVIPルームの窓が開いていて、そこから水が入ったのだろう。

 窓は水圧で弾け飛び壁にはヒビが入っていて家具が水に流されて壁にぶつかっている。

 他の続き部屋やトイレ、バスルームも水浸しで、寝室に続く扉は開いていたのかリビングにあった家具が流されていた。


「……どうやったらこんなんなるんだ?」


 あんまりな様子にため息を吐き出したカガリを心配そうに見るクリスティーナ。


「……片付け、よね?」


「……だなぁ」


 はぁぁぁ……と息を吐き出したカガリに、クリスティーナもキッチン全滅してたの……と悲しそうに呟いた。

 しょんぼりしているクリスティーナにカガリもいたたまれなくなり、肩を軽く叩いてやった。


「……カガリさん優しい……」


 ポッと頬を赤らめてクネクネし始めたクリスティーナに引き攣った笑みを浮かべたカガリが、とりあえず1階に行くぞ、と下に促す。


「ちょっと外見てみるわ。気が動転してて外の確認してなかったのよね」


 クリスティーナがカガリにそう言ってからパタパタと玄関を勢いよく開けると、外は晴れ渡った青空が広がり、NPCやプレイヤーはいつもと変わらず歩いていたり買い物したり。

 普段通りの様子にクリスティーナは、あら? と首を傾げると、紙袋を抱えた肩までの髪をリボンで編み込んでいる女性がピタリと足を止めてクリスティーナを見た。

 NPCだわ、とクリスティーナが思った時、近付いてきた女性がヒョイとフェアリーガーデンの中をのぞく。


「……あらぁ、施錠間に合わなかったの? 宿と、わぁ、キッチンもあるのかー。これは修復が大変だね」


「施錠? ねぇ、これってどうなってるの?」


「え? あれ? 昨日は雨黙りの日だって知らせがあったでしょ?」


 首を傾げて言う女性にクリスティーナは、あら? これってなんかのイベント……? と同じように首を傾げたのだった。

 









 

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