スイの特訓
朝起きて、翠はカーテンを勢いよく開けた。
澄み切った空はAnotherfantasiaのあの空と同じで目を細める。
朝の支度、朝食などを取り翠は一息ついたあと、さっそくAnotherfantasiaの世界へと旅立つことにする。
伸びをひとつして、意識はゆっくりと落ちていった。
意識が浮上して閉じた瞼に光が感じられ薄く目を開けた。
眩しさに目を細めながらも、変わらない噴水広場にざわめく人々の声を聞き、空には青空が広がっているのを眺める。
相変わらずふるりと形の良い胸が揺れて、それをプレイヤー達が見つめるのに気付いたスイは、
やっぱり盛りすぎたか……と思いながらも現実では無い大きな胸に満足しつつ、露店へと足を向けるのだった。
空腹ゲージは黄色へと変わっていた。
このまま動くにはリスキーすぎる、幸い楽器にお金がかかっていない為金額に問題は無い。
焼き鳥を数本注文し、受け取った後飲み物を頼む。
緑のお茶の色をしているが味はりんごジュースだった。
思わずガン見しちゃう。
「見た目と味が違う」
衝撃を受けながらも、合わないジュースを仕方なく飲み、焼き鳥とりんごジュースをお腹に送り込んだスイの満腹ゲージはオールグリーン。
ゲージを確認したスイは満足そうにペタンコのお腹を撫でてから立ち上がった。
目指すは初心者の森。
「……ついた」
初心者の森入口。
森の入口には街の安全をはかるため、金網が引かれて護衛が立っている。
気をつけていけよ、と言う護衛の声に返事を返してスイは森へと進む。
森の入口は散策に適した作りになっていて、上を見上げれば木の葉の隙間からこぼれる木漏れ日が暖かく体を照らしていた。
「……お散歩日和、なんだけどねー」
スイが呟いた先には、あの時やられたのと同じ種族のモンスター
そう、ウサギがいるのだ。
まだこちらには気づいていない。
バクバクする心臓に落ち着け、落ち着けと言い聞かせてスイは音を立てないように楽器を取り出し装備する。
自分とあまり変わらない大きさのハープを両手にしっかりと握った瞬間、ウサギはスイに気づいた。
ピコンと耳を立ち上げてスイを見るウサギは一瞬でスイに向かって前にジャンプ！
相変わらずそのスピード、威力は凄まじく、スイは歯を食いしばってハープをフルスイングした。
しっかりとしたイルカの本体をウサギの小さな体に叩きつける。
鳴き声だろうか？ キュアと声が聞こえて血をまき散らしながらウサギは飛ばされた。
白い体が赤く染まり、ゲージは急速に減っていく。
ゲージの赤すらも無くなりグレーダウンしたウサギは結晶が砕けたように姿が無くなり、残ったのは小さな白い袋だけ。
「や、やったの……？」
はぁはぁと息を荒らげながらスイは近づき白い袋を取る。
すぐに袋は消えて残ったのはうさぎの皮と表示されてる艶々の皮だった。
スイはそれをストレージに押し込み、楽器を強く握りしめて歩き出す。
「ひと振りで、死んじゃうのか……」
自分がやられたウサギがあっけなく消えた姿はスイにとって衝撃な出来事だった。
しかし、これはスイにとってゲームで初めて敵を倒した瞬間である。
ムクムクと膨れ上がる喜びに手を握りしめ、確かな実感を感じていた。
「……ぃッやっあぁぁぁぁぁ！！！」
