雨黙りの日 3
「……あれ、私たち以外にも街にいる人が居ます」
リィンが小道を見つめながら言うと、慌てて走る2人組を見つけた。
見た感じ知り合いではなさそうだが、その必死な様子に3人は首を傾げる。
「……どうしたのかしら」
真っ青な顔をしたその2人組は、まっすぐスイ達の方に走ってきていて、その2組もスイ達を目視した。
パっ! と目を輝かせたそのうちの1人は走りながら叫んでいる。
しかし、雨音で遮られ何を言っているか分からない。
首を傾げていると、2人組の後ろに何やら影のようなものがゆらりと動いているのが見えた。
「なにかしら」
「わからないけど、なんかあっちから……水が押し寄せてきてません……?」
黒い影の後ろから波のように水が押し寄せてきている。
近づく度に揺れ動いていた黒い影は、少しづつ形が見えてくる。
ずんぐりとした丸いフォルムの上に何か広がっている物があり、それをしっかり見る前に、スイは2人の手を掴んで反対方向に走り出した。
「ヤバいです! シェルターには水が腰に来る前に入れと言われたから、あの水の波は致死量じゃないですか!?」
「津波警報が出てもおかしくないです!!」
何故か押し寄せてくる足元に広がる水と違いキラキラとしている。
あれが祝福というものなのかもしれないが、あの水に潜って24時間泳ぐのは無理というものだ。
走り出したのはいいが、膝まである水の抵抗が走る邪魔をする。
「きゃあ!」
水に足を取られてザブン! と転ぶリィンをスイは慌てて引き上げ子供を抱っこするように片手にリィンを抱き上げ、片手でアレイスターの手をしっかり握りさらに走る。
「ス……スイさん……」
真っ赤な顔のリィンが両手で顔を隠すと、しっかり掴まって! と怒られ、はい! と声を上げた。
キュッと肩に手を回してそのまま真っ赤な顔を俯かせるリィンの乙女度合いが爆上がりした時だった。
「わぁぁ!!」
「きゃあ!!」
「ひゃぁ!!」
押し寄せる水に体が流された。
水かさが増えて後ろにひっくり返る様に倒れたのだ。
しかし、この時根性でリィンをそのまま抱き抱え、アレイスターの手を離し腰に腕を回して離すものかとスイの体に引き寄せた。
流される中、すぐ隣にはさっきの2人組が溺れそうになりながら見つけたスイ達に手を伸ばしアレイスターの服を必死に掴む。
「……っ! もしかして……雨黙り……の…………魔物?」
視界に捉えたその姿は、なんとも悍ましいものだった。
「…………………………助かった、の?」
流された水に抵抗することも出来ず、そのままだいぶ流された結果、街の一番端まで来ていた。
そこにたまたまあったシェルターに水圧と共に全員雪崩込み、入った瞬間扉がひとりでに閉まったのだった。
水の勢いは止まったが、まだ隙間から水が入って来ていて水嵩は上昇している。
「み、水が! まだ入って来てるっ!!」
真っ青な顔でそう言う2人組のパーティは、扉や窓を指差して言う。
さらに、その窓から雨黙りの魔物がこっちを見ている。
スイはリィンとアレイスターを離して急いで施錠を始めた。
それを見たアレイスターも窓や勝手口等があるかを探して施錠して回っているのだが、リィンは涙目でカタカタと震え窓の外を見つめている。
施錠が終わり水の侵入が止まった瞬間、建物内の水が一瞬にして消えて、残ったのはずぶ濡れのプレイヤー達だけだった。
窓の外にいた雨黙りの魔物も、施錠を確認したらフンっと息を吐き出し向きを変えて違う場所へとワサワサ動いて行った。
「…………ス……スイさん、アレイスターさん」
ぷるぷるしているリィンが2人に必死に手を伸ばしていて、スイとアレイスターが顔を見合せた後アレイスターがリィンの両手をキュッと握り、スイはリィンの隣に座った。
「もしかして、苦手だった?……蜘蛛」
「あ……あんなものは……世界から消滅するべきです……」
ぷるぷるしたまま言うリィンを2人はぎゅーっと抱きしめた。
そうか、それならリィンが動けなくなるのもわかるかな……とそう思ったのだ。
雨黙りの魔物の姿は2匹の巨大な蜘蛛が縦に繋がり合体している姿で、下が移動、上が何故か4本の巨大な傘を持っていた。
その姿が、巨大なずんぐりむっくりな球体に見えたのだ。
「とりあえず、雨黙りの日とやらの回避はこれで大丈夫なのかしらね」
はぁ。と息を吐き出し濡れた髪をかきあげたアレイスターの今までにない色気にスイはドキリとしつつ2人組を見ると、赤い顔をした男性が熱心にスイを見ていた。
スイの水で張り付き体型を全面に出していた、とくに上半身をガン見である。
「……あら、着替えなきゃ。ずぶ濡れだわ」
アレイスターもその視線に気付いたようで、リィンから離れたアレイスターは、マントを脱いでスイをぐるぐる巻きにした。
濡れてズッシリとしているし、冷たいのだがアレイスターの気遣いにほっこりするのだった。




