閑話・ベータ版9
「さぁ、やりますか」
この間死に戻りした敵を前にミリタリーネは呟いた。
あの酒場での話し合いから5日が経ち、パーティメンバーは再挑戦である。
まだハラは俯き気弱だが、そのままダラダラと過ごすのも勿体ない。
ただ、気になる情報が最近多いため、ハラを注視はしていたのだ。
最近になって増えた奏者からの暴動。
パーティから抜ける為に最後のあがきだとでも言うように盛大に暴れてパーティをめちゃくちゃにしているのだ。
しかし、パーティから抜けた奏者は次のパーティーにはなかなか勧誘されない為、ひとりでボーッとしているのをよく見るし、そもそもログインが減っている。
なぜこんな一斉に暴動が起きているのかカガリ達プレイヤーはわからないのだが、運営はなにやら動きがあるようだ。
あれから5日が経過してはいるが、どんな気持ちでゲームや職業に向かい合っていたのかはそれぞれ考える所もあったのだろう。
カガリ自身もこの戦闘までに色々と考え込み街を歩き続けていた。
相変わらずプレイヤー達はギスギスしている人が多い。そんなプレイヤーに自分もなっているのだろか。
結果行き着いた先にはあのセラニーチェとグレンであった。
どんなゲームをしたいのか、カガリはやっぱり楽しみたいのだ。どんな状況でも。
でも、今はどうだろう。
怒鳴り合い罵りあい、負ければ誰かのせいにする。
ギスギスと雰囲気が悪く楽しいとは思えない。
だからこそ余計にセラニーチェ達とすごしたあの夜がものすごく楽しかったのだ。
戦闘を第1に考えるのも悪くない。勝てない敵を考察して再戦するのだってとても楽しい。
でも、それを上手くパーティ内で共有してただろうか。
勝てない理由を押し付けあって楽しくない戦闘を繰り返してきたのではないだろうか。
また今回もあまり話をせずにギスギスしたまま戦闘に来ていたカガリたち。
あんなにコミュニケーションと言っていた筈のミリタリーネは、結局自分の言いたい事を言うだけだ。
「……これはもう、だめだな」
「ん? なんか言った?」
「…………いや」
ミリタリーネは敵を睨み付けながら聞くが、カガリは緩く首を横に振るだけだった。
「っ! もう、少し!!」
力を込めて盾で押しやりながら、敵のゲージをちらりと見た。
すぐに明けの月影が走り双剣で切り付けるが、スピード重視になった武器に火力は足りず少しだけゲージを削るに留まり、ドヤ顔で振り向いた明けの月影はミリタリーネに怒鳴り散らされた。
「なにやってるのよ! 上手くデバフが掛かっているんだから今は陽動じゃないでしょ!」
明けの月影が来た為にシュウが弓スキルで強攻撃しようとしていたのを急いでキャンセルした所だった。
「今は僕の華麗な攻撃の場面だよ! ちゃんと戦況をみなよ!」
敵の体力が削れたのは少しだけ。
しかし、この少しがこの戦闘での敗因になったのだ。
「っやべ!」
カガリはじっと見ていた敵のゲージが緑から赤に変わった瞬間を見た。
目を見開き強く足を踏ん張っていたはずなのに気付いたら体は宙に浮いていた。
「っうわ!!」
ゲージが赤になったという事は、これから敵が荒ぶると言う事だ。
一気に削り取るはずが、まさかのゲージ成り立てで敵があらぶりだした。
敵が禍々しい赤い光を放ち、綺麗な羽を広げて威嚇を始めた。
「ハラ、下がってろ」
「ハラ! デバフ重ねがけしてくれ!」
「ハラ! 回復と防御するからバフして!」
一斉に動き出したが、同時に飛ぶハラへの指示に、クラリネットを震える手でギュッと握ってから息を深く吸い込んだ。
「……っ……あ……」
吹き込んだはずの息はまるで空回りでもするかのようにスカスカとしていて、震える指を動かしても全く音を奏でられなかった。
「ハラ?! 早くして!」
「うわぁ、ミリタリーネ回復早く……」
「無理よ! まだクールタイム終わってないわ!」
「ハラ!!」
「アイテ……ム……ア゛ァ゛ア゛!!!!」
あと一撃で死ぬだろうゲージになった明けの月影の回復にミリタリーネは間に合わなかった。
既にメタモルフォーゼが終わった敵は、梟の姿から立って走る何故か足がある鮫だった。
アタマが2つあり鋭い牙があるのだが、攻撃は短い手から繰り出される往復ビンタで。
その攻撃がえげつなくクリティカルをたたき出すのだ。
「……ヤベェ」
明けの月影は、たまたま身代わりの五寸釘という木に貼り付けられた藁人形のアイテムを持っていた。
効果は戦闘時1回だけ体力1で復活なのだが、効果の際に藁人形が飛び出しぎゃはははは! と笑いまさかの仲間の精神異常を引き起こした。
混乱しているのだ。
シュウは怒り狂い道端の石コロに弓で連続攻撃をし、ミリタリーネは敵に守護魔法のバリアをかけた。
カガリはハラに向かってヘイトを集めるスキルを使い、ハラは何故か靴を脱いで手を合わせて座り込み祈り出す。
「ヵ……カオス」
1人無事な明けの月影は引き攣りながら慌ててカガリの頬を叩き、ハラに飛び蹴りを食らわして、シュウとミリタリーネに転がっていた石コロを投げて頭にヒットさせた。




