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Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷  作者: くみたろう
第3章 温泉と食料と疫病
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閑話・ベータ版9


 あの掲示板を見たあと初めてのログインをしたカガリ。

 周りを見渡すと、一見変わりはなかった。

 しかし異様な雰囲気を出しているプレイヤーもチラホラといる。

 数人グループの中で、1人だけ暗い顔をしている人、1人になりキョロキョロとしている人。俯く人……

 そんな中、ログインしてきたハラが小さく息を吐き出しているのを見つけた。

 最近仲間内からきつく言われ始めていたハラは、今回の掲示板を見てなにか思うところがあるのだろう、ギュッと手を握りしめている。


「……ハラ」


「あ、カガリ……」


 仲良くなり敬称なしで呼ぶようになったハラは、困ったようにカガリを見た。

 どこか不安げに瞳を揺らしているハラに、カガリは何か言うことも出来ずに沈黙した。

 そんなカガリにハラも自嘲めいた笑みを向けるだけで何かを口にする事はなかった。



「で、なにする?」


 いつもと同じ酒場に集まったカガリたちは飲み物片手に仲間たちを見る。

 それぞれ指先を見て弾いてみたり、武器の新しいカタログを見て見たり好きにしているが、やはりハラはコップを両手で持ち何か悩んでいるのか微かに揺れる飲み物を眺めていた。


 どうしようもなくカガリがソッと口を開くと、ミリタリーネは顔を上げてカガリを見る。


「……あのさ、今後の事話さない?」


 その言葉に全員がミリタリーネを見た。


「今後って?」


 カタログをテーブルに置いて明けの月影が言うと、シュウは自分の髪を結び直してから視線だけを向けた。


「正直いってさ、今のままならゲーム進められないと思うのよ。それぞれの職種でさあまりにも上手く立ち回ってないじゃない? 今は……地雷職ってのも掲示板に出てるしさ」


「…………」


「おい、ミリタリーネ」


 ミリタリーネの言葉にハラは更に眉を八の字にして俯くと、明けの月影がハラをバシッと叩き言われてんぞ! と笑い飛ばす。

 しかし、ハラは浮上するどころか床に埋まる勢いで落ち込んでいる。


「あのさ、あたしが言いたいのは奏者が地雷職って言われてるけど、他の職も変わらない位使えないって事! 奏者は攻撃出来なくて守られる立場にあって、さらにその能力であるバフが上手く発動しないし、言い換えれば回復職だってそんなに変わらないし、火力が足りないから倒しきれなくて、壁が弱いから後方にまで攻撃が行くってことよ。全部が足りないのよ、全部が!」


 バンッ! とテーブルを叩くミリタリーネに全員が静まり返る。

 それはカガリ達だけじゃなく、他にも来ているパーティ達も静まり返りミリタリーネを見ていた。


 ハラと同じく落ち込んでいる奏者や、責められている人も居たのだろう。

 泣きそうな顔でミリタリーネを見る人が何人もいるのだ。


「……まぁ、確かに。俺らの力不足は間違いないわな」


「でしょ? もちろんあたし自身も回復が間に合わない時とか結構あったから、人の事強く言えないけど! いや、言ってるけどね?! だけど、個々の力不足だけじゃなくて、コンビネーションもクソ程悪いわ。そりゃ死ぬわよ。それは何も奏者であるハラのせいじゃないわ。ハラをせめるのは筋違いなのよ」


「……ミリタリーネさん」


「だからって! 私達におんぶに抱っこも駄目よ!」


「はいっ!!」


 ミリタリーネの言葉はこの話が聞こえたプレイヤー達の表情も落ち込ませる。

 実際にプレイをして確かに力不足を感じているからだ。


「……じゃあ、どうするのさ。進むために何をするって?」


 枝毛でも探すかの様に髪を触っているシュウを一瞥したミリタリーネは、口を開く。


「今1番すぐに出来るのはひとつよ」


「なになに?」


「コンビネーションの強化と、永続的な自分の職への探求」


「……職への探求?」


 予想外な言葉に首を傾げるシュウに頷いて鋭い視線を向けるミリタリーネ。


「そうよ。自分の職を最大限使いこなす為に試行錯誤しろってこと」


「たとえばどうやって?」


「道具や武器の整備は勿論、スキルの効率的な使い方や新しいスキル発見のヒント探しとか。体の使い方の研究や職業の違いや立ち回りの再確認とか……やり方は色々あるでしょ」


「……じゃあ俺は?」


「自分で考えなさいよ!」


 爆発するミリタリーネにぎゃ! と飛び上がる明けの月影。

 こっそりミリタリーネの話を聞いていたプレイヤー達はコソコソと店を出て行った。



 ベータテストはそんなに長い期間はやらない。

 あくまでゲームチェックのように楽しむ期間と公式サイトに出ていた。

 しかし、楽しむ前にこのままなら終わってしまう。

 カガリも楽しくこのベータテストを終わらせたいのだ。

 どうするべきか、と皆がバラバラに動きだした中でカガリも1人街中を歩き出したのだった。


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