閑話・ベータ版3
初心者の森で跳びうさぎに会ったのは散策を開始してから10分が経過してからだった。
その間、戦闘時のスキルモーションや、動きを確認する。
盾職であるカガリの装備は勿論盾である。
初期装備の盾は、自身の八割程の大きさをしていてあまり飾り気のない無機質な物だった。
重さはどんな人でも持てるように作られているのか非常に軽い。その為受ける際の強さや反動なんかはどんな感じだろう、と首を傾げる。
「まぁ、初期装備だしな」
片手で持つには多少重さを感じる盾をしっかりと持ち、1度突進をする。
走るよりもかなりのスピードが出る突進は、周りに障害物がない場所を選んだにも関わらず思った以上に進み木に激突した。
「っっ!ビビった…なるほどこんな感じか。にしてもすげぇな、リアルで動いてるのとマジで違和感ねぇ」
木にぶつかるが盾でしっかりガードしている為けがやダメージはなかった。
盾を指でコンコン、と軽く叩いた後カガリはいけそうだな……と呟き跳びうさぎを探し始めた。
「……いたな」
程なくして草むらの影で丸まりモグモグと口を動かす跳びうさぎを見つける。
まだこちらに気付いていない跳びうさぎは呑気に草を食べていた。
食べているその周辺は草が無くなりかなりの量を食べているのが窺える。
めっちゃ食うじゃん……と心の声での独り言を言ったあとカガリは軽く息を吐き出してから立ち上がった。
すぐに突進を使い跳びうさぎに体当たりをくらわせようとするが、最初の立った時に聞こえた草を踏みしめる音に反応した跳びうさぎはすぐに横に跳び数本の木を足場に回避する。
「は……?」
思っていた以上の素早い動きに目を瞬かせている間に横腹を跳びうさぎが蹴りつけてきた。
そのまま吹き飛ばされ地面に倒れ込むカガリ。
目を白黒させながらも何とか立ち上がり跳びうさぎを見ると既に次の攻撃のモーションに入っていた。
慌てて盾を構えたことで直撃は回避される。
小さい為か、盾職の為元々体が頑丈なタイプだということと、最初のポイントを体力と腕力に気持ち多めに振ったからかわからないが、そこまでダメージは受けていないが、それでも2割は食らっている。
「え、初戦から死にゲーじゃね?」
好戦的な跳びうさぎは足を軽く振る動作をしながらカガリを見下すように見ていた。
可愛らしい見た目とは真逆の目付きをしている。
そして、跳びうさぎの足が小さく光った。これは何らかのスキルが発動する前触れ。
カガリはそのスキルを解除するべく跳びうさぎに突進すると、跳びうさぎは高くジャンプして真上からカガリを見下ろす。
そしてニヤリと笑った跳びうさぎはクルクルと回り勢いを付けながらカガリの頭にその小さな足を炸裂させる。
クリティカルヒット!!
ダメージを受けた時に現れたクリティカルヒット! と書かれた可愛い丸文字に、星が舞飛ぶエフェクト。
それが異様にイラつかせるのだが、その攻撃力はかなりのものだった。
ダメージを一気にくらい残り体力は2割を切っている。
「……まじかよ」
頬から冷や汗が流れて地面に吸い込まれていった。
戦闘開始早々に小さなうさぎにやられる、これはガチでやられる。
まじかよ……えぇ……
頭の中では困惑でいっぱいだが、呆然としてても死に戻るだけ。
カガリは必死に体を動かしてどうにか起死回生を図るが、頭に浮かぶイメージは死に戻りばかりだった。
「くっ……」
跳びうさぎのスピードは早いが目で追える。
だが、そのスピードに肝心の体が追いつかないのだ。
不思議とそこまでの恐怖はなく、ただ繰り出される跳びうさぎからの攻撃力をガードするだけ。
それでも勿論体力は削られる。
「回復薬飲む余裕……ねぇ」
ガキィィン! と盾にあたる跳びうさぎの足、その柔らかくもふもふとした足から聞こえるはずも無いような鉄と鉄がぶつかり合う様な重苦しい音が響いた。
「いや、音………っっ!!」
弾いたはずの跳びうさぎがいつの間にか目の前に現れた。
目を見開き盾を持つ手に力を込めるが、眼前に現れている可愛い小さな足を防ぐ事はカガリには出来なかった。
初戦の相手は跳びうさぎ。
カガリは防戦一方のまま起死回生の一手を打つことも出来ないままに跳びうさぎからのノーマルなキックによって叫び声を上げながら噴水広場に死に戻りしたのだった。




