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Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷  作者: くみたろう
第3章 温泉と食料と疫病
212/268

ペットショップへ 2

大変お待たせ致しました。

1階のペット用ご飯やおやつ、おもちゃ等をカートに入れたまま2階に上がろうとした時、不意に見つけた真っ赤なリボンが目に付いた。

少し考えてからそれもカートに入れてご機嫌にカガリの後を追う。


向かう先はカットスペースだ。

ペットの数が増えたが、カットルームは1つ増えただけでまだ混雑している。

整理券を取って中央の椅子に座り、その間にあるドッグランにもふもふと茶太郎を放したスイたち。


降ろした途端に走り出して遊んでいる二匹にカガリもホンワカとしているのを見て、やっぱり犬好きに悪い人は居ないよね! と頷く。


普段一緒に出かけないカガリとのお出かけにちょっと緊張するかなと思っていたが、思いの外楽しめたスイ。

やっぱり同じ趣味を持ってる人と話すのは楽しいなー、とふわふわした気持ちでもふもふたちを見ていた時だった。



「え、と……カガリくん?」


「あ?…………お前……」


急に呼ばれたカガリの名前に一緒に反応して振り向いたスイ。

真っ赤な短髪に緑のバンダナをしたその人は思わず声を掛けたみたいで自分でも驚いているのか目を見開いていた。

そして申し訳なさそうに顔をゆがめて目線を外す。

カガリは眉を寄せてそんな彼を見ていたが誰か分からず首を傾げた。


「だれだ?」


「え………と」


「? 知り合いじゃないんですか?」


「いや、知らねーな」


スイは不思議そうに首を傾げたあと、あ! と手を叩いて人差し指を立てた。


「フェアリーロード加入は募集してませんよ?」


装備からして前衛職だろう彼に言うと慌てて彼は両手をパタパタと振り否定した。

その様子にカガリはさらに眉を寄せる。


「お前、まさかハラ……なのか?」


「っ! う……ん」


2人の不穏な雰囲気にスイが居心地悪そうに身をよじると、何かを察したのかもふもふと茶太郎が近づきスイに寄り添ってくれた。


「(マイ癒し達よ!! 愛してる!!)」


「きゃん!」


もふもふを抱き上げてお腹にグリグリと顔を埋めるスイにもふもふは遊んでもらっていると思ってるのか嬉しそうにしている。

茶太郎は豊かな尻尾をスイの腰に回していて、その尻尾もスイは鷲掴みして毛並みを楽しんでいた。


「ハラ、お前………」


「わ、わるかった!! あんなことして!」


「……………………」


90度に腰を曲げてカガリに謝るハラ。

何かを言いかけたカガリは口を閉じてハラを見る。


「俺、あの時どうしても職を使いこなせなくて、皆について行けない惨めさとか悔しさとか、レベルも圧倒的に弱いから、本当に役立たずで……そんな俺自身が許せないのと同じくらいに………皆も………許せなくて」


「……………………」


「俺、だから皆がもう死に戻り確定って時に……全員のアイテムとか装備とか……持って逃げた……皆が死ぬ所を俺は生き抜いた、そんなちっぽけな優越感とか普段戦利品も貰えない事へのはらいせ、とか……今更謝っても遅いってわかってる! でも、謝りたくて……本当にごめん……ごめんなさい!」


もふもふを堪能したスイは茶太郎に飛び掛り大きなわんこ! と悦に浸っている。

それにもふもふもダイブ。

茶太郎はそんな1人と1匹にも負けずにどっしりと支えた。


「(茶太郎さん! 男前!!)」



「…まぁ、そんなこったろーと思ったよ」


「………………」


「確かにあの時、奏者は完全な地雷職だったよな。だからってβテスターでは職の変更は出来ねぇから奏者を選んじまったら最終日までつまんねーゲームをし続けなきゃいけねぇし。まぁ、後から色々調べたけど、卑屈になるのはわかるよ」


「……カガリ……」




茶太郎の男気を感じていると、他の犬達も近づき一緒に戯れだす


「(ここは天国ですね! わかります!!)」



「怒ってないの……?」


「そりゃ怒ってたよ、当たり前だろ? 預けてたアイテムとか装備全部俺らが死に戻りする時に囮にして持ち逃げしやがったんだから」


「っ!………そう、だよね」


「だがよ、」



『プレイヤースイさん、プレイヤーカガリさん。カットルームへお越しください』



放送が流れ、カガリは「お……」と小さく声を上げた。


「だが、まぁ……もう過ぎた事だし今更グダグダ言ってもどうにもなんねーだろ。それに、最初は奏者ってだけで嫌悪感あったんだがこんな型破りの奏者見てたら、もうどうでも良くなったわ」


親指でスイを示すカガリに合わせてハラもスイを見ると、腕にもふもふを抱いて足元には茶太郎。尻尾は足首に回っている。

他にも肩に猫、頭に兎、背中に爪を立ててぶら下がる茶トラ猫。

周りにはもっとうじゃうじゃと動物が集まっていて、カガリはヒクヒクと口端が動く。


「なんだこれ! 動物触れ合い広場かよ!」


「あながち間違ってません!」


「そうだな!!」


「……うわぁ」


目をランランとさせたスイはカガリを見ながらカットルームを指さした。


「お話し中ごめんなさいですけど、呼ばれたから先に行きませんか?」


「おぅ、そうだな。ハラ、ちょっと待てるか?」


「は、はい!」


ビクッと肩を揺らしながら返事を返すハラ。

急に呼ばれてびっくりしたのだ。


「よし、スイ行くぞ」


「はーい!」


2人がカットルームに愛犬を預けるその後ろ姿を見て、ハラは複雑そうな顔をしていた。






「またせて悪いな」


「いや、大丈夫」


スイは2人の様子を見て、またそっと離れていった。

そんなスイを見てからカガリはハラを見る。


「お前さ、ずっと後悔してたのか?」


「あ……当たり前だろ!」


「だよなぁ、お前は人一倍優しかったから。だからこそあんなことしたお前に凄く驚いたし怒りが込み上げたよ。なんで、どうしてってさ」


「………」


「でも、まぁ話聞いてなんとなくわかった。お前が前衛職になってる理由もな」


「カガリ……」


「俺だってリーダーだったんだ。メンバー全員見てたよ。もちろんお前の事もな」


「! ごめ………ごめん!」


「もういいって」


泣き出したハラの肩をポンっと叩いて笑うカガリに、ハラは涙で濡れた目でじっと見つめた。












「スイ!」


「はぁーい!」


また触れ合い広場と化したスイの周りに呆れながらも呼ぶカガリ。

バイバイと手を振ってから早足でカガリの元にたどり着いたスイにカガリは軽く謝った。

放置してて悪いな、と。



「いいんですよー、それよりゆっくりと話出来ました?」


「あぁ、紹介するわ。こいつベータん時のメンバーだったハラ。今は前衛職だ」


「そうなんですねー! 私スイです! 奏者やってます!」


「ハラです。……スイさん、奏者楽しい?」


「もちろんです! 弾くの大好きですから! 楽器も好きで、見てください! この動物をモチーフにした……」


「はいはいはいはい、楽器は出さんでよろしい」


「えー」



ハラに見えるようにリスのヴァイオリンを出そうとするスイを止めるカガリ。

不満そうな顔をするが、すぐに笑ってハラを見た。


「よろしくお願いします」


「あ、こちらこそよろしく」



慌てて差し出された手を握ったハラに、スイは満足そうに頷いてカガリを見た。



「じゃあ、迎えに行って帰るか」


「カガリさん、ハラさんいいんですか?私1人で帰りますから遊んで来ていいですよ?」


「いや、フレンド登録したからいつでも会えるしな。また今度クエストでもしようぜ」


「! うん、楽しみにしてるよ」



相変わらずの5分カットで愛犬を受け取った2人は、同じく愛犬を受け取ったハラと別れて帰路に就いた。



「奏者……か。本当はちゃんと奏者を使いこなしてベータテストが終わったあとも奏者としてカガリと遊びたかったんだけど……な」


残念そうに呟いたハラはキラキラと星が舞うシュナウザーを歩かせながらスイ達とは反対方向へと歩き出した。






「まさかまさか! 昔のカガリさんのフレンドさんに会うとは運命ですね」


「運命って、んな大袈裟な」


「大袈裟じゃないですよ? だってこのゲームの人数とか考えると、ベータの時と姿が違うなら尚更、約束とかしてない限り会う確率なんて極めて低いじゃないですか。それなのに会えるんですよ? 凄く凄いじゃないですか」


「まぁ、そうだな」


もふもふの走りについて行き少し前を走っていたスイが振り向く。


「カガリさん。良かったですね」


「え?」


「なんだかスッキリした顔してますよ」


「……あぁ、そうだな」






…………心に残ってたしこりが取れたよ。



カガリは嬉しそうに笑った。

その顔が今まで見たことないくらいに優しい顔をしていてスイは目を丸くしてから慌てて前を向いた。



「(な、なんだか見ちゃいけないのを見た気分だわ)」






今回、ベータの時のカガリのフレンドが現れました。

ですので、今まで出てこなかったカガリの過去が次回閑話として書こうと思います✧ ( °∀° )/ ✧

よろしくね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 11ヶ月…これは、もはや自分の記憶力との戦い。
[良い点] シリアスしてる背後のスイちゃん、君のせいでシリアル半分って感じですよ?www [一言] お久しぶりです!! 色々と、えぇ色々と在って心配でしたが無事と判り安心してます( ˶˘꒳˘˵ ) …
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