カガリの憂鬱
時は少し遡りここは酒場の2階。
クエストに向かう5人の背中を見送ったフェアリーロードたちはそれぞれ複雑な気持ちを抱えていた。
「奏者……か」
「奏者、特に嫌いよね」
カガリは大きなため息を吐き出して呟き、セラニーチェが頬付をつきながら言った。
「……βテスターで奏者を好きってやつのがすくねぇだろ」
「……まあねぇ」
βテスターであるここフェアリーロードのメンバーは等しく奏者へあまり良い感情は無かった。
特にカガリには如実に表されている。
(なんで! なんでだよ!)
仲間たちはどんどん倒れ血の海が広がり体力ゲージが急激に減っていく。
もちろんそこにはカガリ自身も含まれているのだ。
急激に落ちる体温に、薄れる痛み。
そして、震えて逃げる仲間の背中。
カガリは落ちていく意識の中、血が出るくらいに手を握りしめた。
次に目が覚めた時、逃げた仲間はもう姿は現さなかったし同じく死亡した仲間たちは仕方ないよな、と言いながらも悔しさを隠しきれない表情をしていたが、やりきれない気持ちがカガリを支配した。
「でもさぁ、カガリちゃん?」
「………あ?」
「もしもね、奏者が地雷職でなかったら、素晴らしいわよね」
二人の会話に混ざってきたアレイスターは笑い声をちいさく立てながら言った。
「どのゲームにもバフって大事よね。特にこのゲームにはバフは今いないんじゃないかしら。そんな子が、使える強い子がいたら……それは素晴らしいことよね」
カガリが飲んでいたエールをコクリと飲んでまたねー、と手を振るアレイスターは言うだけ言ってログアウトして行った。
「アレイスターの言う通りね」
チラッとカガリを見て言うセラニーチェに、渋々頷くカガリ。
「……別に使えるならいいんだよ……」
ため息混じりに言うカガリに、セラニーチェは苦笑した。
カガリは面倒見の良いお兄さんタイプの人だ。
だからこそスイに言ったのは本音だが、キツめの言葉を言ってしまった事を気にしているのも事実。
あー………と頭をガリガリ掻くカガリに、セラニーチェは声を上げて笑うのだった。
「………あと、セラ」
「なぁに?」
「……今回の事でフェアリーロードへの加入希望がくるかもしれない」
「……そうね、わかってる。………少ない人数でワイワイしたいわ。人数が増えたらその分だけ亀裂を産みやすいもの」
「それは全員同意見だろ。だから仮加入であって、切り捨てられるようにした。その後の対応もしないとな」
「えぇ。…………切り捨て……か、出来ればしたくないわ」
「俺だってだ。…………今回は特例、次からは無い」
「……えぇ、わかってる。スイちゃんでしょ? リィンちゃんのあの様子に負けたわぁ……やっぱりクラメンには甘くなるわね」
「みんなにちゃんと言わないとな」
2人は加入した2人の事を話していた。
あまりにも突然に入った2人に仲間とはどうしても見れなかった。
だから、仮加入にして最悪切り捨てるように。
もちろんカガリだってセラニーチェだってこんな事したくない。
だから、特例は今回だけ。
今後職が必要なら全員でちゃんと話をして納得いく形での加入にしようと。
2人は深くため息を吐き出した。