堕天使クエストの結末
結局クラーティアの腐のパワーの威力に押されたフェアリーロードは、「…………まあ、いいか。リィンに変わりはないし、今さら性別が違いましたーってなってもどうにもならないし。むしろ運営遊びすぎ」
と、まぁいいか。に落ち着いた。
タクはやはり天に祈っていたが、女神様バンザイと言っていたので大丈夫だろう。
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「………さて、行きますか」
街を出たスイは迷いなくマップに記されている場所に向かって行った。
それは以前発見した大きな御屋敷。
まだクリアになっていない堕天使クエストだ。
「………あの執事さんが言ってたのは疫病がどうなったのか、だったよね。以前の内容に今回の事を話せばいいのかなぁ」
うーん……と悩みながら向かってくる敵をハープで吹き飛ばしていった。
バフが掛かっていなくてもハープが強い為軽く吹き飛ぶ敵たち。
たまに人魚が、ふふふふふふ………と笑っていたり敵が現れた時に歌い出したりする。
その歌を聴いた敵達は魅了されてフラフラと動く。
そんな敵をじゅるり……と見る人魚にスイは頬を引き攣らせた。
まってまって、この人魚大丈夫?
綺麗なのにバケモノじゃない………あ、人魚だからか。
なら仕方ない。
ぐへへへと笑いだした時には敵が、ビクリと体を跳ねさせて後ずさっている。
うわぁ……と、そんな人魚を見ながらも先に進んだ。
「ようこそお越しくださいました」
大きな玄関が開き優雅に頭を下げる骸骨バトラー。
しゃれこうべがカタカタと音を慣らした。
あの時見た姿と変わりない骸骨の姿をした執事は顔を上げてスイを室内に招き入れた。
「またお会いできて光栄です」
温かな湯気が立ち上るカップを見つめるスイ。
骸骨の姿をした住人しか居ない今、この温かな紅茶を飲む人は居ないはずなのに磨きあげられたカップに入っている紅茶は真新しく芳醇な香りをしている。
買い付け先など無いだろうに、どうやって用意しているのか。
やっぱりゲームだからかな……そう考えながらゆっくりと紅茶を1口飲み込んだ。
「……おいしい」
「ようございました」
人の姿をしていたらきっとふわりと笑っているのかな、そう感じるほどに骸骨バトラーの雰囲気はとても優しかった。
「今日はどういったご要件で?」
「以前、話していた疫病について色々と調べて来ました」
カチャリと音を慣らしていたカップを置き、真っ直ぐに骸骨バトラーを見る。
スっ……と雰囲気が変わったのがわかった。
背筋を伸ばしじっと骸骨バトラーを見ると、数秒スイを凝視した後「……さようですか」と、掻き消えそうな声で答えた。
「…………客人か?」
「旦那様」
入ってきた扉の正面にある大きな扉がゆっくりと開き、杖を突いた骸骨が現れた。
旦那様と言われていたので、この人がこの館のあるじなのだろう、なるほど綺麗な身なりをしている。
黒の綺麗な服を身にまとい金の鎖が着いたブローチでジャケットをとめている。
足を引きずりながら現れたその人は、靴と杖のコツコツと床を叩く音を鳴らしながらスイとは対面にある席に腰掛ける。
「このような姿で悪いな、お客人」
「い、いえ! お邪魔しています!」
「ああ」
座った主人のテーブルにサッと出された紅茶。
それを骨の指が掴み口元に運んでいく。
(飲むの!?)
妙な緊張感を感じながら固唾を飲んで見守った。
傾いたコップから流れる液体は、骸骨の口に当たる場所を伝ってどうやら体内に吸収されているようだ。
スケルトンの中に飲み物が入り食道を通って落ちていってる様子を複雑な気持ちで見つめていた。
「それで客人よ、一体何用でまいったのだ?」
コップを置き主人が真っ直ぐにスイを見ながら言うと、コクリと喉をならしたあとスイは口を開いた。
「………あの……」
スイは話し出した。
200年前の疫病がどうやって始まり終息したのか。
そしてまた、今回同じ疫病が蔓延し死者が出たことも。
その元凶を倒した為もう疫病は流行らないだろうと言ったスイに、主人は長くため息を吐いた。
軽く俯くその姿は肖像画の彼と重なって見える。
「………そうか」
小さく何度も、そうか……と呟いた主人は俯き自分自身を納得させるかのように言った。
膝の上で固く握りしめた手の骨がパキ……と軋む音がする。
実際にはないのだが、強く目を瞑っているのだろう俯くこの屋敷の主人の声には後悔が滲み出ていた。
「…………昔は仲がよかったのだよ」
「………え?」
「人一倍、優しい子だったのだよ。体の弱い私を気遣い外で遊びたいだろうに常にそばにいてくれてね。両親の愛情を受けていないのを伏せっていることが多かった私にはある程度年を重ねてから初めて知った……。誰かの愛情に縋りたかったのだろう、私から離れなかったのもそうなのだろうね」
「…………え? おとう……と?」
俯きがちだった主人はゆっくりと頭を上げた。
その瞬間、骸骨だったのその姿に肉がつき綺麗な顔が真っ直ぐにスイを見る。
銀髪の揺蕩う髪が顔にかかるのを静かに払った。
あの、肖像画と同じ顔が真っ直ぐにスイを見る。
「おかわりをどうぞ」
「あ………りがとう………ござい……ます」
ふわりと笑う黒髪の美しい青年は燕尾服を綺麗に着て緩く頭を下げた。
新しく入れ直された紅茶を促され両手に持ったままスイは硬直する。
「……あの子は唯一愛情をくれる私に依存していったよ。そう、私に婚約者が出来るまで。………きっと愛情を与えていた私が他に目を向ける事に恐怖を感じていたんだろうね。1度言われたよ………兄さん……僕はどうすればいいの?……って。そんなにね、深く考えて居なかったのだよ。ただ私に懐く可愛い弟にしか思っていなかったから。だから、自分の為に生きたらいいと言ったさ」
「………自分の為」
カチャリと音を立てて紅茶をのむ主人は困ったように笑った。




